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ムハンマドの場合
※この記事は全編無料ですが、お読みいただいた後に直接寄付へと繋がる有料ボタンを文末に設けております。
【出会い】
ムハンマドとのやりとりを始めたのは6月17日のことだった。
実はその1ヶ月も前からずっとDMが送られてきていることに気づいていたものの、他の人たちへの対応でいっぱいいっぱいで、敢えて開かずにいたのだった。そこに、SNSで繋がったパレスチナに連帯する方から「エミさんに彼からDMを見るように言ってくれとお願いされたので、どうかお願いします」と言われ、意を決して開けることにしたのだった。
一度返事をしてからは、せき止められていた堤防が決壊したかのようにメッセージが送られてきた。どれほど切羽詰まっていたのかがわかった。
長いこと無視していたことへの謝罪と、すでに他の人たちをサポートしているため頻繁には返事ができないかもしれないことなど、こちらの都合も率直に伝えた。それから、個人でやりとりをする際に必要不可欠な「身元確認作業」をしなくてはならないため、IDの写真を送ってほしいとお願いすると、「ハハッ、IDねえ・・・マジか?・・・やれやれ」といった様子で、それでもすぐに写真を送ってきてくれた。もう何べんも繰り返された質問なのだろう。もちろん詐欺でないかを確かめるためにはこちらとしては必要不可欠なことなのだが、全てを奪われて死と直面し続けている人に向かって「あなたが本当にガザにいて困っている人だということを証明をしてください」とお願いするのは毎回心苦しい。それでも伝えるしかないので、「本当に申し訳ないけれど」と前置きした上でお願いするようにしている。
今いる場所の背景と共に写っている写真はありますか?と聞くと、ちょっと待ってと言ってこんな動画が送られてきた。
【侵攻後に破壊されたムハンマドの家】
これを見て、確かにIDを見せてと言われたら「マジか?」とは思うだろうなと思った。家をこんなにされたのだから。ここから沢山のやりとりが始まった。
【ムハンマドについて】
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【名前/年齢】ムハンマド(21歳)
【出身】ガザ
【侵攻前の職業】メンズ服店の店員
【現在地】ガザ中部のヌセイラート
(6月〜8月半ばまではディルアルバラにいた)
【家族構成】ムハンマド、奥さん、3人の子ども達、病気のご両親、お姉さん、白猫のCoco
※子どもは6歳、7歳、8歳で、上のふたりの子達は亡くなったムハンマドのお兄さんの子どもで、ムハンマドが全員の面倒をみている。
【ご寄付はこちらから】ムハンマドのGoFundMeリンク
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侵攻が始まる前はどんな暮らしをしていたのですか?
メンズ服店の店員をやっていた。友達とレストランで美味しいものを食べたり、浜辺でリラックスしたり、美しい人生を楽しんでいたよ。
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白猫のCocoちゃんを溺愛しているようですが、あなたにとって動物はどのような存在ですか?
「幼い頃から動物が大好きで、育てるのも好きだった」
ムハンマドが動物好きなことが良くわかるやり取りが、この頃、ツイッター(X)で不定期につけ始めた「ムハンマド日記」に残っていたので紹介したいと思う。
7月6日
「海のそばにお腹を空かせた野良猫たちがいたから餌を買って食べさせた。 "Humans must have the same humanity as animals" 人間は、動物達と同じ人間性(思いやり)を持つべきだ」 とムハンマド。
7月7日
夕方、調子はどう?と聞くと、 「いいよ。ただテントの近くにお腹を空かせた仔犬たちがいるんだ。おそらく母犬は死んだと思う。ミルクをあげたいなあ。ミルクは高いんだけど…いいんだ、やっぱり買ってこよう。あとでビデオを送ろうか?」と言うのでお願いした。
数十分後、このビデオが送られて来た。
自然と「ありがとう」と言ったら、「僕に礼はいらないよ、"This is my duty" これは僕の義務なんだから」と。ムハンマドの優しさは、自分たちの食べるものが減ってしまうことを恐れない。この時の"This is my duty"という言葉が、彼を象徴する言葉だということを後に知った。
