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どこの誰とも知れない女を、初めて押し倒した。 途端、上空の満月を穿つような悲鳴がこだまし、我に返る。 今しがた強烈に魅かれた血の香りはもうしない。手のひらに触れる湿った土と雨の匂いがかき消したのか。 肩を震わす自分の呼吸がいやに荒い。たった今、この女に何をしようとしていたのかを思い出す。 殺したいわけでもなかった。 犯したいわけでもなかった。 ただ血の香りがしただけだ。 組み敷かれた女の瞳に映った自分は彼女と同じく、ヒトの姿をしているだろうか。 それ