19. クトナー・ホラ(文化)
菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)
クトナー・ホラ(Kutná hora)は、チェコの中央ボヘミア州の一都市であり、首都プラハからは電車で一時間ほどの距離にある。市の中心部が「クトナー・ホラの聖バルボラ教会のある歴史地区とセドレツの聖母マリア大聖堂」として1995年にユネスコの世界遺産に登録されている。また、13世紀後半に銀鉱が発見され、17世紀に銀が枯渇するまで、ボヘミア王国のみならず神聖ローマ帝国をも引き付け、町はプラハに次ぐ繁栄を誇った。
現在では、鉱山労働者の守護聖人、聖バルボラを祭る聖バルボラ教会のある「クトナー・ホラ歴史地区」と大量の人骨で飾られたセドレツ納骨堂のある「セドレツ地区」の二つが有名な観光地となっている。
後者のセドレツ納骨堂は、そのインパクトから、チェコを訪れる日本人観光客の間でも比較的有名な場所である。人それぞれの死生観により、訪れる心構え、受ける印象はずいぶん変わるようだ。怖いもの見たさで訪れる人、歴史的経緯を主眼に観察する人、骨格標本のバリエーションを知るために統計を取る人、怖くて足を踏み入れることができなかった人、などなど。露わにされた大量の死と相対する機会は、現代の日本ではめったにない。何を感じるにせよ、貴重な機会となるだろう。
ぼくに紅茶を注ぎながら、クトナー・ホラの教会について、何か話をしてもらえないでしょうかと頼んだ。彼はそれを絵で見たことがあるのだという。
(「潜水艦での魚釣り」より、p.114)