町田有理「ポポー」(5日目)
「うちで何か料理を作ってください」
台湾料理店でホストの小田さんからお題をいただいて以降、5日目はずっと総合探求の授業に取り組む学生のごとく料理について考えていた。
「カレーの味が家ごとに違っているのと同じで、みんないつもと違った味が食べられれば何だっていいんだよ」とフローリーさんはにこやかに励ましてくれたけれど、それっていったいどんな料理だろう。出生地の鳥取の料理はほぼ素材の味をそのまま楽しむようなものが多くて、つまりそれは地物ありきの料理になるし、出身地の東京にも郷土料理はあるけれど、それはお店屋さんで食べられるので、ならではの目新しさはない。
4日目の夜、意見交換会の帰りにマックスバリュ裾野店へ寄り、青果コーナーで実家に電話をかける。なにせ一つのキッチンに料理人は私とかづみさんとゆらこさんの3人も居ることになるので、サッとできて、季節に合っていて、ユニークなところがあって、私が振る舞える料理となれば、そこそこ限られてくる。4品にまで絞って、この辺りの民家に巣を作っている丸くて茶色い小鳥の涼しいさえずりに背を押されながら、農協の直売所へ行く。
料理に必要な野菜をカゴに入れる合間に、見たことも聞いたこともない青果と目が合ってしまって、好奇心がつい寄り道。
レジのスタッフさんが、気さくに話しかけてくれる。おそらく売上の分配のためなのだけれど、農家さんの名前がフルネームで印刷されていくレシートは、ちょっとした出席簿のようになっていて愉快。
直売所の掲示板からは、気になる家庭のレシピを手に取ることができるようになっている。料理の面白味は、こうして真似られていくにも関わらず、いつしかオリジナルな味になっていくところにあると思う。
足りない食材を買い足した後、小田さんのお宅におじゃまして、1時間ほど先に料理を始めたゆらこさんの往来を背中で感じながら、2人の隙間を縫うように料理する。既に食卓がほぼ埋まっていたこともあり、3品に留める。
食べてみたい地物を食べてみよう、と、かづみさんと同じ発想で地酒の「すその」とポポーも卓上へ。地元の方にはすっかりお馴染みなのかと思っていたので、旅人も含めて皆、地酒もポポーも初体験だったことに驚いた。
地酒は常温でもさらっと飲みやすい味で、「プリンとバナナとマンゴーを足したよう」とか、「バナナとリンゴを混ぜたよう」という謳い文句のポポーは、私の個人的な感覚で言えば、「マンゴー食感のラ・フランス」。ぜひ地元裾野の方々にも一度、食べていただいて、その感想を伺いたい一品だ。
「ポポーの種は埋めたら育つかな?」
「アボガドみたいに生えてくるかもね!」
小田さんに送っていただいてホテルに戻り、記事を書いている横で種を乾かす。旅先の、それもホストの方の個人宅のキッチンを借りての料理によって、まだ味わったことのない何かが、自分の中でムクムク蠢いている気配を感じる。
この種がポポーと競い合うように、すくすくと育っていくようにしたい。