ちょいちょい書くかもしれない日記(ランチ)
ランチをいただくために上京した。
貴族か。
いや、実際はそんな優雅なものではなく、緊張しながらの大事な打ち合わせである。
そもそも朝から、在来線が「小動物と接触した」ため遅延しており、余裕を持って新大阪駅に到着するよう予定を組んでいたとはいえ焦った。
あとで、接触したのは鹿だとアナウンスがあった。
小動物……? 子鹿だったのかな。かわいそうに。
平日だというのに新幹線は混んでいた。
紅葉シーズンの観光客だろう。
海外からの人たちがたくさん京都駅で乗り降りしていた。
素敵なものをたくさん見て、おいしいものをたくさん食べて、楽しかったなーと言いながら帰ってほしい。
車両の端っこにあるでかい荷物置き場は、相変わらずのカオスだった。
打ち合わせでは、業界の大先輩と担当編集氏にお目にかかった。
とても素敵な方々で、思いきって来てよかった……!
担当編集氏は、かつての私の担当編集氏のひとりとハチャメチャに似ていて、声と喋り方もそっくりで、たぶんドッペルゲンガーだと思うので、引き合わせないでおこうと思う。
話はオンラインでもできるし、実務的なやりとりはメッセージやデータになるわけだけれど、やはり一度は直接お目にかかるほうがいい。
つくづくそう感じた。
ご馳走になった料理はどれもおいしかった。
でも、最後に小さなデザートがいっぱい出てきて、それが全部持っていってしまった感がある。
モンブランとぶどうゼリーとプリンとマドレーヌとゼリーとムースをいっぺんに食べることって、ケーキバイキングに行かない限りないような気がする。全部、出す寸前に盛りつけて仕上げた感じがとても素晴らしかった。
そして、集ったメンバーが「こんなに食べられるかしらー」なんてしょーもないことはいっさい言わなかったのが、とてもよかった。
みんな、どれから食べるかだけを真剣に考えていた。
この仕事、若輩者の分際で言うのもなんだが、上手くいく気がする。
帰り、新幹線のICカードがへたってきたのか、改札で上手く読み込んでくれず、どうしたらいいですか、と改札にいる駅員さんに聞いたら、今どき珍しいくらいの、とげとげしい、荒っぽい対応をされてビックリした。
昭和の時代には、こういうつっけんどんで意地悪な駅員さんや運転手さんがそこそこいたが、最近は親切な人ばかりだから、腹を立てるよりも懐かしさがある。
自分であれやってこれやってこうしてもっぺん試して! そことっととどいて! と矢継ぎ早に指示されて、わけがわからなくてモタモタしていたら、「わかんないならわかんないって言えばいいんですよ、いつまでもそこにいられちゃ邪魔で仕方ない」と、舌打ちしながらでも列車に間に合うように全部凄いスピードでやってくれたので、仕事のできる、根はいい人なんだと思う。
とはいえムカつきはするわけだが、自分でやってって言われたからトライしたんですけど、とは言い返さなかった。
強く出ても大丈夫そうな相手をけなすことで、ヤバいくらい高まったストレスを散らしたかったんだなという感じがしたから。
それでスッキリするタイプの人には見えなかったから、他人を罵りながら自分がすり減っているのではなかろうか。
お手数かけちゃって申し訳なかったなとしょんぼり乗り込んだら、隣の席のおじさんが、私の紙袋を棚にひょいと載っけてくれた。スマート!
いろいろ、プラマイの調節がなされている感じ。
母が自宅にいた頃は、夕方に外にいるのが恐怖だった。
講義中であろうと、新幹線の中であろうと、母が私が現れないことを不安に思った瞬間から、鬼のような電話攻撃が始まるのだ。
新幹線の中で5分起きに着信するので、ずっとデッキに出っぱなしで、窓から外を見ながら半泣きで対応していた記憶がある。
今は母は施設にいて、あの恐怖からは解放されたのだなあ……などと思っていたら、在来線の最寄り駅のホームに降り立つなり、その施設から電話がかかってきた。
母が強い不快感を訴えているが、具体的に胸とお腹全体、という感じの説明なので埒があかず、提携している近くの総合病院の夜間診療に連れていこうと思うが、来てもらえるだろうか……という内容だ。
夜勤の方にご厄介をかけてしまっている。
猫がいるので、いったん家に帰って世話だけしてすぐ行きます、遅れて合流させてください、と返事をして通話を終えるなり、「やっぱり逃げらんねえなぁ」と思わず小さな声が出た。
母から逃げるつもりは毛頭ないが、逃げたい気持ちは少なからずあるのだな。
こんなときに、自分の本当の心に気づく。
猫たちにご飯を出し、それぞれにただいまを言い、また出掛けるお詫びをして家を再び出た。
病院では、難しい顔をした母が、施設の職員さんに付き添われ、検査の結果待ちをしていた。
みぞおちのあたりからお腹全体が気持ち悪い、痛いかどうかはわからないと言うので、腸閉塞を心配して受診を決断してくださったようだ。
それは今のところ大丈夫そうだけれど、やはり消化器専門のドクターに診てもらったほうがいいから、明朝もう一度改めて来院を、ということになった。
今夜は施設のほうで、できるだけこまめに様子を見てくださるそうだ。人数の少ない夜間に仕事を増やしてしまって申し訳ないが、よろしくお願いしておいとまする。
自宅に帰り着いたのは、午後9時半を過ぎてからだった。
猫たちはのんびりしており、末の猫だけが玄関で出迎えてくれた。
末の猫はコロナ禍の最中にやってきたので、私が遠出をする事にまだ慣れていない。
なかなか帰ってこないので、少し心配したのか、いつもより甘えん坊なのが可愛い。
長男猫は、家を守って疲れたらしく、私の顔を見るなりぱたりと寝た。いじらしい。
なんとも長い一日になってしまった。