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平野智紀「沼津と西周と鑑賞ワークショップ」(滞在まとめ)

磐田出身で函館在住のリサーチャー/アートナビゲイターの平野智紀です。今回、沼津・三島・清水町での滞在を通じて、地域の文化や歴史に触れることができました。県西部出身の私にとって、沼津・三島・清水町は新鮮な場所で、まっさらな気持ちで沼津駅に降り立ちました。一週間という短い期間でしたが、さまざまな経験をさせていただきました。

沼津と西周の意外なつながりを探る

沼津駅に降り立って最初にイーラde沼津の片隅に西周(にし・あまね)のレリーフを発見し、彼が沼津に住んでいたことがあることを初めて知りました。西は日本最初の哲学者と言ってよく、日本の学術用語の基礎を築いた人物です(「哲学」や「芸術」といった言葉は、西による翻訳です)。今回、滞在中に何をするかまったく決めずに沼津にやってきましたが、西と沼津の意外な関係を知り、今回の滞在のテーマにすることをその場で決めました。

ワーケーション中の自由時間には、沼津市明治資料館や沼津市立図書館で西周と沼津兵学校についてリサーチしました。沼津兵学校は明治元年に徳川家によって設立され、西がその初代校長として近代教育を導入しました。西は兵学校から「兵」の字を取るなど、文官武官を育成する総合大学への移行を目指しましたが、その構想は実現しませんでした。西は、榎本武揚(箱館戦争を戦い、その後北海道の発展に尽くす)や、造船の専門家の赤松則良(沼津兵学校教授、磐田原の発展にも尽力)とも親交があり、激動の時代の沼津と磐田と函館が、西周を通してつながるのかも?と、少しわくわくしました。

いちごさんのSUGOI地域案内に参加する

滞在中の2日目と5日目、地域のホストである一般社団法人いちごの藤井さんと假屋さんにご案内いただき、沼津・三島・清水町の様々な場所を巡りました。地元の商店街、金工店、麹店、オフグリッドの循環工場、漁師兼パン屋さん、私設図書館などを訪れ、地域で活動するさまざまな人に出会うことができました。これだけ充実したツアーにしていただけたのは、ひとえにいちごさんと地域の方々との日々の信頼関係あってこそだと思います。

いちごさんは、子育て支援・地域振興支援を活動内容にされていますが、その言葉に収まらない多様な活動をされている印象です。たとえば、沼津のカフェ7件のドリップパックを詰め合わせて、毎日違うお店のコーヒーを飲める「7 days coffee」の企画販売など。旅人のお一人が「ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)みたいですね」とおっしゃっていたのを聞いて、自分たちが好きになったものを全力でプロデュースされている点はそのとおりだなと思いました。ビジョナリーな藤井さんと、シゴデキな假屋さんのお二人のバランス感もよいのだろうと感じます。

地域の方々との対話型鑑賞ワークショップを主催する

5日目の夜、いちごさんの運営するカフェyadorigiで、地域の方々と旅人のみなさんと、対話型鑑賞ワークショップを行いました。これは、私が事前にいちごさんや旅人のみなさんと打合せをさせていただく中で、ぜひ実現したいと構想していたものです。

今回ご一緒した旅人の岩江さん、小栢さん、山口さんは、みなさんとてもおもしろい作品を作られています。一方で、ワーケーションでは、旅人が地域について知る機会はあるのですが、地域の方々に旅人がどんな人たちかを知っていただく機会があまりないと感じていたためです。私は作品をつくるアーティストではなく、作品を通じて人と人がつながるような「活動」をつくることが専門です。事前にお三方の作品や制作についてリサーチし、どの作品をどんな順番で取り上げさせていただくかを考え、ワークショップを準備しました。

今回、ワークショップ参加者同士で作品について意見を交わしていただく中で、アート作品が人のつながりを深めるツールとして機能することをあらためて実感しました。旅人にとっても地域のみなさんにとっても新しい経験だったようです。10名超の参加をいただき、ワーケーションの中での地域と旅人の関わり方について考える機会になりました。

まとめ

一週間はあっという間でしたが、沼津・三島・清水町の滞在を通じて、地域の文化や歴史、そして地域の方々との交流を楽しむことができました。6日目には少し足を伸ばして沼津の南端・戸田地区を訪れ、ヘダ号と造船に関する歴史に触れる機会も得ました。

7日日、沼津のソウルフード桃屋のカツサンドと、いちごさん激推しの中華料理店・華味(ファーウェイ)の麻婆豆腐をテイクアウトして、帰りの電車に乗り込みました。ワーケーションを通して、沼津が少しだけ「勝手知ったる街」になったなと感じます。この地域と自分とのつながりが深まったことに感謝しています。

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