鈴林まり「滞在まとめ_沼津市白銀町_Artspace入サ岩﨑商店」
私、〈鈴林まり〉は2012年より
静岡県立の劇団
SPAC-静岡県舞台芸術センターで
舞台俳優として活動しています。
このレポートでは、
2024/8/31〜2024/9/6
沼津市白銀町
〈Artspace入サ岩﨑商店〉さんでの
滞在について報告いたします。
2024/8/31
到着、初めて建物に入る
同ギャラリーの空間に足を踏み入れ
居心地のよさにびっくりしました。
家業・家族のために建てられたビル
仕事と暮らしの場として生きていた建物が、
そこに宿った文化とともに
外部に開かれ、
いわばオープンソースとなる
ダイナミズムに圧倒されました。
2024/9/1
西浦・戸田〔へだ〕ドライブ
佐々木千彩美〔ちあみ〕さん・勇希さん
ホストお二人によるコーディネートのもと、
車で沼津南へと足を伸ばしました。
バーとして長年愛されたバス車両を継承し、
海辺で営まれるchill out space
五感で触れる静けさ
無理だと言われても無農薬に挑戦して
できた!と、みかんを育ててきた積み重ね
流通に乗せず、顔を見せて作物を売ること
タゴールの詩にことよせて、
限界集落での事業に乗り出した美しいホテル
人が「水をわたる」ことの意味
元船乗りの魚料理屋の大将は、
駿河湾へ漁に出て帰らなかった人数と
無言で帰った人数を淡々と私たちに語りました。
2024/9/2
まちなかリノベーション巡り
アーケード名店街の
吸い込まれるような光景
チャトラコーヒーさんや
リバーブックスさん
前日に続き、
リノベーションで作られた
深い趣のある空間
場所作りをしたみなさんの
無言の哲学を浴びるうちに
たどり着いたキーワードは
“秘密”でした
たくさんの秘密_存在_演技
尊敬する劇団の先輩が
教えてくれた言葉があります。
演技には
セリフや動作でストーリーを伝える、以前に
舞台に出てきて、
ただそこにじっとしているだけでも
存在そのもので物語るという
大事な側面があります。
私は劇団に入るずっと前、
ただのお客さんの時代に
その先輩が舞台に出ている姿に
訳もわからず魅きつけられて
「あの人」としか呼べないまま
ずっとお顔を覚えていました。
舘野百代〔たてのももよ〕さん
というお名前を知ったのは
SPACに入って、
「あの人がいる!」と
驚いたあとのことでした。
沼津_秘密がいっぱいある
2024/9/4、同ギャラリーで
地域のみなさまをお招きして
行われた意見交換会。
私はそのとき勇気を出して、
「沼津で私が一番魅かれるのは
秘密がいっぱいあるところです」
と最初にお伝えしました。
*
「発信する」ために
「言語化」するといえば、もっと
あらかじめ世の中に行き渡ったコトバで
「わかりやすく」する道もあるのかも
でもどうしても私は、
空間に宿っている文化や
話されない哲学や
夕飯を食べに行ったお店のBGMで
日本語ラップが流れてて、
お会計のとき突然
「実はあれ、オレが歌ってるんですよ」
ってカミングアウトされるような
辻々でどこに神様が潜んでるんだか
まったく油断ならない
そうした街のモード、ムードが
一番好きだなぁと
思わずにはいられなかったのでした。
2024/9/3
ふじ・紙のミュージアムへ
建物って人間と同じように
呼吸があると思うんです、と
これも意見交換会で
お話したトピックでした。
この日に訪れた、
青木一香展とのご縁や出会いも
自分にとって大きな経験となりました。
2024/09/04
蛇松ウォーク・意見交換会
蛇松線の跡地で
開かれたお庭のように守られている
長い長い緑道をみんなで歩きました。
意見交換会があったのも、この日です。
響き合えた夜
Artspace入サ岩﨑商店さんをはじめ、
沼津の〈リノベーションまちづくり〉
に参画している空間は
それぞれに固有の
他で見たことのない
居心地のよさを持っていて、
一体それはどうしてなのだろう?と
謎を謎のまま口に出して、
空中に浮かべていたら
話し終えたあと会場から、
声が上がりました。
入サさんのビルができたときのこと
リノベーションの話になったとき
そのまま残そうと大事にした、
コンクリートに刻まれた木目の美しい
特別な工法の天井のこと。
経緯と重なる想いについて、
施工に携わられた
井口さんから伺うことができました。
*
「秘密がいっぱい」のキーワードを
仲間に広めてもいい?と言って下さった方の
きらきらした表情
「宝物がたくさん隠れてるって
前から思ってたんだよ」
というお声もあったそうで、
俳優の美、として
教えてもらってからずっと
心に大事にしまってきた言葉と
沼津の美
そこで本当に暮らしているみなさんと
響き合えたこと
幸せな夜でした。
2024/9/5
沼津港深海水族館・取材
クライマックスの余韻のなかで、
ひとり蛇松緑道を歩いて港まで行きました。
2024/9/6
出発の朝
帰るまえ、
千彩美さんと語るひとときを過ごしました。
この日のnoteで触れた、
他者の欲望を写し取り
競争にわずらわされることなく
自分の底にある願いにかなった
固有の欲望を持つ、という
幸せの探求方法について。
沼津で集団的に育まれている文化には、
そのモデルとなり
外へ発信・提案する
強いパワーがあるのだなと感じています。
*
意見交換会の発表では、
結びで以下のようにお伝えしました。
沼津へ移住する人がどんどん増えたら
最高なことだと思うのですが、
それと並行して
住んでいるのは別の場所という人でも、
自然環境だけじゃなくて
遊びに来て
沼津の人たちと関わるだけで、
受け取れる大きいものがあると思います
たとえば1週間の滞在で、
意識や人生はびっくりするほど変わると
私は過去、
伊豆高原でリトリート滞在したときの経験上、
確信しているところがあります、と。
*
そして実際、
沼津での滞在で景色は変わりました。
この発表を終えた数分後、
まっすぐなお返事まで受け取れたのです。
*
沼津の静かな哲学には、
一緒に過ごすことで伝わって
誰かの人生を
再生させる力があるのではないかと
私は思わずにいられず、
言わずにいられなくて
生意気ながらここに書かせていただきました。
私が演劇活動を通じて目指したいこと、
憧れ、夢とも
それはまっすぐつながっています。