見出し画像

佐野風史 / 早田仁知 「[🌊☔️🚤] (滞在まとめ)」

 みなさんこんにちは、10月28日から11月3日まで、静岡県の白須賀周辺を探索していた 佐野風史 / 早田仁知 です。

 私たちは、「音象徴」を切り口に、聴こえてくる音を言語音に変換すること、そしてその音(おん)を再構成したときに立ち上がる情景を探究するPhonoscape Projectという活動をしています。 Phonoscapeとは言語音によって作られる音の風景のことです。

 これまでのnoteでは、毎日の振り返り的にnoteを書いていましたが、今回は、滞在のまとめとして、白須賀滞在で印象的だった音の風景、あるいは、Phonoscape Projectの舞台になりそうな地点を記述していきます。白須賀に訪れた際はぜひこれらの地点に訪れてみてください。

──────────────────────

<白須賀海岸>
 白須賀海岸の海は、なかなか波が強い。強く、長い。波の音は「ざぶーん」となっているわけではないことをひしひしと感じることができるのがこのスポット。手前まで伸びてくる波は、軽く薄い音を纏っていて、奥の方には分厚い波が力強い音を運んできている。そしてそれらの間には、小さな波がゆらぎをもって、様々な地点で音を立てている。後ろからは、波の音が壁にあたって返ってくる音がうっすらとなっている。あるいは、人が歩く音が鳴っている。車が走る音が聴こえる。少し落ち着いて立ち止まると様々な音に包まれていることが分かる。


白須賀の海

<ビオトープ白須賀>
 雨の中、ビオトープ白須賀。たくさんの植物や生き物が守られている場所。雨の日は、同じ場所でもいつもとは異なる音風景を聴くことができる。土が水を含んで、その上を歩くと湿った音がする。ビオトープ内の水場には、雨粒が水面に入る音がする。豊かな緑の葉に雨粒が当たる音がする。葉っぱの種類や大きさなどで音が違っているかもしれない。傘を持って歩くから、常に傘に雨が当たる音を聴いている。水路の水がいつもより多くなるから、水が流れる音が微かに聴こえる。雨の日は外に出る気分になかなかならないけれど、外に出てみると結構面白い音がたくさん溢れてることに気づく。


ビオトープ白須賀

<潮見坂から海を見る>
 東海道を西の方から歩いてきて、急に視界が開けて大きな海が目の前に広がる、といわれていた潮見坂。この、ちょうど海が見える地点に立ち、周りの音に耳を澄ませてみると、そこはユニークな音の風景が広がっている。目の前に広がる海からは、直接的には波のような音は聞こえてこない。しかし、一つ一つの波がつながって轟音となって鳴り響いているのがわかる。右に耳をすませばそこには竹林があり、左には林がある。後ろは道路。車が来たり、人が通ったり、もっと後ろにはおんやど白須賀があり、小中学校がある。様々に注意を向ける先がある地点であり、今と昔がつながる地点でもある。ここで、私たちに聴こえている音を言語音に変換すること(Phonoscapeをつくること)は、昔と今がつながるだけではなく、そこを通る人たちにどのように音が聴こえていたか、ということを未来に残すことにもつながるはずだ。


潮見坂

<あと引せんべい>
 白須賀の隣の新居(あらい)という町には、「あと引せんべい」という名物がある。あと引は漢字で「阿登引」と書く。由来は、あと引く美味さのせんべい、という非常にストレート名前の付け方。味の種類はプレーン・海苔・ごま・生姜があり、本当に「あとが引く」ほど美味しい。ただ、なんといっても1番の特徴はその硬さ。普通のおせんべいよりも分厚くてかなり硬い。噛み砕く音も大きくて頭に響く感じかする。バリバリ、というよりは、バキバキという感じだ。だからといって食べにくいというわけでもなく、むしろ食べ応えがあるくらい。口の中にも音は溢れている。


あと引せんべい

<白東館付近地下トンネル>
 地下トンネルは端から端までの音の反響が楽しめる。目には見えないのでそこで、音の遅延が発生するとは最初は気づかないかもしれないが、とりあえず手を叩いてみると分かる。服を叩いてみると分かる。タン...タン...と遅れて音が聴こえてくる。


地下トンネル

<豊田佐吉記念館>
 豊田佐吉記念館では人力織機を使った機織り体験ができる。木で作られているから、人力織機の部品同士がカタンカタンという音を響かせる。実際、人力織機をうまく使うにはリズムが大事になる。「踏む→押す→トン、トン」というリズムを刻みながら、布を織っていく。まるで人力織機が打楽器のようになる。かつて紡績会社の工場がたくさんあった頃は、木製の人力織機の奏でるリズムが街中に響いていた。


人力織機

<浜名湖の船着き場〜浜名湖の中>
 シラスカリフォルニアの会合に参加させていただいた後の、思いがけない浜名湖での釣り。白須賀から車を走らせて、船着場へ着くと、僕らがなかなか聴かない音──例えば、船同士が軽くぶつかる音とか、波が船に当たる音とか──が鳴り響いている。ゆらゆら揺れる船に乗り湖の上に出ると、そこでも新鮮な音がたくさん鳴っている。船のエンジンの音。釣り竿の錘が水に落ちる音。魚が湖面から跳ねる音。クルーズ船が波を立てる音。湖と密接な場所に住んでいないと、なかなか聴くことのできない音。川の音でも、海の音でもない、流れが穏やかな湖だからこその音風景が広がっている。


浜名湖

 この6泊7日の滞在で、たくさんの白須賀らしい音に触れ合うことができた。海の音は場所によって聴こえ方が全然違うこと。湖の音にはなかなか馴染みがないと気づいたこと。人力織機や船たちが鳴らすリズミカルな音。きっとこの滞在のおかげで、僕たちの「言語音に変換すると面白そうな景色の音」を拾う力も幅広くなっただろう。

 また、白須賀の景色を「聴きに」行きたいと思う。

いいなと思ったら応援しよう!