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ちょいちょい書くかもしれない日記(売買)

実家を手放した。
正確に言えば、私が、ではなく、実家を相続した母が、珍しくきっぱりと売却を決断し、私を代理人に指名したため、代理で売買契約を実行してきたのである。
お金がかかわることだと目がクワッと見開くのは凄い。
親子でも、きちんと司法書士さんに入ってもらい、万全の状態で代理人になれて安心だったが、母には残念な気持ちもあっただろう。
母としては、私か弟が引き継いで住んでくれたらいいのに、と願っていたようだが、それが厳しいこともわかっていたのだろう。
私は独身だし、弟夫婦にも子供がいない。
そうなると実家は広すぎて持て余すし、何より構造上、リフォームがとても難しい家なのだ。
減築も現実的ではない。更地に戻すにも莫大なお金がかかる。
阪神淡路大震災のダメージも、目に見えないところでジワジワと進行し、あちこちで雨漏りを引き起こしている。
しかも、人が住まなくなるなり、実家は家も庭も、猛烈な勢いで荒れ始めた。
毎朝、私が風を通しに行っていても、そんなものは焼け石に水だった。
もはや、半地下のフロアは壁も天井も、扉すらもカビだらけだ。
手を拱いていたら、あのカビ、次の梅雨には一階へと勢力を拡大するに違いない。
庭木も暴れ放題だし、わけがわからないところから草が生えまくっている。
このままでは、誰も手をつけられないヤバい廃墟が爆誕してしまう。
自分の家の向かい側で実家が朽ちていくなんて、とても耐えられそうにない。
そんな正直な私の報告も、母の決断の後押しをしたようだ。
かくも厄介な家が売れたことは、本当に私にとってはずしりと重い肩の荷が下りる出来事だった。
私はただお願いしますと各方面に頭を下げていただけで、片っ端からつてを当たってくださった方々のおかげである。
売値はえげつなく安いが、買い主サイドが既に算定した、リフォームにかかるお金の内訳を詳しく見せてもらって、こりゃしょうがないなあー! と心底思った。
そこまでしてこの課題の多い家に手を入れ、甦らせようと思ってくれる人がいるなら、信頼して託すまでだ。
先方の都合もあり、引き渡しは来月なので、まだ出入りして片付けや置いてある物の持ち帰りは続けなくてはいけないものの、とにかく、売買契約書を交わしてきた。
慣れないことばかりでとても肩が凝ったが、不動産関係で昨年からずっとお世話になっている方がとても親切に教えてくださるので安心だ。
その方にも、もとはといえば父と長年お仕事をしていた公認会計士氏の紹介で知り合った。
安心人脈には感謝しかない。
ネットで検索などしようものなら、ヤバい業者にひっかかる確率100%だ。
そのあたりの判断能力は、経験値の低さもあって、あまり高くない自覚がある。
実家売却に伴い、母の住所を移さねばならないので、各種変更の手続きに今週は忙殺された。
連絡しなくてはならないところが多すぎ、会社によっては代理人が申請するハードルが高すぎ、作成し、提出しなくてはならない書類が多すぎの三重苦である。
でもまあ、役所関係がどうにか整ったので、あとは地道にやっつけていこうと思う。
たぶん把握していないところもまだあることだろう。
こういう作業は瞬発力と持久力、両方が必要だと父のときに知った。

本当なら母と記念の外食でもしたいところだが、退院したばかりで、まだ体調が整わない母を外に連れ出すわけにはいかない。
おいしいゼリー(密封された、常温で日持ちする形式のものなら、生もの禁止の縛りをすり抜けられると先日知った)を持っていって、身軽になったことを一緒に祝った。
母はペロンペロンと2つ平らげ、「今日は特別よ!」と看護師さんに念を押されていた。
母が、「家を売ったお金はあなたが使ったらいいわ」とえらく投げやりに言うので、「お金は、お母さんがちゃんと持ってなきゃダメよ。お母さんのここでの生活に使う通帳に、きちんと振り込んでもらうようにしたからね」と説明したら、「まあ、ちゃんとしてくれているのね。やっぱりあなたが安心だわ!」と深く頷いていた。
軽く試された気がしないでもない。いや絶対試されたわこれ。
でも、母のお金は当然、母のもの。父が遺したお金も、共に稼いだ母のものである。子供があてにするものではない。
そこのところが姉弟で一致したのは、今回いちばんよかったなあと思うことだ。

とはいえ、自分の中で区切りをつけたかったので、たまさか泊まりに来た友人たちに、お祝いディナーに付き合ってもらった。
家族でよく行っていた、友人たちも好きなフレンチの店だ。
気さくな奥様が接客を、ヘンコな旦那様が調理を担当しており、とても実直な料理が出てくる。
この店にいるときは、父はいつもご機嫌でよく喋った。
以前とそっくり同じ料理を食べているのに、そこに父がいないことが、何だか不思議だった。


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椹野道流
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