【中国】リサイクル原料に新しいHSコードを付与 | 米国の梯子外し
2021年6月1日、公告第39号において、「検査が必要な輸出入商品のカタログを調整することを決定し、輸入されるリサイクル原料に8つの10桁の税関商品コードを追加する」ことを発表したそうです。また、それだけでなく、多くの貿易物品を税関による検査対象から外すとする一方で、輸出入されるリサイクル原料に関しては、検査の対象として扱うことを決定したとのこと。この情報は、ベルギーに本拠地を構えるBIR (The Bureau of International Recycling) のウェブサイトにて確認しました。
これ、非常にマニアックな情報ですが、個人的には、世界のモノづくりに大きな影響を与える要素を持ち合わせていると考えています。究極を言ってしまえば、HSコードが細分化されることで、原産地証明が得られる特定の“原料”に対して、特恵制度が適用されることも考えられます。それが、関税なのか、通関上の配慮なのか、それ以外の優遇策なのかはわかりませんが、原産国毎の序列を明確にし、水際で、流入する“原料”の質的/量的コントロールを品目ごとに行うことは、十分に可能だと考えています。反対に、品目ごとに敵対的な関税率を適用することもできましょう。
中国、新しいHSコードを追加するって
該当する中国税関が適用するHSコード並びに、GB/Tから始まる中国国内における該当国家基準、対象となる品目(日本税関発表の品目名)は、下記の通りです。
◇ 鉄鋼のくず及び鉄鋼の再溶解用のインゴット
-- || 7204 10 00 10 || GB/T 39733-2020 || 鋳鉄のくず、合金鋼のくず
-- || 7204 21 00 10 || GB/T 39733-2020 || ステンレス鋼のもの
-- || 7204 29 00 10 || GB/T 39733-2020 ||(当該基準内で言及された)その他
-- || 7204 41 00 10 || GB/T 39733-2020 || 切削くず及び打抜きくず
-- || 7204 49 00 30 || GB/T 39733-2020 ||(当該基準内で言及されていない)その他
◇ 銅のくず
-- || 7404 00 00 20 || GB/T 38470-2019 || 黄銅の再生原料
-- || 7404 00 00 30 || GB/T 38471-2019 || 銅の再生原料
◇ アルミニウムのくず
-- || 7602 00 00 20 || GB/T 38472-2019 || アルミニウムのくず
HSコードに関する補足
HSコードは、多国間で貿易を行う際に、「この箱(コンテナ)の中には、どんなものが、どれだけ入っていて、どういった契約条件で取引されたものか」といった説明行為を行う上で、潤滑かつ齟齬のない情報理解を実現するためにつくられた、世界共通の品目コードであると、筆者は理解しています。
当然、日本にもHSコードを運用するためのシステムがあって、日本税関が、輸出入されるすべての品目に対するコードを用意しています。
https://www.customs.go.jp/yusyutu/2021_1/index.htm
特筆すべき点は、「骨子となる類型や大枠は、万国共通であれ、細分化された区分は、各国独自の運用を行う」という点です。例えば、日本税関の思想では、「【7404】は、“銅のくず”であり、それ以上でも、それ以下でもないのです。」しかしながら、中国税関は、この度の運用改定に伴って、“銅のくず”である【7404】の枠内に、「末尾20を真鍮の再生原料、末尾30を銅の再生原料とする」と決定づけたわけです。
各国の細分化されたHSコードを俯瞰することで、それぞれの貿易品目に対する“思い入れ具合”というか、国内規制の強弱、戦略物資であるか否か等が、それとなく垣間見えることもあります。要は、確実に、「どの品目が、いつ、どこから(どこへ)、どれだけ入った(出た)のか」ということを知りたければ、管理番号としてのHSコードを細やかに運用する必要があるということです。
“再生原料”に対する規制が厳しくなるのか、ならないのか
筆者は、「厳しくはならない」と考えています。ただ単に、「どこぞの国(地域)なら、(こんな妖しいモノでも)通関できる」といった属人的な“やり口”が通用しなくなるだけなんじゃないかと推測しています。
正直、これまで中国は、「“銅のくず”がなんであるか」というポイントに対し、明確な答えを打ち出してきませんでした。それは、あえて“雑”にすることでメリットがあったからです。
https://www.michiru-resources.com/2019/10/remeltorwhat.html
かつて、日本国内で発生した“雑品・雑線”という名のスクラップたちは、大きな船に裸で積み込まれ、大海原を渡り、大陸の玄関口にて、HSコード【7404.0000.10】「“銅のくず” - 銅の回収を主とする廃電気機械、廃電線、ケーブル ("Waste electric machines, waste wires, cables, mainly for recovering copper")」と名前を付けられ、中国国内のリサイクルセンターに運び込まれていました。いわゆる、“日中スクラップ貿易”の黎明期です。彼らは、中国国内で選別・加工され、モノづくりをする上で必要となる“原料”として蘇ります。最終的に、彼らは、なんらかの製品となり、その都度、世界各国へ輸出されます。
ただ、時を経るにつれ、「“銅のくず”をめぐる争いが過熱し、あくまでも漠然とした“みんな”が、その“旨味”に気付き始める」わけです。いわゆる、成熟に向かうための過渡期です。もともと、“雑”である(価値・品質の振れ幅が大きい)が故に目利きが求められ、目利きを求められるがゆえに、誰もがある程度の“幅”をもって、商品と対峙していました。言い換えれば、「本来の価値に対して、割安な評価でも仕入れることができる」ということであり、「本来の価値を十分に引き出すことができれば、十二分に儲かる」ということです。そして、いつからか、誰かがこう考えるわけです。
