高野ゆらこ「わからない、の先にいく」【滞在まとめ_裾野市おやじの会】
要約すると、タイトルのようなことを4000文字以上書きました。
「日々の記録の文字数えげつない」でお馴染みの高野ですので、今回の振り返りも気づけば短編小説くらい長くなってしまいました。
余談ですが、前回MAWで河津町に滞在した時のレポートはこちらです。2022年はどうやら3000文字以上という規定だったようですね。
(今年は1000文字以上でした)
お時間ありますときにお読みいただければ幸いです。
なぜ裾野にしたのか
MAWを通じて初めて「何にもしない合宿」という取り組みを知った。
シンプルゆえに謎が多い、コロナ禍で一時期休んでいたとはいえ10年以上続いているこの合宿こそ一番自分の生活から遠いことのように思ったので希望した。また、前回のMAWはプライベートでも何度も行くくらい大好きな河津町だったが、なんの思い入れもない、こういう機会がないと行かなそうな場所というのも前回との違いを感じられていいんじゃないかと思ったのも理由の一つ。
だから、滞在する前の裾野のイメージは正直「よくわからない場所」。
裾野でどう過ごすか
ホストの小田さんから、いくつか地区で行われているイベントに誘っていただいたのでそれにはもちろん参加しつつ、行動目標としては「できるだけ自分の足で裾野を動き回る」ことに決めた。
裾野市は、南北に細く東西に長い独特な形の市だ。標高も違うから同じ市内でも天候や気温さえ違うらしい。となると暮らしの雰囲気も全く違うはずだ。自分なりに行ける範囲で裾野の東西南北に行ってみることにする。
何もわからないとき、わたしはひたすら歩く。もしくは自転車に乗る。「移動」は自分の中で大事にしているポイントかもしれない。
◆7日間で訪れた場所
〈裾野市〉
東小学校/消防団東分団茶畑詰所/東地区コミュニティセンター/裾野セントラルホテル寿々木/ローソン裾野平松南店/コメダ珈琲裾野店/マックスバリュ裾野店/台湾料理興福順裾野店/みしまやリカーワインズショップ/福屋酒店/喫茶アムール/グリーンカフェ花麒麟/JAふじ伊豆すそのふれあい市/ベルシティ裾野/佐野八幡宮/五竜の滝/裾野市観光協会/屏風岩/エコハウス裾野店/いちごの里BerryGood/TOYOTAウーブンシティ建設現場/一の瀬/カフェノジノ/おさださんちの無人直売所/佐野原神社/セカンドストリート裾野店/須山浅間神社/すやまうどん製麺所/御食事処富士美野/裾野温泉ヘルシーパーク裾野
〈裾野市外〉
三島学園知徳高等学校(長泉町)
三嶋大社/Latin Fast Food pica・Pau/ゆうだい温泉/関野農園野菜直売所(三島市)
しずてつストア沼津駅前店/NUMAZU HALAL FOOD/業務スーパー沼津錦町店/蛇松緑道/千本浜/沼津港大型展望水門びゅうお/山岸精肉店/プラザヴェルデ(沼津市)
noctarium/MountCinema(御殿場市)
7日間の総歩数72425歩。
結果、裾野以外にもかなり色々な場所に行った。そしてわたしは何を「わかった」のだろう。
わかる、わからない
同じ道を何度も通る。知らなかった景色が馴染んでくる。
何度も同じ人と会う。お互いの名前を覚える。いろんな話をする。
もちろん、そういう意味での「わかった」は増えていく。
ただ、わたしは裾野の何を「わかろうと」していたのか。東西南北に行って何になるんだ。というか、わかるってなんだ。滞在するほどどんどん「わからなく」なっていった。
……あれ、そもそもMAWがわたし(旅人)に求めていることってなんなんだっけ?
『地域コミュニティの未来づくり』と『自身の表現活動へのインスピレーションを得る』などを目的に……なるほど。
今回のホストである小田さんの場合、小田さん自身が既に『地域コミュニティの未来づくり』のために具体的に行動し、実績を積まれている。
小田さんが自分ごととしてもっとも身近な家族の問題を解決するために、そしてその場所は自分の住む地区でやらなければ意味がなかったからこその出発点であり、やはりたった一週間で「この土地で」「自分ごととして」「どうしてもやりたいこと」をわたしが見つけるのは難しいと感じた。
もちろん、短期間で何かが生まれるわけはないという前提でこのワーケーションプロジェクトが始まったであろうことは想像できる。とはいえ、補助金で活動させてもらう身としてはなんとか『表現活動のインスピレーション』だけにとどまらない動きをしていきたい。
MAWカードのこと
少し話はそれるが、今回、MAW旅人とホストのために用意してくださったMAWを説明するためのカードは話のきっかけとしてかなり役に立った。
(2022年にはなかったので嬉しかった)
ただ、MAWの仕組みについては多少理解されたものの、大元の「アーツカウンシルしずおか」の存在が認知されていないことが多かったのも事実だ。
MAWとアールカウンシルしずおかについて、両方とも簡単な言葉で伝えるにはかなり難しい。
(他の旅人の皆さんがどう説明されているのか知りたい!)
