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Rui Yamaguchi「立ち現れてくるもの(富士市吉原商店街周辺まとめ)」

さて、富士市での滞在から2週間が経とうとしている。

一体何を得て、何を忘れ、その結果、一体何が自分の中で残っているのだろうか。

正直その後の2週間も、大学院の講義や新たな展示の準備やらで、富士の滞在に想いを馳せる暇がなかった。だから「まとめ記事」と言いつつも、正直全くまとめたくない(まとめることができない)。平常通り、右往左往しながら、いま思いつくものを思いつくままに書いているのだ。この漂流(ドリフト)していく書き方は、自分の生き方にも通ずる。それとも、このもっと後に何かが立ち現れてくるのだろうか。忘却こそ最高の保存方法なのである。

アジアの中の日本、日本の中のアジア

富士市を暴力的に一言で表すと「変な街」だった。もちろんこれは褒め言葉だと思う。

昼と夜で全く違う景色を見せる吉原商店街

工場が多いとは聞いていたが、はじめて乗った岳南電車の車窓の風景が工場だらけで笑った。その影響か、タイやベトナム、ブラジルからの移民労働者が多いこと、母国語で書かれたお店が商店街に並んでいること、その背景に日本を象徴する富士山が聳え立っていること。富士市の教育水準は静岡県で最も低いこと、覚せい剤取締法違反の検挙人数が県内で最も高いこと。だからか、昼と夜で商店街の雰囲気が異なること。工場からの収入が安定してるためか市の財政は無借金なこと。反面で、自ら考える人が少ないらしいこと。

上記は街の人に聞いたり実際に調べたデータによるものだが、あながち印象として間違ってないように感じる。

富士市は間違いなく日本なのに、良い意味で日本っぽくない…。「アジアにいる(いた)」という表現が自分の中でしっくり来る。コンビニに行けばあちらからはタイ語、あちらからはフィリピン語といった感じで。東京に住んでると特別意識することはないが、こういう規模感の地方で多国籍の文化に触れると、日本もアジアのひとつなのだというごく当たり前の事実をなぜか強く実感する。

杉山フルーツ店さんの裏の駐車場。この雑多感、すごくアジアを感じるの俺だけ?

若者は東京に出ていき、街は高齢化が進み、労働力を外国人で補う。日本は日本ではなく、いよいよアジアの中の日本であること、多民族国家になっていくのだろうか。ここ富士市・吉原商店街だけでなく、日本全国あらゆる地方でこうなっていくのだろうか。やはり、自分の関心は「国家」「ボーダー」「移民」「労働」とかその辺りは揺るがないのだろうと、今回の滞在で強く思ったかも。

「WE ARE FROM HUMAN」について

やはり滞在中のインパクトとして印象深いのは富士市に住んでいるブラジル人コミュニティを交えたホットサンドの交流会だろう。

最初はただ単純な動機だったと思う。

前述通り外国からの移民労働者が増えている。地域の人もそれを知っているし受け入れている。しかし、存在は知っているけど話したことはない…そうした点と点を繋ぐためのプロジェクト。「ホットサンドメーカー」を切り口に普段関わりの薄いコミュニティに介入し、そこにいる人と対話する。一体彼らが遠い日本に住んで何を感じているのか。知らないことを知りたい。

まあ、しかしと言うかやっぱりと言うか、全然予想したところと違うことになるのが人生なわけで!笑

バラバラな食材(人たち)を挟んでひとつにする行為の中で、俺の脳みそは逆に、ぐっちゃぐちゃにシェイクされた。未だにあの日のことは思い返せないことがあり、その辺の混乱の様子はぜひ滞在4日目のnoteを読んでほしい。

そもそもそんな話を聞いていると、自分が日本生まれ日本育ちの"純日本人"とかその辺も疑わしくなってきた。一体、何をもって"日本人"なのだろうか。なにが、その人のアイデンティティを規定するのだろうか。生まれ育った場所なのか、血筋なのか、扱う言語なのか...。では、国家とはなんだろうか。どこまでがリアルで、どこからがフィクションなのか(そもそもこの世界に真実などあるのだろうか)

そのあたりの、意識せず無条件に信じてきたもの(信じ込まされてきたもの)が揺さぶられると同時に、いまは複雑なこと考えんのやーめっぴ♪と、とりあえずその全てを一挙に包括して、身体に取り入れるのだ。人それぞれ宗教も信条も異なるが「同じ人」ということだけは変わらない。

RuiYamaguchi「ヒトとは何か(4日目)」

話は変わるが、11月25日までコートヤードHIROOにて「ヴァナキュラーと夜明け」というグループ展に参加している。A-TOM ART AWARD 2022というコンペティションで自分のホットサンドメーカーズクラブが受賞作品に入ったのだ。

主にホットサンドメーカーを持ってヨーロッパを旅した時にあった出来事について展示しているが、ここに、富士市で撮影したホットサンド交流会の映像を編集して「WE ARE FROM HUMAN」として発表しようと考えている。

現在、全参映像編集中。交流会を通じてダイレクトに感じた「アイデンティティが揺さぶられていく過程」をそのまま、伝えることはできないだろうか。

イッペイさんを通じて家族や友人を呼んでくれたラファエルさん
映像ができたら、上から「WE ARE」のドローイングを描き足そうと考えている

そうした作業の中で、今回の滞在で身体をもって感じたこと(未だ言語からすらままならない何か)が、嫌でも作品の中に立ち現れてくるだろう。そしてまた、リサーチや取材で富士市には来ると思う。

当初ゆっくりしようと思っていたマイクロアートワーケーションは、次に繋がるような出会いやアイデアだらけだった。まんまとアーツカウンシルしずおかの企画の狙い通りになっているわけだ。他の参加者のnoteもいくつか拝見して、旅人(アーティスト)を地域に放流するとこういうことが起こるのかというのを身をもって体感した。

改めて、アーツカウンシルしずおかの若菜さん。吉原中央カルチャーセンターの瀧瀬さん、イッペイさん。富士市でバイブス合いまくりの皆様、本当にありがとうございました!

Rui Yamaguchi

Instagram:https://www.instagram.com/rutty07z/

おまけ クーポン富豪について

最後に、運良く今回のマイクロアートワーケーションが政府の「全国旅行支援」と被ったことで大量の食事券を手に入れた「クーポン富豪」について。

お金持ちになったら経済を積極的に回していきたい志だけは持ってたので、この1週間富士市でそれを疑似体験させてもらう。

それこそ最初なんかは使いきれないくらいクーポンと、宿から支給された吉原商店街で使える食事券があったので、行ってみたいお店に行き、食べたいものを食べ、飲みたいだけお酒を飲んだ。

宮城県産の生牡蠣。言うまでもなく食べながら泣いた。
ただの「味玉」を頼んだら出てきたそんなことある?

それでも胃袋はひとつなのである。

1日2食+少食+そんなにお酒飲まない人間なので、クーポンや食事券を使えど使えど消費できない。なんなら旅の4日目くらいから使い先に困ったくらいだ。

もちろん全てのお店で使えるわけではないので、利用できるお店をアプリで確認しながら目的地を設定する始末。これでは、主体的に旅をしているのではなく、クーポンに旅をさせられている。富豪の末路である。お金に使わされたら終わりなのだ。自分の直感で気になったお店にパッと入れるように、俺はなる。そう固く誓い次の町へ…。