2023年ノーベル化学賞予想
2023年のノーベル生理学・医学賞の受賞予想はあたったが、大本命を的中させてもつまらないので化学賞を予想していこうと思う。
化学賞の半数近くは生化学、分子生物学あるいはこれたの分野に貢献する技術に対して贈られている。ところが直近2年は生化学分野は選ばれていないため、そろそろ選ばれる頃合いだろう。生化学分野に山を張って(無論、合成化学や物理化学は著者にはわからないのだが)予想していく。
神経活動の操作を可能にしたオプトジェネティクス技術の確立に対して
2010年にNature誌の「Method of the Year」に選ばれたオプトジェネティクス自術の開発に貢献した研究者を抜粋。この技術に関与した研究者は数多く、選別に苦労したが以下の3博士を候補に選んだ。
Karl Deisseroth, Peter Hegemann, Gero Miesenböck
Hegemann博士は海洋微生物からチャネルロドプシンを発見した。Deisseroth博士はチャネルロドプシンが神経科学を研究する上での有用なツールになると確信し、遺伝学を用いて実装することに成功。オプトジェネティクスの名付け親でもある。Miesenböckはこれを生きた生体に応用し、光を用いて個体(ショウジョウバエ)の行動を操作することに世界で初めて成功した。
薬剤を狙った標的に投与する技術の開発に対して
生化学から少し外して、医学に貢献した化学技術から選出。
Robert S. Langer
Langer博士は薬物をガン細胞などの標的に狙い撃ちで届けるドラッグデリバリーシステムの発明者。現在、世界最高の天才科学者の一人といっても過言ではない。総被引用数は359953回で存命の研究者の中では世界3位にランクイン。H-indexは297をマーク(少し補足すると、この指標から彼が297回引用された論文を297本もつことを意味する)。
遺伝子発現を制御するDNAメチル化の研究に対して
Howard Cedar, Aharon Razin
両博士は遺伝子発現を制御する仕組みであるDNAメチル化の理解に大きく貢献し、ラスカー国際賞など多数の賞を共同受賞している。
Gary Felsenfeld, Adrian Bird
ノーベル賞は最大で3名が選出される。Felsenfeldは約半数がノーベル賞に選ばれるとされるルイザ・グロス・ホロウィッツ賞をCedar、Razin両博士と共同で受賞。Bird博士はメチル化が顕著にみられるCGアイランドの研究者で、ガードナー国際賞をCedar、Razin両博士と共同で受賞している。
光合成複合体構造の研究に対して
神谷信夫、沈建仁、Nathan Nelson
幾度となくノーベル化学賞の受賞対象に選ばれたタンパク質の構造解析からは光合成複合体を選んだ。神谷博士と沈博士は兵庫県にある実験施設で光合成複合体の立体構造を解くことに成功した。
RNAとタンパク質の機能不全に着目した治療戦略の確立に対して
Chuan He, 菅裕明, Jeffery W. Kelly
2023年のウルフ賞化学部門を受賞。He博士はmRNAの転写後修飾の研究、特にRNAメチル化の研究でしられる。菅博士はtRNAに非天然アミノ酸を結合させる技術を開発し、遺伝子暗号の拡張に成功。Kelly博士はアルツハイマー病など多数の神経疾患との関連が指摘されているアミロイド繊維の研究者。