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亀川豊未「今、目の前にあるものから藤枝の未来をちょこっと想像する(藤枝中山間地域滞在まとめ)」

10月3日〜10月9日まで静岡県藤岡市にMAWの旅人として滞在することができた。滞在してから一週間以上が過ぎようとしている。


生まれ育った九州を今年4月に離れ、拠点を東京に移して数ヶ月。そして、数日前には静岡県藤枝市を旅することになった。私にとって、AIR/MAWプログラムに参加することも初めてで、滞在日程が近づいていくごとに、緊張が高まっていた。

私が参加した藤枝エリアは今回のMAWの中で唯一の公共機関がホストとなっている地域だった。それもあって、初めから少し堅苦しいイメージを持っていたかもしれない。
しかしながら、藤枝中山間地域課のダブル鈴木さんたちこと、鈴木庸介さん、鈴木智之さんには大変快くご案内して頂いた。懇親会なども開いていただき、様々な課に所属する方達もとても友好的に私たち旅人たちを迎えてくださった。

藤枝のMAWの事前打ち合わせで、ホストのダブル鈴木さんたちから何度も出てきた[ふじえだ陶芸村構想] というキーワードがあった。正直、MAWの紹介記事を見るまでは藤枝市が陶芸の町というイメージが全くなかった。今後、藤枝のアピールポイントの発信地となるであろう陶芸センターについても全く知らなかった。
土の模型やテラコッタ作品を作ってきた私も(普段は木彫制作を主にやっている。)、土の仕事をここでできるなら作品制作の場として良いかもしれないなどとぼんやりと考えが浮かんだ。それもあって、実際に目で見て確かめてみたいという気持ちがあった。

現在、藤枝市陶芸センターは新築作業中で(来年度には完成予定、それからリニューアルオープンとなる)、新しい施設での体験はできなかった。陶芸についての関心があっただけに、見学体験ができなかったのは残念だった。(※移転前の陶芸センターは体験ができる。)
しかし、藤枝陶芸村構想がどのような経緯で考えられ、どのような人が作り上げて行くのか、またそれは市民にとってどのような存在なのか、ということに関心が移ったため、今回はそこを軸にして振り返ってみたい。


1週間という短い期間ではあったが、たくさんの体験をできたのは、この藤枝に1人友人がいたことが大きい。
友人とは大学時代に知り合い、卒業しても思い出した折に連絡を取っていた。十数年前も一度、この友人を頼りに藤枝に来たことがあった。その時はとにかく自然豊かで、穏やかな印象があり、またいつか訪ねたいと思っていた。
その友人が地元藤枝に帰ってきて、お茶農業をしているということを知って、これは何かの縁だと思い、MAW2024の滞在希望を藤枝エリア一択に絞っていた。
その友人のつてで、お茶農園の作業体験にも参加できる運びとなった。
作業体験に伺った蔵田茶農園は、現在株式会社蔵田農園としてお茶加工製造と野菜の栽培、販売をしている。
元々、昭和51年に蔵田茶農協共同組合(高根茶農業協同組合と、蔵田茶農業組合が合併)としてお茶製造を行っていたようだが、「組合員が減り、農業組合の規定に満たないものになってしまった。」と現社長の森下隆正氏から伺った。激減してしまったお茶農業の維持存続のため、蔵田茶農園だけでなくどこの茶農園でもお茶だけの収入では生活できなくなっているのが現状である。
そして近年、株式会社蔵田茶農園となり、10軒の生葉生産農家の生産した蔵田茶を、加工製造し、全国に販売・斡旋することを主とし、 野菜は、高地の特色を生かした栽培、販売を行っている。
一年中仕事ができるような仕組みに切り替え、藤枝の人々、ここで働いてきた人々の暮らしを想い、生活を続けていくため、人生をかけて蔵田茶農園を守っていく姿勢がうかがえた。

話は戻り、このお茶農家の近くに藤枝市陶芸センターがある。始めに挙げた「ふじえだ陶芸村構想」という文字が再び浮かび上がる。蔵田茶農園の方々や藤枝に住む人に陶芸センターについてのことを聞くと、あまり関心がない様子だった。それよりも日々のお茶農業の暮らしをどのようにしていくのかが最優先事項だからだ。お茶農家の存続危機が続くこの藤枝で、新しい陶芸センターが出来ようとしている。

この陶芸村構想の根幹を支えるのはここに来る外から来たアーティストたちではない。ここで暮らしている人々の意識だと私は考える。そして、この陶芸村構想の指揮をとる者たちの確乎たる決意と実行力が必要だ。
以前の藤枝市陶芸センターが新しい装いで、外から来たものたちとここに住む人々ととの合流地点となるために。
より具体的な計画の視覚化、予算の確保、実際に実働していく計画などと課題は山積みになるとは思うが、着実に進めていくことで少しずつ実現していくのだろうと思う。

その証拠にMAWの旅人プログラムで様々なバッググラウンドを持つ人たちがここを訪れ始めている。
昔のように30軒以上のお茶農家を元通りにすることはできないかもしれない。だが、ここ藤枝の魅力に気づき、またここを訪れる人々を増やしていく、その変化が少しずつすでに起きていると感じた。

短い期間でも一緒に畑仕事をしたり、美味しいものを食べたり、休憩中のお喋りをしたりして少しだけ私という存在を意識してくれていたように感じた。
帰りには「また違う季節にも来てね。とても助かったよ。」や「アーティストの作品をこの場所に設置したらどんな反応があるのか知りたい。」と労いの言葉や興味関心もいただき、私自身もとても嬉しい体験ができた。迎えてくれる側(藤枝中山間地域)と向かう側(旅人)のWIN WINな関係が少し見えた気がした。

自然豊かで、人にも優しい食材が揃い、日本を代表するお茶産業の歴史があり、関西関東からのアクセスも良好(東京からだと新幹線で約1時間半)、海と山どちらとも楽しめる距離感を持ち合わせている藤枝市。
また藤枝の人々の笑顔が見れるように、「陶芸村構想」が様々な取り組みで外からの人を迎え入れることのできる中心の場所になっていくことを少し想像できた旅だった。

〔トップ写真提供:林田真希さん〕


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