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町田有理「語り部・天狗・女神たちと雷神」(7日目)

最終日のチェックアウト前。最後にどこかで挨拶したいね、と言ってそのままになっていたのを、ゆらこさんの呼びかけで集合することが叶う。小田さんの「ちょうど東小学校での絵本の読み聞かせを終えたところなので向かえます」の一言に、地域の方々が放課後のスポーツクラブの他、授業内の読み聞かせの時間にも携わっているのって見守リッチだなぁ、とホクホク。
出発時間を尋ねられ、旅人2人が午前中に裾野を出ることに驚いていると、小田さんは私が夜まで裾野を回ろうとしていることに驚いたようだった。

お仕事中の駅員さんが撮ってくれた
向かって左から、町田、ゆらこさん、かづみさん、ホストの小田さん
お世話になったホテル寿々木。枕の視線を感じる

まずは毎朝の日課になっていた佐野原神社にお参り。風鈴の舌(風を受ける紙)の紐が一つ切れて落ちている。結び直そうとするも、紐が短くて結べない。仕方ないので風で飛ばないように針金に通していると、拝殿の方からふうわりと優雅に日傘をさした女性がやって来て「ありがとうねぇ、私は通り過ぎちゃったから」とにっこり挨拶してくれた。幸先が良い感じがする。

風が吹くときらきら涼しい音がする

佐野原神社の狛犬をもう一度よく見てみる。須山浅間神社、茶畑浅間神社など、向かって左の狛犬が小さな狛犬を踏み、(あるいは戯れ、)向かって右の狛犬が鞠に脚をかけているのにはいったい、どういう意味があるのだろう。

佐野原神社の狛犬(向かって左)
6日目に訪れた須山浅間神社の狛犬

地元のカフェに入ってモーニングしたい気持ちをおさえつつ、コメダ珈琲で「自分はどんなモビリティなのか」と6日目の日記を書き終えると余計に、自転車で巡らずには帰れない気持ちが高まる。かんかん照りの日差しの中、裾野駅前で「ハレノヒサイクル」という電動自転車を借り、M君におすすめされたまちコッペへ行って、気になっていた偕楽園を散策。中央公園と同じく、水棲生物に目を向けるようにとの案内看板が立っていて、教材園としての役割も担っているよう。ちょうど住民の方々が草刈機を使わず、手で草抜きをされていて、大変だけれど自然なニュアンスが残っていいな、と思う。

まちコッペ。しらすピザ、クリームチーズあんぱん、カレーパン。どれも毎朝食べたい味
偕楽園の滝

そこからJAの直売所へ向かい、お土産にジャンボ落花生を買う。まだまだ移動するつもりなので、冷蔵品は泣く泣く断念。直売所の向かいにある市役所へ足を踏み入れ、旧富岡村以外の裾野の昔話について問い合わせると、花と緑の公園課で職員さんが『裾野市史 七』に小天狗の話を含めた民話が掲載されているのを見つけてくださる。そしてご厚意で、原本の収蔵されている裾野生涯学習センターへ、担当のSさんを訪ねられることになった。意気揚々と市役所の階段を2階から1階へ降りると、なんと入口と反対側の柱の裏側にMAWのポスターを発見…!今日はなんだかツイている、と思う。

11月30日まで掲出中

黄瀬川に沿って生涯学習センターへ向かおうと市役所側から公園側へ大畑橋を渡ると、Googleマップが突然、五竜の滝のある中央公園方面ではなく、不二聖心女子学院のある坂の方へ案内し始めた。富士山の裾野だから磁場が狂ってしまうのかしらと首を傾げつつ、せっかくなので少し南に自転車を走らせてみる。坂の手前まで来てみたものの、寄り道して不必要に担当者の方を待たせるのも良くないと思い留まり、来た道を引き返して川沿いを北上。

黄瀬川沿いは岩盤となった溶岩がよく見える

生涯学習センターに到着すると、東地区の消防団員で、以前にMAW旅人に溶岩流を案内されたこともあるというSさんが『裾野市史』を案内してくださった。「(4日目に見かけた看板の)小天狗の話の舞台は、中央公園に向かう橋を渡って南の坂の辺りですね」と聞いて仰天。それはちょうどここに来るまでの道すがら、iphoneのGPSが狂って案内された坂ではないか。天狗に呼ばれたとしか思えない。

Sさんには他にも『裾野市史』はオンラインで閲覧できること、茶畑浅間神社の木造四面女神像と富士山信仰の話、ちょうどトヨタのWOVEN CITYのあたりで裾野溶岩流の上に三島溶岩流がのっていること、裾野のなだらかな道は溶岩流の尾根の上にあること、墓地はだいたい溶岩の岩盤の上にあること、裾野の文化財について詳しい解説が読めるアプリがあること…などなど、書き尽くせないほど濃密な興味深い話を聞かせていただいた。

センターを出る間際、みしまやという酒屋さんで、Sさんが栽培した米で作られた米焼酎がこの日ちょうど発売日を迎えると聞き、ぜひ買って帰ろうと心に決める。

市役所から自転車で20分ほど北にある生涯学習センター
『楽しい郷土史だより』(左)と『裾野市史 七』(右)
顔が多方向にある観音像(仏像)は多々あれど、顔が四方にある女神の像は珍しい。
富士山がどの角度からも見えることに起因した姿ではないか、という仮説があるそうだ

