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人は誰もが、コピーライター
人生初となるビジネス書を出版したのは、2020年9月のこと。「新規顧客が勝手にあつまる 販促の設計図」という書籍で、中小企業のB2Bマーケティングの指南書として、出版から1年経った今も、「亀の歩み」のようですが売れ続けているようです。
私は一応、会社の代表ではありますが、本業はコピーライターです。
つまり、文章を書くのが仕事ではありますが、書籍の執筆となると、まったく勝手がちがいました。そのため構想から1年半、編集者との侃々諤々の共同作業により、ようやく本屋で書籍と対面したときは、まさに感無量でありました。
ところで、作家やコピーライターなど、文章を書く仕事を生業にする方だけでなく、いまやすべてのビジネスパーソンにとって、「書く」のは必須のスキルです。日々の企画書や報告書はもちろん、自社の製品・サービスや事業内容を、顧客や株主などステークホルダに対して伝える機会も多いはず。「コンテンツ」の重要性は、今後ますます高まっていくことが予想できます。この理由には3つあります。
ひとつは、商品の成熟化とコモディティ化です。あなたにも経験があると思いますが、インターネットでほしいものを検索すると、似たような商品が次々に登場します。そもそも素人の消費者が、商品のちがいや特長を判断するのはむずかしい。そのため、ここでは商品へのこだわりや思いを、ストーリーとして言語化する能力が求められます。
二つ目は、AIの急速な発達による業務の二極化にともない、単純作業の多くはAIに置き換えられつつあること。人間には今後、アイデアを生み出して未来を描き、力強いメッセージを発信して、プロジェクトメンバーや社会を動かす力が試されるでしょう。
三つ目に、コロナ禍が長くつづいたことで、コミュニケーションの質が変化したことを挙げておきたいと思います。たとえば、従来型のセールスであれば、面会したときの印象や人柄、営業トークの技術で商談が成立するケースがほとんどでした。
ところが昨今、感染を防ぐため対面での面会がしにくくなり、ウェブ会議が浸透したことで、短時間での密度の高いプレゼンテーションが好まれるようになりました。商品に共感してもらうには、魅力あるコンテンツやロジカルな文章力が欠かせません。今のように差別化が困難な時代では、なおさらです。
最後になりますが、初めての書籍出版をふり返ってみて、感じたことを述べておきます。
「新規顧客が勝手にあつまる 販促の設計図」は、B2B企業のマーケティングが主なテーマ。私にとって知識や実績がある分野で、当初は「簡単に執筆が進むのでは」と思っていました。ところが編集者から、「わかりにくい」「内容がもの足りない」「読者とのインタラクティブな要素を盛り込めないか」など多くのご指摘をいただき、一冊の書籍として体系化することのむずかしさを痛感することになったのでした。
英国の哲学者、フランシス・ベーコンの言葉。
「読書は充実した人間をつくり、
会話は機転のきく人間をつくり、
書くことは正確な人間をつくる」
正確な人間になるための努力は、おそらく一生つづくのだと思います。