それから、このビデオを送られてきてほどなくして、白猫のCocoが怪我をしたので病院に連れて行きたい、その為のお金を工面して欲しいというので、インスタグラムとツイッター(X)で治療費を募るキャンペーンを立ち上げた。
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7月8日
【Cocoの怪我の治療費カンバのお願い】 愛猫Cocoちゃんが昨日、大きな野良猫に攻撃されて足を怪我してしまいました。放っておくと化膿してしまいそうです。 近くに動物病院はあるのかと聞くと、彼らのいるディア・アルバラ付近に機能している所があるのだそうです。 $100で、診察代、薬代、エサ代がひとまず賄えます。 10人で$10ずつでも、ご協力いただける方はDMをお願いします。
この時は$100という比較的達成しやすい額だったことと、ムハンマドの動物を愛する側面に共感を持ってくれたのであろう方々からお寄せいただき、1日足らずで目標額が達成された。ムハンマドへ送金後、早速Cocoに治療を受けさせることができ、無事回復したと報告があった。
日本の市民からの寄付がガザにいる人や動物の生活に直接的に影響することを、この時強く感じたのを覚えている。この他にも、日々の食費や水を買う為の費用、ムハンマドの病気のお母さんの治療費や、地獄のような暑さのテントに苦しむ子ども達の為のテント購入資金など、さまざまな募金キャンペーンを立ち上げて、その都度多くの方々にご協力いただいた。
その中で、同じくムハンマドとやり取りをされていて、募金を呼びかける度に支援してくださる方がいた。7月の終わりのある日「ムハンマドに頼まれて、近隣200世帯に水とパンを配ることになりました」とご連絡があった。耳を疑った。個人の寄付でそんなことができるの?と。
早速ムハンマドに問い合わせると、「ああ、そうだよ。水とパンを配ったよ。Yoshiにお願いしたんだ。みんな喜んでくれたよ。」とサラッと言ってのけた。そして大量の写真を送ってきた。
(以下はその写真を私がスライドショーにしたもの)
当初200世帯に配る予定が、それを見た隣のキャンプの子ども達に「僕たちにも!」と言われた為、急遽追加で250世帯分の水とパンを買い、計450世帯に2日間に渡って配ったそうである。(支援者の吉田さん曰く2日目のことは直前に聞いたそうだが・・・)
ムハンマドに「凄いね、あなたを誇りに思う」と伝えると、ぶっきらぼうに「俺は何もしてない。全部Yoshiのおかげだし、It's just my duty(これは俺の使命/義務だから)と返された。このIt's just my dutyというセリフは野良犬たちの世話をした時とこの時と、それ以外にも私が彼を何か褒める度に繰り返された。
この後、8月半ばにもまた450世帯にパンを配ったと写真付きで報告をくれた。
さらに9月に入ってからは、近くのテントに住む少女が生活の為に作っているドーナツをムハンマドが買い上げて、それを近隣の子ども達に配るプロジェクトも決行していた。いずれも、吉田さんの支援をもとに。
ここで皆さんが気になるであろうことは、吉田さんとは一体何者なのだろうか、どんなお金持ちなのだろう?ということだと思う。ご本人曰く、「私はどこにでもいるサラリーマンです」とのことだが、そうだとしても、実際にこういうことをしようと思う人がどこにでもいるわけではないのは確かだと思った。だからこそ、吉田さんの活動を知ってほしいと思った。個人の寄付が現地でどんな風に活かされていて、実際に飢えている人びとのお腹を満たすことができるのかということを。
なお、寄付の主な用途としてガザにいる多くの人びとがあげているのが、ガザからエジプトへ避難するための費用だ。大人ひとり最低5,000ドルがかかるそうだが、そもそも5月にエジプトに逃れるために使われるラファの検問所はイスラエル軍によって封鎖されてしまった。ムハンマドから初めて連絡がもらった時も、当然この避難のための費用も募りたいのだろうと思っていたのだが、念のため聞いてみたところ、、、
6月19日
もしガザからエジプトへ逃げるための充分な資金があったとしたら、逃げますか?それともガザに留まりますか?
「俺は自分の国を絶対に離れない。ここで死ぬ。エジプトなどには行かない。」
そういう覚悟の人もいるんだと、改めて思い知りました。
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この時、改めてパレスチナ人と一括りにしてはいけないこと、それぞれにそれぞれの考えがあることを痛感したのだった。
この虐殺や全ての占領や暴力がなくなったとしたら、一番最初にしたいことは?
