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未来宇宙SF コスモス(宇宙)を継ぐ(3)~レイが地球の実家で会ったものとは~

   レイは久々に地球の実家に戻った。レイがアレックスに実家からアイというロボットを取って来るように頼まれて約200時間後のことである。宇宙ステーションから地表まで宇宙エレベーターを使って降りた。宇宙エレベーターは地上の基地と宇宙ステーションをカーボンナノチューブ製の外壁をもつダクトで繋ぎ中をゴンドラと呼ばれる小型の乗り物が行き来するしくみである。
 エレベーターの地上基地は宇宙ステーションの軌道に近い南米のジャングルの中にある。レイは今回ゴンドラで約3万6千キロのダクトを下降中、何度も小刻みな振動を感じ、宇宙酔いに襲われた。宇宙ステーションで勤務する者は多かれ少なかれ、宇宙空間の色々な場所でこの宇宙酔いを経験しているが、こんなに体に響くのは初めてであった。振動は断続的に続いた。俺の体どっかちょっとガタが来てんのかなとレイは考えた。
 これは、一家に伝わる遺伝のようなものだ。父親もレイの記憶する限りいつも顔色が悪く、体調がすぐれない様子で、40代半ばに病気で死んでしまった。祖父も同じように亡くなったらしく、顔さえ見たことがなかった。レイは地上にたどり着いた後、大陸や海を渡って地球上のあらゆる都市まで続く交通ダクト内を、ひた走るカプセル内でじっとしていた。
 やがて彼の実家のある日本のヨコハマのシン-タカシマ・ステーションに着いた。交通ダクトはこのあたりでは、何百年か前の地下鉄のトンネルをそのまま利用している。駅から実家のある居住ブロックまではひたすら地下歩道を歩く。この地下道はダクトの延長のようなものなのだ。地上を出て歩きたかったのだが、日中地上は紫外線が強すぎ体に良くない。
 レイは実家に付くと、10年以上一人暮らしをしている母親への挨拶もそこそこに、地下の物置に降りていった。彼がまだ10代のはじめの頃、ユーススクールの友達とこっそりとエグいビデオゲームをやって時間を過ごした思い出の場所である。
 レイは天井が2メートルほどある地下の物置部屋の片隅の古いソファーの上に子供の頃から見慣れた棺のような段ボール製の箱を見つけた。その前まで行くと箱の蓋が少しずれているのが見えた。レイは蓋を更にずらしてみた。中は空であった。その時いきなり空箱の陰から飛び出てきたものがあった。
 それは猫の形をしたロボットであった。何と三匹だ。黒と白と三毛の猫たちでどれも足が少し短い。三匹は一斉にレイに向かって鳴き始めた。レイは黒いやつの首を掴み持ち上げると頭のうしろ辺りを手で探ってスイッチを探した。この手のロボットは大抵この辺りに会話スイッチがあるはずだ。指先に軽く当たる突起物を押すと猫は一瞬動きが止まって喋り始めた。
「アイは出て行ったよ」
「なんで、どこへ」
 レイは思わず声を大きくして言った。
「知らない。怖い、怖いと言っていた」
「怖い?おれがか」
  レイは残りの二匹のスイッチも入れてみた。猫たちは一斉に甲高い声で喋り始めた。そして、ひとしきり三匹が勝手にしゃべると、何故か急におしゃべりを止めて声をそろえて言った。
「アイは隠れているよ。僕たちはおにいさんをアイの所に連れて行くよ」
三匹のロボット猫は一列に並んで行進し始めた。レイはそのまま後を歩いて行く。家の地下室から一階に上がり、そのまま玄関を出て、猫たちは本物の猫のためにある扉を、そしてレイは人のための扉を開けて外に出た。
 猫たちは門の下を潜り、レイは手で門を開けて歩き出し 家の前の通りの横断歩道を渡って、公園に着いた。公園の中に入ると猫たちは一直線に向かい側の入口のわきにある掃除ブースに向かって走った。
 猫たちは動きがのんびりしているように思えたが、一旦動き出すと素早いようだ。レイも必死に走っているが追いつかない。彼は最近、宇宙ステーションで義務づけられた運動の時間にコンベアーベルトでジョッギングをするだけで、全力で駆けることなどはない。
 やがて彼は掃除ブースのところに着いた。ロックされていないドア開けるとそこには見たことのある白いヘルメットとモービルスーツのロボットが膝を抱えて座っていた。レイは話しかけてみた。
「君は動くのかい」
  ロボットがまるで考え込むようにヘルメット部分のランプを点滅させた。そして30秒ほど経って言った。
「うごくよ―――」
「OK。君の名は―――何だい」
「わたしのなまえは――アイ――です」
「アイ――?どういうふうに書くのかな」
「えいごのアルファベットの9ばんめのIです」
「アイは良い名だね」
「どうもありがとう。あなたの名前は?」
「ぼくはレイだよ」
  アイは考え込むように動きを止めた。
「なぜ、君はここに来たのかな?」
「―――逃げなさい。とママがいいました。少しあとで父さんもいったよ」
「ママ?父さん?アイ君には親がいるのか」
「いるよ、わたしのなかにいるよ」
 そう言うとアイは腕を動かして自分の胸を指した。
「――そうか。で、行こう。歩けるかな」
「ラジャー」
「そんな言葉を知っているのだな?」
「わかりましたです。友だちに教えてもらった」
「友達?誰だいそれは―――あ、まあそれはいいや。ともかく行こう」
「どこへですか?」
「家に。あ、まてよ」
  レイはちょっと考えこんだ。そもそも何故アイは逃げてきたのだ。そして誰から。アイは急に話し始めた
「わたしはAI撲滅団とコンバイからにげてきた。いま家にかえるとあぶない。家にかえるとつかまる」
  レイは家に帰らないことにした。良くは分からないが何か敵意を持った者が周りで動いているようなのだ。
「僕が働いている宇宙ステーションに。今すぐ行こう」
  レイはそうは言ったが、しかしスーパーヒーローの格好をしたロボットを連れ、あのチェックの厳しい宇宙エレベーターに乗り、宇宙ステーションに入れるだろうかと考えた。アイが口を開いた
「せなかのまんなかにふたがあるので、それをあけて中のボタンをおしてください」
  そういうとアイは立ち上がった。背の高さはレイより少し高かった。アイは少し屈んで、背中の方をレイに向けた。

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