静岡県に住んでいる方々にとってアーツカウンシルしずおかがもっと馴染みのある組織だったら、より旅人とも積極的に関わってもらえるのかもしれないな、とも感じた。でもそれって結局卵とニワトリみたいな話で、MAWで滞在したアーティストたちが地域の方々との交流が深まればアーツカウンシルしずおかの認知も上がる、ということでもあるのだろう。
「いない」を考える
「何にもしない合宿」に参加したとき、わたしはそこにいない子どものことをずっと考えていた。裾野市東地区の(主に)小学生を対象としたお泊まり合宿、果たしてわたしが子どもだったらそこに行っただろうか。地元が嫌で仕方なかった子ども時代の自分を思うと、どうしてもそこにいない(行けない)子どものことばかり考えてしまう。
そういう子がいるのかどうかもわからないけど。
でも、全員が幸せ、なんてのはちゃんちゃらおかしい戯言だ。そんなことあり得ない。身の回りのできるだけ多くの人が幸せだといいなーくらいの感覚で、もちろん自分が幸せなのが大前提で動けばいいんだな、と思った。参加している子どもたちの楽しそうな笑顔がそれを物語っているし、中学、高校、大学と進学しても「おやじの会」のポロシャツを着て団結している若おやじたちの居場所になっているのはなんてったって素晴らしい。
地元が嫌で仕方ない子どもにも、どこか別の拠り所があればそれでいいはずだ。
地域への眼差し
滞在中最後の夜、御殿場市のMAWホストさんが運営する元映画館をリノベーションした宿「noctarium」で、友人知人を集めて好きな映画をダラダラ観る会に誘ってもらった。「何にもしない合宿」と「映画鑑賞会」がやっていることはまったく違うけど、根っこはそう変わらないんじゃないかと感じた。共通点は、自分たちが住んでいる場所で身近な人とゴキゲンに過ごすための試み。
「映画会のオープンチャットによければ入ってくださいよ〜」と言われて、「でもわたし横浜(在住)ですよ!?」と言ったら「来れるときでいいよ〜」っと言ってもらえた。その時、なんだか一歩関係が前進した気がした。いや、前進とは違うかもしれない。そこにいなくても地域に関わることの可能性を感じたんだと思う。何かプロジェクトを立ち上げるとかではなく、こうやってジワジワと関係を醸成させて行った先に思いつくアイデアをわたしは信じたい。
地域を見つめる人の眼差しに便乗して、わたしも地域を面白がれたらと思う。
演劇部、求む
長期的な『地域コミュニティの未来づくり』は一旦置いておいて、最後に今回の滞在で一番心が震えたことを改めて書いておきたい。
2日目に、小田さんが高校で講演を行うとのことでついて行った時のことだ。放課後、ありがたいことに演劇部の練習を見学することができた。
短い時間ではあったが、エチュードと呼ばれる即興劇を見ていくつか具体的なアドバイスをしたところ、それこそ「劇的」に高校生たちの演技の質が変化したことに感動が止まらなかった。三島学園知徳高校演劇部のみなさん、本当にありがとう。
意見交換会で同席されたアーツカウンシルしずおかの北本さんに「ゆらこさんは本当に人が好きですよね。」と言われた通り、わたしは人間が大好きだ。というか、マジで『お節介』の成分が人より多めな人間なんだと思う。
いろんな人と関わって生きていきたいし、その関わりによって相手も自分も変化していきたい。(なんなら地域も変えられたらいい。)
20年続けてきた『演劇』というツールを使って、普段だったら関われないような10代の若者とコミュニケーションをとれたのは得難い経験だった。短期的には、そこにこそわたしが「自分ごととして」「どうしてもやりたいこと」があると感じた。静岡県内の演劇部で実践的な演技コーチをお探しの方にこの思いが届くといいのだけれど。どうでしょう?
これまでの活動は以下に。演出、演技指導、どうぞお気軽にお声がけください。
ということで、まずは「この土地で」と思えるような関係を作り上げていけばいいんじゃないだろうか。それにはきっとわたしだけの片思いでは成り立たず、わたしが「この土地で」と思うのと同様にわたしに「ぜひここで」と思ってもらうことが重要なはずだ。
おわりに
ホストの小田さんは今回、自らホストに名乗りをあげたわけではなくアーツカウンシルしずおか側からの逆オファーでホストになられたそうだ。
そんな小田さんにとって、初めての旅人受け入れ。少なくない時間を割いてくださったこと、地域の飾らない日常に入り込ませてくださったことに心から感謝です。本当にありがとうございました。
そして今回の受け入れで「なるほど〜MAWってのはこんな感じなのか、もういいや」と思われないことを強く願います。
「アーティスト」と一言で括るには難しいくらい多種多様なアートがあり、多種多様な人間がいる。ぜひぜひ、他の方にも裾野を訪れてほしいし小田さん(とご家族と界隈のみなさんも!)と出会ってほしい。
わたしにとって裾野は。
もちろんまだまだ何も「わからない」けど、いろんな人の顔や名前や景色が思い浮かぶ「忘れられない」場所になった。
この感覚が今後どう変化していくのかが楽しみだ。