シェア
どこの誰とも知れない女を、初めて押し倒した。 途端、上空の満月を穿つような悲鳴がこだまし、我に返る。 今しがた強烈に魅かれた血の香りはもうしない。手のひらに触れる湿った土と雨の匂いがかき消したのか。 肩を震わす自分の呼吸がいやに荒い。たった今、この女に何をしようとしていたのかを思い出す。 殺したいわけでもなかった。 犯したいわけでもなかった。 ただ血の香りがしただけだ。 組み敷かれた女の瞳に映った自分は彼女と同じく、ヒトの姿をしているだろうか。 それ
きらり、と白い光を残して1等星が落ちていく。星座の端でぶら下がっていた星はたった今に軸を抜け、定められた座標から雫のように零れていった。 届きもしない手を伸ばす。しかと抱きしめ、守りたかった。守らなければいけない星だ。この手のひらも身体も翼もそのためにある。 春の宵闇、全天21あるはずの1等星が空からひとつ、姿を消した。 それを追いかけ、星廻りの天使がひとり、消息を絶つ。 次に目覚めた部屋の中は、決して明るいわけではなかった。窓枠には何枚もの木の板がぴったり打