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8歳を困らせるな

元旦のあさ。

実家にて、父母、babyちゃん(17歳娘)と
boy(15歳息子)と、いつものように
オセチをつっついていた。
夫は、夜にならないと来ない。
1人きりで、年越しをしたいひとなのだ。
毎年のこと。

今年は、母の代わりに、オセチ作りを
がんばります、などと公言していたが、
結果、いつものように母が作ったものを
わたしがお重に詰めるだけ、という情けない
ありさまで申し訳なかった。

うちにはお雑煮を食べるという習慣はなく、
ぜんざいしか食べない。
しかし父母は、小豆を植え、収穫する
ところからやる。
母は退院してから、味覚があいまいになって
しまって、と嘆いていたが、とても
おいしいぜんざいだった。

一度、お雑煮っていうの、食べてみたい、
と言ったことがあるが、母は、
「お味噌汁に、お餅が入っているだけの
ものだ」
と言い、スルーされた。
たぶん、違うと思う。
それが地方により、全然違うのも知っている。
日本各地のお雑煮、食べてみたい。

今年いつもと違ったこと。
元旦のご挨拶のあと、うちには、
「年取り柿」と言って、ひとり一つ、
干し柿を食べる、という風習があるのだが、
これが、去年、柿の不作により叶わなかった。
いつも作る干し柿が、作れなかったのだ。
それくらい、柿が実らない年だった。

考えたあげく、
今年は、「年取り栗きんとん」にしよう、
という話になり、紅白をみながら、
boyと栗きんとんを作った。
環境の変化を前にすると、
風習も、柔軟に塗り替えていくしかない。

オセチを食べていたら、遠方に住む
妹家族から、動画通話がかかってきて、
おめでとうの挨拶をする。
妹には息子が2人いて、まだ8歳と5歳だ。

母は嬉しそうに、最近野球を始めた、という
8歳の孫に、
グローブを見せて、とか、
投げているのを見せて、など、
画面に向かって言っていた。
孫に男の子ができたら、野球をしてもらい、
応援にいく、というのが
母の夢で、それをわたしとboyは、
叶えてやれなかったので、この8歳に
託したいと思う。
母が続けて、

「書き初めをしたのを見せてね」

と言っている。書き初めは、マストなんだ。
しかし、ここで普通に終わらないのが母。

「今から言う言葉を書いてね」

ものすごグイグイくる。いつもの事だが。

「出世」

画面の向こうの8歳が、黙っている。
たぶん、意味が、わからないのだと思う。
オセチをつついていたわたしたちは爆笑した。

なんで「出世」なんだよ。
今の自分の状況から考えて、そこは
「健康」とかだろ。

周りを見渡しても、家族に、出世と関係ある
ひとがいない。わたし達三姉妹の夫たちは、
それぞれ、漁師、経営者、教師、であり、
出世?という感じだし、
娘たちも、出世街道からは縁がないものたち
ばかりだ。
父母はすでに年金暮らしなのだし。

8歳は、わかったともわからないともいわず
電話は終了した。

しかし、通常の出世、という意味よりもっと
広い意味があるのかもしれない、と思い、
調べてみた。

しゅっせ[出世]

1.世間に出て、人に知られるよい地位・身分になること。
2.俗世間から出て仏門に入ること。出世間。
3.この世に生まれ出ること。出生。

ふーん。
生まれてくることを、出世、というとは
知らなかった。
母に、なんで「出世」なのか、
と聞くと、

「友達の家に、出世、って書いた文字の周りに
家族がニコニコして写っている写真が
あったの見たの。それが、すっごく、
よかったから、やりたいの」

と言った。やっぱり深い意味がなかった。
母らしい。

ああ。わたしもやらされるんだ。
出世、の文字のまわりで、ニコニコして
写真を撮られる日が、近いうちやってくる。
母は、やりたいことは、やり遂げる人
なのだ。ただ、わたしは、
どんな気持ちでそれをやればいいのだろう。

まあいいや。
今年も、母の無茶振りに、家族みんなが
笑いながら付き合いますよ。
望むところである。



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