見出し画像

ボブ・ディランのDon't Think Twice, It's All Rightをしみじみと弾き語り風に歌う

英語のポップスを聴いて育ち、カラオケに行くといつもクラシックなロックやポップスを歌います。その中でも歌うと気持ちがスカッとする曲があります。メロディーが良かったり、英語の歌詞が深かったり、その曲が歌われた時代の社会情勢などを感じられたりとか。

さて今回ボブ・ディランの曲をもう一つ取り上げます。1963年に発表されたDon't Think Twice, It's All Right(邦題:くよくよするなよ)です。前に取り上げたミスター・タンブリンマンもそうですが、ディランの曲は他のアーチストにカバーされて有名になったものが多いです。このDon't Think Twice, It's All Rightもそんな曲の一つで、1960年代を通してアメリカのフォークグループとして絶大な人気を誇ったPPM(ピータ・ポール・アンド・マリー)のカバーが良く知られています。ディランのしゃがれ声で癖のあるボーカルよりPPMのポール・ストゥーキーの低音を響かせ、落ち着いた歌い方が洗練された雰囲気を醸し出し聴きやすく人気があったようです。
歌詞の内容は、一聴すると主人公が思いを抱いているがつれない態度の相手からぼやきながら去って行く、つまり別れの歌というふうに受け取れます。 
しかしそれだけではないような気もします。歌詞を見てみましょう。

1番、2番は主人公がいじけた感じで、未練たらたらのような気持ちを歌っています。こんな歌詞です。
It ain't no use to sit and wonder why, babe. It don't matter, anyhow.
(ねえ君、腰を下ろして、どうしてってて考えるのは無駄だよ、いずれにしたって、どうでも良いことだからさ)
An' it ain't no use to sit and wonder why, babe. If you don't know by now.
(ねえ君、いまだに分からないんじゃ、座りこんで、何故って考えるのは無駄だよ)
When your rooster crows at the break of dawn, look out your window and I'll be gone.
(雄鶏が夜明けを告げる頃、窓の外をご覧、僕が去って行くよ)
You're the reason I'm trav'lin' on. Don't think twice, it's all right.
(君が僕に旅を続けさせるんだ。でも、もう思い悩まなくたっていい。大丈夫) 
It ain't no use in turnin' on your light, babe. That light I never knowed.
(ねえ君、灯りを点けても無駄だよ。そんな灯りを僕は知らなかったけど)
An' it ain't no use in turnin' on your light, babe. I'm on the dark side of the road.
(ねえ君、その灯りを点けても無駄だよ。僕は道の暗がりにいるからね)
Still I wish there was somethin' you would do or say. To try and make me change my mind and stay.
(でも僕はまだ、君が何か言うかするかで、ここにいるように僕の気持ちを変えてくれたらなんて思っているけどね)
We never did too much talkin' anyway.So don't think twice, it's all right.
(いずれにしても、僕たちはそんなに話もしなかったし。だからもう思い悩まなくてもいい。大丈夫)

2番に続き、即3番になります。3番でも主人公の屈折した気持ちは変わらないようですが、この別れの理由について少し考え出すようです。
It ain't no use in callin' out my name, gal. Like you never did before
(ねえ、お嬢さん、僕の名前を叫んでもむだだよ。君は前にもそんなことはしてないけどね)
It ain't no use in callin' out my name, gal. I can't hear you any more.
(ねえ、お嬢さん、僕の名前を叫んでもむだだよ。僕には君の声はもう聞こえないからさ)
I'm a-thinkin' and a-wond'rin' all the way down the road.
(僕はずっと考え、道を迷っている。)
I once loved a woman, a child I'm told. I give her my heart but she wanted my soul. But don't think twice, it's all right.
(かつて僕はある女性を愛したが子供だって言われた。僕は彼女に心を捧げたけど彼女は僕の魂まで欲しがった。でも、くよくよしないで。大丈夫。)

想像するに、主人公は、自分と相手に思い入れの違いがあったのかなどと考え出しているようです。そして4番です。主人公は、いよいよ決別を決心するかのように少しシニカルで辛辣な言葉を投げかけます。
I'm walkin' down that long, lonesome road, babe. Where I'm bound, I can't tell
But goodbye's too good a word, babe. So I'll just say fare thee well.
(ねえ君、僕はあの長く孤独な道を歩いているんだ。どこに行き着くのかも分からないままね。でも、君、グッバイなんて言葉はもったいない。だから、ただ元気でねと言うよ)
I ain't sayin' you treated me unkind.You could have done better but I don't mind.
(君が僕を不親切に扱ったとは言ってないよ。君はもっとましにやれたかもしれないけど、僕は気にしない)
You just kinda wasted my precious time. But don't think twice, it's all right      ( 君は僕の貴重な時間を無駄にしたようなもの。でも、二度と考えないで。大丈夫)

さてこんな歌詞ですが、この曲で主人公が別れを告げようとしているのは行き違いのあった恋人のように聞こえます。しかし実は決別する相手は、人に限らず自分の思いれのあった事柄ととることもできます。古いもの、なれ親しんだものから新しいものへと移って行くときに踏ん切りをつけるときの応援歌のようにも受け取れます。
そして私はこのDon't Think Twice, It's All Right.は深い自省の歌だと感じます。ボブ・ディランの曲の中でも、そして洋楽全体でもこのように終始、自分の心だけと向き合うような詞の歌は少ないのではないでしょうか。日本人には割と理解しやすい感じではあるのですが。

このように、言葉が詰まった、思い入れがたっぷりあるような歌い方で語るようにどんどん歌われます。カラオケで歌うときは、比較的おだやかな演奏で上品な歌い方のPPMのバージョンがお勧めです。音域の低い私は原曲のキーのまま歌いますが、低すぎると言う人は少しだけ上げましょう。あまり上げ過ぎると原曲の持つイメージと違ってきます。
この歌はさびの部分でも声を張り上げずに歌います。聴かせどころは1番から4番まで歌の最後に繰り返されるdon't think twice, it's all right というフレーズ。it's all rightのところをさりげなく低音を響かせてきめます。
イントロは長いのですが間奏は無く歌がどんどんと続きます。気を抜くことなく心して歌いきりましょう。
歌の途中にあるgalという言葉ですが、ディランは「ギャル」と歌っていますが PPMは折り目正しく「ガール」と歌っています。私はこっちのほうが上品で良いと思っていますがどうでしょう。それとこれも主観ですが、弾き語りの雰囲気を出すためには座って落ち着いて歌った方が良いかも知れません。

ところで先にPPMのバージョンがお勧めと言いましたが一つ気なることがあります。それはPPM版がディランのオリジナルと違う部分があることです。PPMはディランの歌詞の3番と4番を入れ替えています。なのでかっての恋人との話で歌が締めくくられ、女性との別れが歌の主題に聞こえます。これが気になる方はディランのオリジナルバージョンのカラオケで歌われると良いと思います。

PPMは60年代の初めにデビューし伝統的なフォークソングのスタイルを踏襲しつつ、優しくわかり易く訴えかける楽曲、女声を入れたコーラスとスリーフィンガーピッキングと呼ばれる分散和音のギター演奏などモダンなイメージをもったフォークグループでした。社会運動にも積極的に参加しアメリカそして日本においても学生を中心に大変な人気を誇っていました。ボブ・ディランの曲を最初に取り上げたのもPPMでした。しかし、60年代の終わりになり、若者の嗜好がロック系の音楽になるにつれ、やがて第一線からは遠ざかりました。そのロック音楽潮流の一つの原点にあったのがボブ・ディランと言うのは少し皮肉な感じがします。


いいなと思ったら応援しよう!