26. かぐわしきスリヴォヴィツエ(酒)
菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)
スリヴォヴィツェ(slivovice)はスモモの実(シュヴェストゥカ、švestka)から作られる蒸留酒である。チェコの代表的な蒸留酒のひとつだが、スモモの蒸留酒自体は、チェコのみならず、中・東欧の多くの国々で造られ、スリヴォヴィツ、スリヴォヴィツァなどと類似の名前で呼ばれている。スモモ(プラム)の蒸留酒なので、「プラム・ブランデー」とも呼ばれる。
(スリヴォヴィツェ)
このスリヴォヴィツェ、「プラムのお酒」という愛らしいイメージにだまされることなかれ、アルコール度数は40度を超えるものが多く、中には50度に達するものもある。アルコールに弱い方は要注意だ。常温では多少アルコール臭がするものの、それに勝る芳醇なスモモの香りが特徴だ。冷凍庫でよく冷やして飲むと、潔い辛口でありながら仄かな甘みを感じさせる、とろりとした口当たりの液体となり、ついつい杯を重ねてしまう。
チェコでは、モラビア地方のヴィゾヴィツェが名産地である。
チェコではスモモ以外に、洋梨(フルシュカ、hruška)やサクランボ(トシェシェニュ、třešeň)、アンズ(メルニュカ、meruňka)、リンゴ(jablko)などからも蒸留酒を作る。それぞれ、洋梨はフルシュコヴィツェ(hruškovice)、サクランボはトシェシュニョヴィツェ(třešňovice)、アンズはメルニュコヴィツェ(meruňkovice)、リンゴはヤブルコヴィツェ(jablkovice)という酒になる。チェコ人は日本人とは違ったやり方で、果物を楽しんでいるようだ。
もしもアルコールが飲めなくても、がっかりするのは早い。チェコには果物茶(オヴォツニー・チャイ、ovocný čaj)という、乾燥果物のお茶がある。スモモ、イチゴ、キイチゴ、アンズ、サクランボ、ローズヒップなど、多様な果物茶のティーバッグをスーパーや雑貨店で入手できる。ティーバッグが個別包装されているものもあり、配布用お土産にもお勧めだ。
「彼は鯉の口にスリヴォヴィツェを染み込ませた砂糖を押し込んだのだ。鯉は何度も舌鼓を打つ。スリヴォヴィツェは正真正銘のヴィゾヴィツェ産だ。それは鯉を水無しでもたせるための、最上のやり方なのだそうだ」
(「ぼくらが魚釣りで死んだお話」より、p.163)
これには興味を惹かれるものの、試す機会はまだ訪れない。