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金属スクラップ相場における潮目の変化
金属スクラップ関連のマニアックなハナシは、極力、本家『みちるリソースのご意見番が吠える』で展開しようと思いますが、昨今の鉄・非鉄関連相場の動向が、さっぱりわからなく、脳内での整理ができていないので、とりあえず、こちらの媒体で目先の動きについて、書き殴ってみたいと思います。
昨夜のニュースです。
今年の中国の鉄鋼生産は「容赦ない削減」の可能性が高まっていると鉱業最大手の英豪系BHPグループ
シンガポールの鉄鉱石相場は5月に記録した最高値から30%余り下落
最近の水害や、同国における件のウィルス騒ぎの復活を鑑みれば、生産活動を低下させざるを得ないということは、容易に想像できます。もっと言ってしまえば、いくら「いっちぬけたー!」と高らかに経済活動の早期復活を宣言したところで、いくら大国と言えども、いずれかのタイミングで天井にぶつかると思います。それが、生産量なのかマーケットにおける需要なのか、そんなことは分かりませんが。
ちなみに、左記に登場したBHPは、21年6月期、“ウハウハ”でした。
たとえ、中国とオーストラリアの仲が険悪ムードになったとしても、結局のところは、いずれかの部分で依存せざるを得ないわけです。こっちが、「オメエんとこの石炭、もう買ってやんねーよ!」、あっちが、「人権問題を解決してからモノ申せ!」と寸劇を繰り広げている最中、舞台裏では別のドラマが生まれているようです。
#China’s crude #steel output fell in July for first time this year, down 8.4% y/y to 86.79 mln tonnes, down 7.5% m/m.
— YUAN TALKS (@YuanTalks) August 17, 2021
Average daily output hit lowest since Apr 2020.
China's benchmark #IronOre futures have dropped 36% from the recent high set in May.https://t.co/CbdgTbiCrR
ちなみに、同国の粗鋼生産は、下記の通りです。
今年7月に初めて減少し、前年比8.4%減の86.79百万トンとなり、前年同月比7.5%減少した。1日の平均生産量は、2020年4月以来最低に達しました。
そうすると、既に一部のメディアで言及されていますが、鉄スクラップの相場への悪影響が想定されます。鉄鉱石同様、劇的な変化を生むのか、ゆるやかに“調整”されてゆくのか、その辺りは門外漢なので、わかりません。
対して、銅スクラップ関連の今後
筆者は、「大陸向けの銅スクラップ(再生原料)の貿易量は、増えている。だが、なぜだかわからないけど、既に同地へデリバリーされたものの一部が、製錬・精錬、鋳物製造業者へ供給されていないらしい」という“噂話”を聞いています。
それを裏付ける記事(会員向け情報)の中から、引用できる部分のみ抽出します。
同国の銅スクラップ(HSコード:7404)の輸入量は、2021年上半期にほぼ倍増して82万1,376トンに達した。2020年にウィルスの発生の影響を受けた基準数から、前年同期比90.8%増となっている。
ここからが、本題です。
国際銅研究グループ(ICSG)によると、銅スクラップを使った中国の精錬銅生産量は、2021年の最初の4カ月間で10.7%増の71万2,000トンにとどまった。
中国に輸入された銅スクラップの大半は、精錬所や製錬所にはまったく送られていない。
少し、意味がわかりません。なにが“本題”なのかと。ゆっくり反芻しながら、ゆっくり考えてみたいと思います。
まず、後者、「精錬銅の生産量云々」といったハナシは、おそらく、ある程度実体のある信憑性の高い定量的なデータであると信じています。4か月間(1月から4月まで)、70万トンを生産したということですから、1か月に置き換えると、17.5万トンを毎月生み出していたということになります。
翻って、前者、「銅スクラップの輸入量云々」といったハナシは、どうでしょうか。6か月間で、82万トンですから、1か月当たりおおよそ13.5万トンの輸入実績があったということです。
数字の差し引きだけを追ってしまうと、「毎月、輸入したブツを順当に消化しているんだね」みたいなハナシに着地しかねませんが、そうは問屋は卸しません。なぜならば、「スクラップだけで“製品”はつくれないから」です。
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一般的には、銅鉱石や精鉱と呼ばれるものを、チリを中心とした世界各国の鉱山から集め、それを主原料として使います。スクラップ原料は、それを還元・濃縮、熔湯を冷却する工程の合間合間で使用されるのみです。つまり、スクラップは、主原料たり得ないわけです。(その配合比率は、各国、各製錬事業者によって違いますし、設備の違いによって、投入の方法にノウハウが存在します。)
なので、「毎月17.5トンしか“きれいな銅”をつくらないのに、11トンもの“きたない銅”スクラップ原料を定期的に仕入れることに、整合性がとれない」わけです。(米国では、通関上、流動量の8割を銅の想定含有量としているとのこと。銅スクラップ輸入量13.5トン ×80% =10.8トン。)
真鍮や青銅鋳物の製造事業者は、総じてスクラップ使用比率が高いですが、当然のごとく、「左記の莫大な量を消費するだけのキャパシティはない」と、筆者は考えております。また、鋳物関連の一大消費産業である造船業は、以前に比べたら好況なのでしょうが、船舶で使用する燃料の構成が変わり、内燃機関の省力化が進んでいると聞きます。消費量も同様に減少しているようです。一般消費者向けの建材用途の真鍮・青銅需要に関しても、爆発的に増えるかと言われれば、それは強く肯定できないはずです。
じゃあ、「なんで、そんなに買うのか?」という点ですが、はっきり言ってしまえば、わかりません。素人的な発想で行けば、「備蓄しているんじゃないのか」ということです。じゃあ、「相場が、これからも上がり続けるから、蓄えることにお熱を上げているのか」と言われると、それはないと思います。なぜならば、すべてヘッジしているからです。つまり、莫大な量を“転がしている大陸人”は、「相場が暴落しようが、そんなことは知ったこっちゃない」と考えているに違いないです。
むしろ、ポジション如何によっては、美味しくもなるわけです。いわゆる動かせる“玉”が大きくなればなるほど、リターンも膨らみます。また、市場の摂理であると思いますが、「相場が高いうちは流動性が高まる」ので、仕入れに難儀しません。そういうこともあって、一所懸命、銅のスクラップを買い漁っているのでしょうか。
その真意は、近いうちに彼の国が教えてくれることでしょう。潮目の変化を注意深く探っていくしかなさそうです。