2023年ノーベル生理学・医学賞予想
まずは直近のノーベル生理医学賞受賞者を振り返る。
2021年は温度や触覚を担う受容体を発見した功績でDavid JuliusとArdem Patapoutianが受賞した。David Juliusは的中。
2022年はネアンデルタール人などのゲノムを解読した実績でSvante Pääboが単独受賞。ヒトゲノムプロジェクトを飛ばしての受賞には驚いた。ヒトゲノムが大規模な国際共同プロジェクトであったために、個人を選出するノーベル賞からは外されたのかもしれない。
さて、ここで今年のノーベル賞受賞者が誰なのか考えてみる。生理学・医学賞は慣例的に基礎よりの分野と臨床よりの分野から交互に受賞者が選ばれる傾向にある。2021年は文句なしで基礎よりだろう。一方、2022年を臨床よりみるか、微妙なところ。典型的な臨床系ではなくイレギュラーな年だったとも考えられるので、今年は臨床よりを中心に基礎系も混ぜつつ予想。
パンデミック終息に貢献したmRNAワクチン開発に対して
Katalin Karikó, Drew Weissman
WHOが新型コロナウイルス感染症COVID-19の緊急事態終了を宣言した今年は、mRNAワクチンの研究を牽引した両博士が本命。ノーベル賞以外の主要な賞は既に受賞済み。満を辞して選出か。
Pieter Cullis, Malik Peiris
ノーベル賞の枠は最大で3名。コロナウイルス関連でもうひと枠受賞者がいるとすれば、CullisかPeirisのどちらかだろう。Cullisは脂質でできた粒子で薬剤などを梱包する方法を確立した。この技術はmRNAワクチンにも応用され、世界的な医学賞であるガートナー国際賞をKarikó、Weissmanとともに受賞。Peirisは世界ではじめてSARS-CoV-1を単離したことで知られ、SARS-CoV-2の研究においても中心的な役割を担った。
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発見および加齢黄斑変性の治療法の開発にに対して
Napoleone Ferrara, Donald R. Senger
FerraraはVEGF遺伝子のクローニングに成功し、2010年のラスカー臨床医学賞を受賞。そろそろノーベル賞を受賞してもおかしくない頃合い。VEGFの発見者であるSengerも同時受賞する可能性がある。
小胞体ストレス応答の解明に対して
森和俊、Peter Walter
基礎分野の本命は小胞体ストレス応答の分子メカニズムを解明した両氏を選んだ。両氏とも主要な医学賞をことごとく共同で受賞しており、残りはノーベル賞を待つのみ。森和俊博士は京都大学特別教授。
肥満のメカニズム解明に対して
ノーベル賞、ラスカー賞に次いで権威があるとされるウルフ賞の受賞者から候補者を選ぶなら、次の二人か。
C. Ronald Kahn
Kahnはインスリンのシグナル伝達機構と疾患との関連を研究して2016年にウルフ賞医学部門を受賞。
Jeffrey M. Friedman
Friedmanは食欲を調節するホルモンであるレプチンを発見し2019年にウルフ賞医学部門を受賞。
PI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路の発見に対して
Michael Nip Hall, Lewis Clayton Cantley, Stephen Staal
PI3K, AKT, mTORはいずれもセリン・スレオニンキナーゼ(タンパク質などにリン酸を付与する酵素)で、栄養シグナルに応答して細胞周期など様々な細胞現象を調節するシグナル伝達経路を構成。いずれのキナーゼもガン治療の重要な標的となる。
Michael Nip Hallは1993年にmTORのクローニングに成功。ちなみにGeorge LiviもHallとは独立にmTORのクローニングに成功したが、論文出版がHallよりも5ヶ月遅れ、ラスカー基礎医学賞はHallの単独受賞。
Lewis Clayton Cantleyは1985年にPI3Kを発見。ガードナー国際賞をHallと共同受賞。
Staalは1987年にAKTを発見。主要な受賞歴はないが、AKTの最初の発見者として大穴で選んだ。