ちょいちょい書くかもしれない日記(『本』と『声』2024 TOKYO BOOK NIGHT)
事前情報で、上記イベント内のどこかで、拙著「祖母姫、ロンドンへ行く!」を紹介してくださる、ということは知らされていた。
最初に情報を得たのが編集部からではなかったので少々困惑したが、もろもろきちんと筋が通ったことを確認し、安心して読者さんにお知らせすることができたし、私も配信チケットを買った。
午後七時の開演が近づいたとき、私は「この配信チケット、アーカイブがついてこないんだ!」という事実にはたと気づいた。
マジか。配信のよさって、あとで好きな、落ち着けるタイミングで再生できるところもあると思うんじゃが!
たとえばお子さんのいる家庭の大人に、平日午後7時開演はなかなかハードルが高いぞ?
でもしょうがない。作りかけの春巻きを仕上げながら、母のために買ったけれど母が一度も使わずじまいだった巨大タブレットで見ることにする。
司会の編集氏の声が無闇にいい。
声優さんたちが入場されると、場が一気に華やぐ。
女性声優さんたちはお三方とも、とても美しく、可愛らしく、本当に鈴を振るような声だ。
人生初イベントの方が緊張しながらも一生懸命、そして堂々とお話しされているのが、とても愛らしくて立派に見える。
男性陣は、もうすっかりこなれた感じで……あれ。
イベントのどこかで拙著を紹介……しょうか……しょう……待って。
入場した瞬間から、岩田光央さんが既に「祖母ロン」を抱えていらっしゃるのだが!
出オチか!
動揺して、春巻きの皮では包みきれへんやろという長さにアスパラを切り揃えてしまう。
動揺し続けているので、もっぺん切ればいいのにそのまま包む。
はみだす。
会場では、声優さんたちのお勧めの書店を紹介したり、本棚の写真やイラストを見せ合ったりと、和やかな、楽しい座談会が繰り広げられている。
落ち着いて。落ち着いてね、私。春巻き、もう一枚皮を足して包み直そうか。
いっぺん開いてアスパラを切ればいいのに、何故か補強方面に舵を切ったあたり、完全に脳がダメだったと思う。
やがて、お勧め本を語るコーナーが始まった。
ルーン文字……? いやでもそれも立派に本だし、めちゃめちゃ面白そうだな、ルーン文字。
などと、お勧め本を楽しく拝見していたら、岩田さんがじゃじゃんと「祖母ロン」を観客に見せつつ、本当に、ビックリするほど真剣にお勧めしてくださった。
春巻きを表向き冷静に揚げ焼きしていた私はぶったまげた。
ありがたくて泣いてしまいそうなのに、やっぱりリカバリーできなかった春巻きからチーズが漏れてきて、油がバシバシ跳ねるのである。
やめんか。気が散るやろ。空気読めやチーズ。
跳ねた油がめっちゃ痛い。しかしタブレットから目を離せない。
いやいや、タブレットやねんから、持って逃げたらよろしいがな!
本当に、動揺し過ぎて思考も判断もダメでしたね。
そのあと、不思議なテイストの「桃太郎」の朗読劇が始まり、ちょっと冷静さを取り戻した私は、夕飯を食べ始め……。
イベントはいよいよ最後のお楽しみ、お勧め本の朗読コーナーに。
あんなに頑張った朗読劇の直後で大丈夫!? と思ったのは素人の余計な心配で、さすがプロ、皆さん、ガラリと雰囲気を切り替えて、見事な朗読を披露していかれる。
「少女地獄」を女性の声で朗読するのはいいなあ、とてもいいなあ。
異性や子供の声を朗読で表現するのは、逆に不思議なナチュラル感があったり、色んな工夫が感じられたりしていいなあ。
春巻き、失敗したなあ。でもまあ、アスパラはどうしたって美味しいからセーフ。もぐもぐ。
いや、もぐもぐしている場合じゃない。
岩田さん、さきほどお勧めしてくださった「祖母ロン」を、さらに朗読までしてくださる……!?
しかも、祖母と秘書孫(私)が、夜に初めて親密で長い会話をする、そのとても大切で特別なシーンを選んでくださっていて。
丁寧に、でも気負わずナチュラルに、僅かな抑揚やテンポ、声音で祖母と孫の声を演じ分けるそのお力に、穏やかなシーンなのに圧倒されてしまった。
わざとらしさなんて微塵もないのに、ふたりの心模様がビシビシ伝わってくる。
凄い。春巻きとかもうどうでもいい。
声が空間を支配するというのは、こういうことなんだな。
会場を飛び越えて、自宅の、タブレット前にいる私も、聴覚のすべてを持っていかれた感じがした。
終盤、この夜のことを思い出して、今の私が後悔を語るシーンで、岩田さんの声が確かな湿り気を帯びたことに気づくなり、作者までボトボトに涙する体たらく。
でも……本当に、本当に素晴らしかった。
なんでアーカイブがないんだ(突然の正気)! もっぺんだけでもいいから聴かせて!
そんな気持ちでいっぱいなのだが、一度だけだからこそ、ということもあるのかな。あるのかも。いやでも何度だって繰り返し聴きたい朗読だった。
本と声が結びついたときに生まれる、生き生きした、明るくて強い力を全身で感じた2時間弱。
拙著を大きな愛を込めてご紹介いただいた岩田光央さんに心から感謝しつつ、同時に、この素敵なイベントがこれからも続いていくことを心から祈る。