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幻想小説 幻視世界の天使たち 第33話

「でもその時間を過ぎると銅鏡の青い光を使った方法でないと現実にはもどらない。これが今の悟志君の状態ね。だから……」ミカはそこで言葉を飲んだ。
「今のところ、悟志君を現実に戻す方法はただ一つね。それは銅鏡の青い光を見せることなのだけど、このウリグシクにあった銅鏡はすべてコンバイが持ち去ってしまったの。そして日本で見つかって、樹恩寺にあった銅鏡も奪われてしまったようね。コンバイがワン教授に偽の手紙を書かせ、セナに送ったのも鎌倉に一つあった銅鏡を手に入れるためと考えられるわ」
せっぱつまった顏になって、仁がミカに尋ねた。
「それじゃあ、どうやって兄を助け出すと言うのですか」
ミカが答えた
「日本にはもう一つ銅鏡があるはずなのよ」
「え、それはどこに?」とセナが尋ねた。
「樹恩寺に保管されている鎌倉時代の文献では、元寇の際にモンゴル帝国軍がその銅鏡を軍船に積んで持って来たとあるわ。それは船に乗っていた戦士や、船乗りたちに幻視を見させて士気を鼓舞する目的があったようなの。それは最近私が手に入れた、元寇の際の出来事を記した古文書に書かれているのだけど、最初の元寇、文永の役の際に博多湾で座礁したモンゴルの軍船から銅鏡二組が日本の武士により持ち去られ、一つは鎌倉にもう一つは対馬に持って行かれたとあるの。鎌倉に運ばれたものが樹恩寺にあったものね。そしてもう一つが対馬のどこかにあるはず」
「対馬?でもそれは島のどこにあるか手掛かりがあるの?」とセナが尋ねた。
「それは表立った記録にはどこにもないのよ」とミカが言った
「それじゃ、どうやって?」とセナが聞き返した。
「仁に夢の中へ見に行ってもらおうと思うの」とミカが言った
「どういうこと?」セナがもう一度聞き返した。
そこまで黙って聞いていたユースフの方を見た。ユースフはうなずくと研究室の奥からホワイトボードを運んできた。
ミカが言った
「このアイデアは私とユースフが相談しながら作ったの。ここから彼に説明してもらうわね」
そういうとミカはユースフの方を見た。ユースフはホワイトボードを使って、時々ミカの助けを得ながら、日本語で説明した。
「まず、この計画の前提条件になっているのはミカと仁と陵が共通の言い伝えを記憶しているということだ。仁と陵の家では代々後を継ぐ子供に鎌倉時代に起きたある事件を物語りとして伝えていると思う。またその事件をきっかけに仁の北家、陵の南家がミカやセナの三浦家を守ることになったと言われている。ミカあっているよね」
セナが口を挟んだ。
「うちは篠原ではなく三浦家だったのね。前に仁から聞いた」
ミカがユースフとセナを交互に見て言った。
「あっているわ。ユースフ。セナ、その通り、篠原家は江戸時代の始めくらいまでは三浦という性だったのよ。その時代にも何か事件があって改姓したらしいのよ」
「ふーん。そうなの?」とセナが言うとユースフが続けた
「その三家に伝わる物語の中に、樹恩寺にあった銅鏡とは別の銅鏡の在りかが示されているらしい。もし仁か陵がそのことを覚えているのであれば、我々はそこに出掛けて銅鏡を見つけ出せば良い。残念ながらミカはそれを覚えていないと言う。どうだい、君たちのどちらかでも覚えているかい。仁、陵」
陵が頭を掻きながら言った。
「家に残る言い伝えっての言うのは、あの悠馬と三郎太の話かな、仁」
仁が陵を見て言った。
「ああ、あの話だな」
ミカが話に加わった・
「鎌倉時代、北条時宗の家来の三浦悠馬と三郎太が鎌倉から京都を経て博多、それから海を渡って対馬まで旅をする話ね」
セナが口を尖らせて言った。
「その話は全然聞いたことがない」
ミカはセナに言った。
「私は樹恩寺のおじいちゃんから聞いたわ。多分、パパも知っていると思うけど、この話を受け継ぐことを拒否したので、私がおじいちゃんから直接受け継いだの」
陵が「しかし、あの話に銅鏡の有りかなんて出てきたっけ」と言うと仁も「微妙だな」と答えた。ミカが言った。
「あの話の最後は、対馬で終わるのよ。銅鏡も話の最後のほうに出てきて対馬で失われる。だから、そこから推理すると、少なくとも一つの銅鏡は対馬にありそうなの」
仁と陵が頷いた。ミカ達の会話をじっと聞いていたユースフがホワイトボードに「物語」と書いてそこから矢印を伸ばして「対馬のどこかに銅鏡」と書き、再び話始めた。
「そう、物語を知っている誰もが、何となく記憶しているけど、詳細は覚えていない」そう言うとユースフはホワイトボードの真ん中に「幻視」と書いて、そこから「対馬」のところまで矢印を引っ張った。
「仁は前にコンバイの魔境の伝説をやっていて、途中から幻視の世界に入って行った」
仁が頷いた。ユースフが仁にその時幻視で見たものを説明してもらえないかと言うと、仁が二度目の幻視で見たものを簡単に話した。それを聞いてユースフが言った。
「その時は、RPGのストーリーに入り込んだと思ったかも知れない。しかしその時もっと多くの幻を見ていると思う。それは仁や陵の家に伝わる悠馬と三郎太の話だと思われるのだ」

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