2 青いウナギ(魚)
菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)
晩年、プラハの南西部にあるラドチーンに引っ越して釣り三昧の日々を過ごしていたオタの父(おやじ)は、ウナギ釣りに恐ろしいほどの情熱を燃やす。庭にウナギ用のいけすを作り、夜な夜な、寝る間も惜しんでウナギの餌となるミミズ集めに奮闘する。そして、ようやくウナギを釣り上げると、とびっきりのもてなし準備をして、オタに声をかけ、そのウナギをご馳走する。極上のウナギ料理を味わうオタをおやじは黙って見つめる。静謐な空気を漂わせると同時に、結末を予感させる緊迫した一場面だ。
その時におやじが準備した羊皮紙風のお手製メニューには、42のウナギ料理が載っている。42?! ウナギ料理ってそんなにあるのだろうか? かば焼き、白焼き、てんぷらやフライもできそうだ、刺身…は無理かな、椀だねや鍋の具材にもなるかも、ああ“う巻き”もよい、それにうなぎパイ? でも42は思いつかないな、とあきれながらメニューをながめた。
1 英国風ウナギのパテ
2 英国風ウナギ
3 ボーケール風ウナギ
4 ベネチア風ウナギ
5 ウナギのベネディクト風
6 ウナギのボンヴァレット風
7 ボルドー風ウナギ
8 ブルゴーニュ風ウナギ
9 デュラン風ウナギ
10 ウナギのフィーヌゼルブ
11 フランドル風ウナギ
12 フランス風ウナギ
13 ハンブルク風ウナギ
14 ウナギのヘリー風
15 美食家のウナギ
16 粉屋のウナギ
17 ウナギの串焼き
18 ウナギのバター焼き
19 青いウナギ
20 ウナギのクリーム煮
21 ドイツ風ウナギ
22 ノルマンディー風ウナギ
23 パリ風ウナギ
24 ウナギの灰焼き
25 プロヴァンス風ウナギ
26 ウナギのロブスターソース添え
27 ウナギのエビ添え
28 ウナギの煮込み
29 ウナギのロベルト風
30 ルーアン風ウナギ
31 ロシア風ウナギ
32 ローマ風ウナギ
33 ウナギのオランダ風ソース添え
34 ウナギの揚げ物
35 ウナギのサント=ムヌー風
36 シュフラン風ウナギ
37 スペイン風ウナギ
38 トルコ風ウナギ
39 燻製ウナギの揚げ物
40 ヴィレーム風ウナギ
41 ウナギのヴィルロワ風
42 ウナギのフリカッセ
(「金のウナギ」より、便宜上番号を付記、p.191)
見たこともない料理名ばかりだけれど、なんだかおしゃれでおいしそうな名前がずらりと、本当に42も並んでいるではないか。ウナギの揚げ物、ほほう、やはり揚げ物は鉄板だなあ。クリーム煮、ふむふむ、ウナギの白身とクリームは相性がよさそう。燻製ウナギ、これは未知の味だ、ぜひ食べてみたい。ボルドー風とブルゴーニュ風とパリ風とフランス風とプロバンス風とノルマンディー風はどう違うんだろう? わくわくする料理名の中に、異彩を放つものがあった:青いウナギ。青いウナギ? ウサギ? ウナギ?
青いウナギ(Úhoř na modro)とは、ウナギの皮の青さを引き立たせた煮込み料理のようである。ウナギだけでなく、青いマス(Pstruh na modro)、青いコイ(Kapr na modro)というバリエーションもあるようだ。ただ、レシピは見つかるのだが、写りのよい「作レポ写真」を見つけることができず、どれほどウナギに青みが出るのか、非常に残念ながら確認できなかった。そして味も。誰か作ったら教えてください。ちなみに、レシピの一例は以下のとおり。
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Úhoř vařený na modro (青い煮込みウナギ)
【材料】6人前
・ウナギ:1.2キログラム
・塩:適量
・水:1.5リットル
・野菜(ニンジン、パセリ、セロリ):2キログラム
・玉ねぎ:0.5キログラム
・バジルとセージ:少量
・粒コショウ:8粒
・粒オールスパイス:6粒
・酢:1/16リットル
【作り方】
1.ウナギはしめてから、ひれを切り除く。
2.ウナギの頭に麻ひもを結び、釘にひっかけて吊るす。その状態で、ウナギの頭から尾のほうへと、粗塩をすりこむ(青味がでてくるまでしっかりと)。
3.青くなったら、頭を切り落とし、胆嚢(頭のすぐ後ろにある)をきれいに取り除く。
4.3.を7,8センチメートルの長さに筒切りし、菜箸で内臓と膜を取り除く。
5.筒切りウナギにさらに塩をすりこみ、そのあと、よく洗い流す。
6.深鍋に水を注ぎ、細切りに切った野菜と玉ねぎ、粒コショウ、粒オールスパイス、塩と酢を加え、約1時間、煮込む。
7.そこに、5までの下準備を終えたウナギを加え、柔らかくなるまで15分から20分煮込む。
8.煮汁が冷めたらウナギを取り出し、冷ました煮汁(あるいは魚の煮凝り液)を塗り、冷所に置いておく。
9.ウナギ表面の煮凝りが固まったら鉢に盛り付け、キャベツやレタスのサラダとレモンで飾り付ける。
付け合わせ:白いパン、スパイス入りマヨネーズソースなど
調理時間:1時間30分
レシピ参照サイト
https://www.receptystudenekuchyne.cz/vlastni-recepty-studene-kuchyne-/marinovani-ryb/ryby-sladkovodni-v-ruznych-upravach/uhor-vareny-na-modro/
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それはそうと、かば焼きも白焼きもう巻も、“おやじの42のメニュー”には入っていなかった。卵と合わせるう巻なんて、ヨーロッパでも好まれると思うのだけれどな。
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