つまり、旧来の評価基準が、「ブスバーがいっぱい入った配電盤、イイネ!ぶっとい電線も入ってる。イイネ!この前、売ってくれた商品も良かったよ!」といった属人的な“積み上げ方式”であるとするならば、新たな視点として、「このスクラップを分解して、金属の割合を調べると、銅がこれだけとれて、鉄がこれだけとれるんです。この割合が同じ商品をコンテナ満載で送るので、今の金属相場に見合った金額で買ってください!もちろん、御社の諸経費を差し引いた価額で構いませんから」といったハナシが出てくるわけです。要は、「アウトカムが見えてるんだから、(買主側に)リスクはないでしょ。だから、相場に見合った評価をしてよ」という発想です。
ゴミ貿易からコモディティ・トレーディングへ
現在、世界的には、冒頭でも言及したBIR(欧州)と、米国のISRI (Institute of Scrap Recycling Industries) が、協働する形で業界を牽引しています。両団体ともに、「スクラップは、ゴミではなく、商品なんだ」という大義名分を掲げ、当該物流の妨げになる法規制に対するロビー活動や、国際貿易の発展を推進しています。
その流れで、ISRIがスクラップの世界基準をつくり、現在、少なくとも非鉄金属スクラップ界隈では、当該基準を前提に“商品づくり”が行われています。つまり、海外の仕入れ先に対して、「上等な“銅のくず”が欲しい」といえば、「今、うちには【Berry/Candy】の在庫が〇〇トンあるよ」という返答がきます。そして、もしかしたら、「日本向けに【Birch/Cliff】売りたいんだけど、CFR Yokohama でLME(London Metal Exchange) 〇〇%でどう?」といったオファーがくるかもしれません。場合によっては、同じ【Birch/Cliff】を「COMEX-〇〇セントで売りたい」という業者も現れるかもしれません。(値決めのされ方については、追って新規ポストで説明します。)
ちなみに、【Berry/Candy】とは、それぞれ、ISRIが規定するところの「きれいな銅線くず」と「銅の塊、管のくず」を指すコードネームです。そして、この場合においては、【Berry】と【Candy】が混在したものを指します。
同様に、日本においても、【JIS H2109】の中で、“銅のくず”に関する品質基準が明確に謳われています。個人的な印象としては、日本のそれは、「モノづくりの現場で、スクラップ原料を受け入れる際の検収基準」として機能しているように思います。一方で、ISRIのそれは、「貿易の現場で、スクラップを原料(コモディティ)として流通させるための業界基準」であるように捉えています。
スクラップが、コモディティとして流通すればするほど、参入障壁は下がり、市場における参加者が増えます。参加者が増えれば増えるほど、過当競争が生まれます。競争が激化するにつれ、“ズルい”ことをしでかすプレイヤーが現れます。品質が悪くなります。業者間の関係が悪くなります。最終的に、需要家側が“ババ”を引きます。実際に、往々にして、金属の一大消費大国である中国が、“それ”を呑み込んできました。
割に合わない仕事は、長続きしない
ハナシは、毎度のごとく長くなりましたが、これが、中盤の「黎明期、過渡期」ひいては、「中国スクラップ貿易の成熟期」に繋がるのです。なにが、どのようにリンクするのかというと、ハナシは意外と単純です。つまるところ、二十数年前に、「多少汚くとも、スクラップで一旗揚げたい。寝る間を惜しんでも、とにかく量をこなしたい!」という気概を持った青年がいたわけです。そして、その彼が、その十年後、財を成し、ノウハウ・商売のネットワークを確立できました。さあ、次に彼は、なにを求め、なにを考えるだろうか、ということです。
もう、彼は、誰に媚びるわけでもないし、指図を受けるわけでもない。リスクを負ってまで、“雑多なもの”を扱う必要性もないわけです。ただひたすら、これまでの取引先との取引を増やして、マージンを積み上げればいい。もしかしたら、今まで手にすることができなかった、大きなカネを動かす商売に参入することもできるかもしれない。ただただ、「無理をする必要」がなくなったのです。
そして、さらに十年後、彼は工場を建設します。新たなスクラップヤードではなく、銅を精錬するための工場を。彼は、長年の経験を通して、気付いていたのです。「自分の国は、“原料”を欲しているんだ」と。「得体の知れない“スクラップ”を、汗水垂らしてかき集めて、埃まみれになって加工する商売は、もう割に合わない」と。「欲しいモノは、札束を積めば集まる」のですから。これが、現在の中国における大手スクラップ・ディーラーの現状だと思います。
他人の土俵で戦いたくない
先ほど、スクラップ貿易は、ISRIが決めた基準に則って、取引がなされていると述べました。確かに、これまでも、これからもそのようであると思います。ただ、鉄鋼、非鉄(銅、真鍮、アルミ)のスクラップに関しては、違った様相を呈しております。
特に、当該非鉄三種に関わる人間は、2019年に中国政府によって発布された「“金属原料”としての新たなる基準」を与えられてから、ISRIが容認する“雑多さ”を排除することに腐心しております。
実際に、今般の「HSコード追加からの検査実施の明文化のお達し」の中でも、「税関は、左記の“新基準”に完全に準拠するかたちで、職務を全うする旨」が高らかに宣言されています。つまり、「ISRIだか、なんだか知らないけど、中国の税関検査をクリアしたいんだったら、中国の“新基準”に合格すべし」ということです。ここにきて、中国は、満を持して「米国の梯子を外した」と言い換えることもできるでしょう。
中国税関による検査方針の行方も気になるところですが、それよりも、「梯子を外された米国におけるリサイクル業界の今後」と、「中国と蜜月関係にある欧州のそれの発展」について関心を寄せるばかりです。
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