「特にないよ。日々の支払いをする為の仕事を見つけるだろうね。」
(ムハンマドはたまに冗談も言うけれど、基本的にこういう淡々とした喋り方をする)
ムハンマド、サレ氏と会う
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8月も終わりのある日、インスタグラムのとあるアカウントのリンクと共に、ムハンマドからこのツーショット写真が送られてきた。
ムハンマドの隣にいる人が誰なのかは、そのリンクをクリックする前にわかった。彼の名はサレ・アリアファラウィ氏といって、ガザから命がけで現状を発信し続けている、502万フォロワーのいる写真家・ジャーナリストである。
Saleh Aliafarawi氏のインスタグラムのアカウント
サレ氏はイスラエル軍がムハンマド達がいたディル・アル・バラから撤退した後に破壊の様子を撮影しに来たとのこと。それから一緒に人々の悲惨な状況について話したらしい。
こんな笑顔のムハンマドは侵攻前の写真以来見たことがなかった。ガザで何度も死に直面しながらも他者を助けつつ生き延びてきた者同士の、互いへの敬意が感じられる写真だと思った。
そして、こんな著名人と撮った写真は当然インスタグラムに載せるものだと思うのだが、ムハンマドはそういうタイプではなかった。そもそも彼のインスタページには投稿が2つしかないし、ストーリーズ(24時間で消える投稿)へも滅多に投稿しない。前述のパンと水、それからドーナツ配布プロジェクトを遂行した時も、一切投稿はしていなかった。そういう人なのだ。
正直、もっとたくさん投稿した方があなた自身への寄付も集まると思うんだけどと伝えたら「俺は誰に対しても助けを求めたいわけじゃないんだ」と言われた。ムハンマドらしいと思うと同時に、善業を行なってもそれを決してひけらかしたりしないイスラム教徒ならではの振る舞いなのかもしれないと感じた。
この他にも、イスラエル軍にご主人を拉致されたご婦人の家族に食べ物を買ってあげたい、家族のために道端でお金を乞う子どもを支援したい、未亡人の家族のためにテントを買ってあげたいなど、自分自身の生活も苦しい中、吉田さんへ相談があったと聞いている。その都度、できる範囲で支援をしてこられたとのこと。吉田さんひとりではとても続けてはいけないので、皆さまからもそれぞれに無理のない範囲であたたかいご支援をいただけたらと思う。
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最後に読者へのメッセージはありますか?
「一度だけでなく僕や僕の家族を助けてくれたことに対して、皆さんを愛し尊敬しているということを伝えたい。侵攻が終わったらいつか会えることを願っているよ。僕たちの味方になってくれてありがとう。」
編集後記
7月末から書き始めて、1ヶ月以上もかかってしまった。当ブログ「ガザからの手紙」に登場した他の人たちにも言えることなのだが、私が見えている彼ら(やりとりしている人たち)の様子や感じ取る印象は、彼らのたった一部分、一側面でしかない。それをあたかも全てを知ったように思わないように気をつけている。美化しないようにするというのも気をつけているが、これがなかなか難しい。彼らと接していると人知れず、当たり前のように他者に自分のものを分け与えたり、助けようとしたり、安全な場所にいる私のことまで気遣ってくれたりと、もうすぐ1年にもなるジェノサイドの現場にいて、今日食べるものにも困っている人たちとはおよそ思えない態度を日々見せてくれるから。
こちらが余計な美化や脚色はせず、そのまま伝えようとしてもどうしても光を放ってしまう、少なくとも私がやりとりをしている人たちはそういう人たちだということは伝わると良いなと思う。
ムハンマドは特に、自分からはほとんど発信はしないけれど、ひっそりと光を放ち続けながら困難を生き抜いているように見える。そんな彼に触れたい方は、ぜひ私のツイッター(X)の #ムハンマド日記 や、彼自身のインスタグラムアカウントをフォローしてもらえたら嬉しい(たまにストーリーズが更新される)。
家族のみならず、動物や他者へも手を差し伸べ続けるムハンマドへ、以下のnoteの購入機能をご使用いただくことでのご支援も承ります。全額ムハンマドへお届けします⬇︎
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