春の温度差
レースカーテンの向こうに手を翳してみると、ガラスを透いた陽だまりが部屋の中より暖かかった。春を告げる優しい温度差。もう3月も気づけば半分を過ぎている。
天気予報を見てないうちに季節の変化も見落とした。もったいない。わたしはパチンと鍵を開け、小さな部屋に新しい春を呼び入れる。彼女はしばらくレースの辺りを漂った後、少し冷たいわたしの肌をぬくめるように溶け込んだ。
あれから1年が経つ今、好きとか好きじゃないとか、よく分からなくなっている。去年の春から続く脅威は彼と彼女を遠距離恋愛の2人にした。まるで無限の呪いのように、見えない壁に隔てられている。
会わなくても平気なことに気づいてしまって、会いたいかどうか分からない。会えるなら会えるで良いな、そんな感じ。
だけど気持ちは何やかんやで生きていた。
でも他の誰かに感じるものと少し違う、たったそれだけ。
こんなわずかな温度差を、一体何と呼べたら良いんだろう。「好きじゃない」じゃない。でも「好き」じゃない。春にしては冷めすぎていて、冬にしては心地が良すぎる。
今の感情を的確にえがいてくれる何かがなくて、ただただ困った。強いて言うなら、ガラスとレースの間に溜まる陽の光くらいがちょうど良かった。
窓を開けて小1時間も経った頃、徐々につま先が冷えてきたことにふと気づく。それはやっぱり春にしては冷めすぎている。
わたしは一瞬、キーボードを打つ手を止めた。重ね合わせた2枚の窓をガラガラと引き、部屋の中から束の間の春を再び閉め出す。
手の甲を撫でる温度差は、それでもどこか心地が良かった。
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