少し南に自転車を走らせ、今度はE君に「おばさんの話しが、とてもいい感じなんだよ!」とおすすめしてもらった駄菓子屋陽だまりへ。閉まっていたら電話を、という貼り紙を見て電話をかけるも繋がらない。記念撮影だけして、近所にあった白馬の看板を激写していると(なぜ白馬なのだろう)、店主のOさんが折り返しの電話をくださり、入店できることに。

『マツコの知らない世界』の駄菓子特集にも取り上げられた駄菓子屋陽だまりは、Oさんが保育士を引退後に始めたお店だ。ソファがあったり、ワークショップ用のテーブルがあったり、射的ができそうな棚があったり、外にはシーソーもあって、一箱貸し屋でもあって、街のリビングのようだった。

夜でも陽だまりを感じる空間

イベントの出展料を貯めて偕楽園に水飲み場を作る試みの話、市民に会ってくれる市長の話(MAW旅人も訪問すれば会ってくれるよ〜とのこと)、ことばの学級の話や障がいを持つ子どもたちの話などをする頃にはすっかり、Oさんと以前からの顔馴染みだったような気がしてしまった。
鳥の置物とグミを買い、すっかり日が暮れた道を岩波風穴へと向かう。

「子どもたちのために何かできるといいね」

Oさんはそう言って、営業中と書かれた旗を仕舞いながら見送ってくれた。

Googleマップの閉店時間は18時になっているので、事前に確認するのがおすすめ
次はこのマップを見て、深良地区の宝さがしをしたい

岩波風穴は、岩波駅を少し北に進んだ住宅街の中にある。細い畦道を進むと本当に小さい穴が空いていた。見落としたり、埋めたりしてしまいそうな穴だからこそ、昔の人が穴の中を奥深くまで探索したことにロマンを感じる。

少し見回さないと看板を見つけることが難しい
風穴の中はこんな感じ

とっくに日が暮れているので、梯子を降りるのは諦めて来た道を戻ると、雷が光り、強い雨が降り出した。急いでコンビニに駆け込み、カッパを買って着込むと、Sさんが携わった米焼酎を求めてみしまやを目指す。

道中、自転車はまるで自分の意思があるかのようにどんどんタイヤを転がして進んだ。借りた時は気の抜けたふうな小ぶりのタイヤを心許なく感じていたのに、ふとメーターを見ると充電がちっとも減っていない。これも天狗の時のように何かの怪異だろうか。それとも溶岩流のつくった高低差のおかげ…?ともあれ、自転車をほとんど漕いだ感触がしないままにお店へ到着。

本当にピンポイントに雷が落ちたそう

ドアが閉まっているので閉店かなと思っていると、店員さんが中から「手で開けて」とジェスチャーで招き入れてくださる。なんでも、少し前に雷が落ちて自動ドアが手動になってしまったそうだ。ここまで天狗や女神の話を聞き、勝手に転がり続ける電気自転車でお店に辿りついた私は、ひとり合点がいった。それは大変でしたね…と言いつつもつい、「雷が”稲妻”というのは豊作の神様だからで、お米のお酒を扱うお店に落ちたのはきっと、ご縁あってのことですね」などと突飛なことを言い、店員さんをポカンとさせた。

旅の最終日9月18日が発売日の『新(あらた)』。縁起が担げそうなNo.8を選ぶ

新造の焼酎は開けた時から徐々に味が変わり、造り手が目指していたまろやかさに近づいていくのだそう。日をあけてちびちびと堪能できるだなんてかえって、飲むとすぐ顔が真っ赤になる自分にはうってつけのお酒だと思う。

やがて配達から戻って来られた四代目の江森さんから、裾野の農業についてのお話しを伺うことができた。竹林整備で伐採した竹で竹墨を作って芋焼酎用のさつまいも畑の肥料にし、その際に採れた筍でメンマのおつまみを作って販売されているのだそう。

「裾野はもっといいところ、出していけると思っているんです」

お店が雷神に好かれた理由が、とっても腑に落ちた。

10月13日(日)13:00-15:00に四面の木造女神像が特別公開される

東京に戻る御殿場線の時間まで、もうしばらく余裕があったので、茶畑浅間神社へお参りし、掲示されていたポスターで木造女神像の公開時間を確認。
カレー屋小松に駆け込んで牛すじカレーを食べていると、気さくなマスターとお客さんに、裾野で一番の発見は何だったか尋ねられた。最終日にして新たに色々なことを知ったので、今まさにそれを考え、まとめようとしているところです、と正直に伝えて、小一時間ほど話し相手をしていただいた。

ほっとする味の牛すじカレー。添えられたキムチとの相性も抜群!

さて。
ただならぬ市民たちに始まり、天狗や神々の存在に触れたこの7日間。
どんなまとめ記事にできるだろうか。

スパイスを効かせつつ、じっくりコトコト煮込みたい。

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