
嘘つき男と泥棒女/48歳バツイチだけど運命の人に出会った【15】
10歳上の「たー君」とつきあいはじめた「私」。たー君が経営する運転代行社の従業員、曽我はやたらおしゃべりで、よく気が付く男だが私は曽我のことが信用できず……。
たー君の会社に曽我という従業員が居ることは昨日書きました。
この曽我という男、私は初めて会ったときからなんとなく嫌な感じを覚えていました。
テンション上げめに笑顔で話しかけてくるものの、なぜか気持ち悪い。
それで思い出したことがあります。
店を出す前に、勉強のためあちこち飲み歩いていた頃の話です。
女性バーテンダーがやっている店があるというので行ってみたんですよ。
そうしたら、期待していたのとはまったくちがったんですね。
内装はとても重厚でオーセンティックなBARなのに、目当ての女性バーテンダーはお酒のことを聞いても何も知らないし、しかも私が山崎のハイボール飲んでる目の前で、甲類焼酎のお茶割り作って飲むんですよ。紙パックの。
第一、私は山崎をハイボールでなんて飲みたくないんです。でもメニューにはウイスキーは山崎しか書いてなかった。
仕事終わりで炭酸系が飲みたかった私は、
「ハイボールが飲みたいんですけど、山崎しかないんですね」と言ったんです。そしたら。
「大丈夫です。ウチ、全部800円なんで」って言われたんです。
……これ、かなり失礼な返答じゃないですか?
私は山崎のような良いウイスキーをハイボールで飲むのはもったいない、という意味で言ったんですが、値段を気にしているという風に取られたわけです。
トークも子供の明日の弁当の話とか、自分が好きなミュージシャンの話とか、おばちゃん丸出しで全然つまんないし。勉強にならないな、と二杯でお会計を頼みました。
ところがその女性バーテンダー、私が帰ろうとすると「次はどこの店に行くんですか?」と。
その前の話で「寿町ではBとかCに行く」と、行きつけのBARの話をしたのがマズかった。
「もしかしてBに行くんですか? 私Bにはボトル入ってるんですよ」なんて言うんですよ。えっ、この人一緒に来る気なの? たいして話も弾んでなかったのに。
「いや、まだ決めてないです。そのまま帰るかもしれないし」と胡麻化してBに行きましたが、しばらくすると、この人やっぱりBに来ました。
でもカウンターでは間にほかのお客さんが居たので話すこともなかったんですけどね。
なぜか、この女性の店に居た時からずっと気持ち悪かったんですよね。変な馴れ馴れしさといい、笑顔なんだけど芯から笑ってない感じというか。
だいぶ後になってから、この女性バーテンダーがお客さんのカバンからお金を抜き取るという噂を聞きました。
そういえば、店に誰も居ないのに「おカバン預かりますか?」なんて聞かれたな。こぇぇ。(ここ読まれている地元の方。特徴からあの店でしょ、そんなこと書いていいの、と思われるでしょうが、証人いっぱいいますしウチのお客さんも二人やられたのでクロです)
自分がカンが良い、などと言うつもりはありませんが、そのバーテンダーがそういう人だと聞いた時に「不快感の正体」がわかった気がしました。そして、その金を盗むバーテンダーと同じ臭いがしたんですよね、曽我には。
たー君は曽我のことを、年齢もちょうどいいし、商売やったこともあるし、気が利くということで、会社の後継ぎにと考えています。
車のメンテナンスもしっかりやるし、従業員同士のトラブルにも「俺が言って聞かせますから」などと仲介を申し出たり、リーダー的存在になっていたからです。それにお客様からも「曽我さん指名で」と来ることもけっこうあり、お客様受けも良い、ということもありました。
曽我は解体業の会社を自分で興しているのですが、それほど仕事があるわけでもなく、それで代行で働いているというわけです。しかもお父さんが昔会社をやってて倒産し、だいぶお金で苦労したようなのです。その話を聞いて私は納得したんですよね。
いつも笑顔だしテンション高いけど、目の奥が笑っていない。相手を持ち上げたりしても、けして本気では思っていないことが見て取れる。曽我のバックボーンを聞いて、あの「表面的な人当たりの良さ」はそういうところから来るんだな、と思った次第です。
そんなとき、元ひきこもりのA君というアルバイトがいきなり辞めてしまいました。どうも曽我に強く叱責されたらしいのです。
A君は長いこと家から出られず、やっと決心してコンビニバイトを始めたもすぐに挫折、それで「人に会わなくてもいい」代行なら……ということで、ダーさんの会社に入ったのです。やっと仕事に慣れて、長くつづきそうだ、と思っていた矢先のことでした。
曽我を呼んで事の次第を聞いたものの「態度が良くないから注意しただけ」と、彼は自分の非を認めません。事情が事情だけに、たー君がA君に気を遣うように言っていたにもかかわらず、です。
それから別の従業員から聞いた話に「曽我がヤクザと繋がりがあることを吹聴している」というのがありました。
正直、イナカで商売やってる人は、ヤクザとはまったくかかわりにならないことはない、と言っても過言ではないです。しかし、今はヤクザと繋がりがあることを言ってもなんの得にもならない。むしろ関わりがあると思われたら、かえって自分の商売に差しさわりが出るのは自明の理です。
それなのに、なぜそんなことを言い出すのか。
私が彼と話したとき、「●●と友達、××とも友達」とほぼ嘘と思われる交流関係の幅広さを自慢されたので、きっとヤクザと繋がりがある、というのも嘘なんだろうと思ってました。
それで人の上に立った気でもいるんですかね。昔はそういうヤツ多かったけど、バカな男です。すでに曽我という人間を見切っていた私は、そんな風に考えました。
ある時、たー君と秋田県に一泊旅行しました。ホテルのレストランでコース料理を食べていたところ、いきなりたー君ののスマホに電話が。
「……そんなこと言っても旅行中だ。……今日? 無理に決まってんだろ」
……などと、たー君の言葉からトラブルを感じさせました。
たー君は電話を切ると、
「曽我から電話だけど金払えとか……ワケわからん」と、不審な表情をしています。
たー君の会社は10日が給料日なのですが、たー君が休みの日は遅れる、ということになっているのだそうです。その日はちょうど10日。
どうしても給料が欲しい人は前もって言ってくれ、と言っているにも関わらず、曽我は金払えとか、約束がちがう、と、ずっと電話の向こうでまくしたてていたそうなのです。それまでたー君に対して下手に出ていたあの態度とは、うって変って口調までちがう、と。
結局らちが開かずたー君は外に電話しに行ってしまい、せっかくのディナーを途中にして部屋に戻ってしまいました。レストランに一人取り残される私。
「今日はアイツも休みだから、酔っぱらってるんだろう」
と、部屋に戻ってからたー君は言ってましたが、翌日、曽我に給料を払うために早くホテルを出なければならないことになりました。せっかくの旅行、せっかくのディナーを曽我のせいで台無しにされたのです。
私の曽我に対する不快感は、MAXに膨れ上がったのでした。
つづく