たまに書く日記① かまきり
朝、庭に軽く水でも撒いておこうかと外に出たら、何かがふわっと腕に触れた。払いのけようとして、ハッと思いとどまった。それは、小さなカマキリの子供だった。
あいつの子孫だ。咄嗟にそう思う。
あいつとは、もう何年も前、行きつけのスーパーマーケットで買い物をした帰り、突然肩に乗ってきたカマキリのことだ。いっこうに降りようとしない、車に乗っても涼しい顔のそのカマキリを、私はやむなく家に連れ帰り、落とさないようにハラハラしながら庭へと運んだ。
アジサイの葉に指を近づけると、いかにも当たり前といった様子で、カマキリはしっかりした葉の上に降り立った。まるで、私の指が素敵なランウェイでもあるような、堂々たるウォーキングで。
勿論、庭には他にもカマキリが暮らしていただろう。今、私の腕に乗ったちびっ子が、本当にあのカマキリの子孫かどうかはわからない。そんなことは、正直どうでもいい。世界は一家、カマキリは皆兄弟だ。誰かがそんなことを言っていた気がする。ちょっと違うかもしれない。
管理が行き届いているとはとても言えない野放図な庭で、今年もまた、小さな命が繋がっている。それが、何よりとても嬉しかった。
あの日と同じように、少し大きくなったアジサイの葉に指を近づけると、まだ1センチほどしかない小さなカマキリは、ちょっと鎌を持ち上げ、お尻をスッと上げて、惚れ惚れするような歩き方で葉の上へ向かって歩き出す。
やっぱりお前、あいつの子孫やろ。そういうとこやぞ。
できることなら、大きく育って、この庭で楽しく暮らしておくれ。そのあとのことは、別に考えなくていいからね。
とにかく、君が幸せに。昆虫の幸せってどんな感じか知らんけど。
そんなことを思いながら、私は家の中に引っ込んだ。さっきまでカマキリがいた腕には、今年初めての蚊の噛み痕があった。おのれ。