東南アジアのベースメタル権益構造の変化と二元論
ここのところ、よからぬトコロで気をすり減らしていたため、アウトプットに対する情熱が失せていました。ただ、人間たるもの、思ったことは定期的に排出しなければなりません。そして、新たなインプットを得て、反芻し、きちんと消化し、また適切に排出しなければ、健全な精神を維持できません。それができなくなると、《淀み》の水面を漂うただの無機質な肉の塊に成り下がります。
何をもって“正義”
世界のあらゆる場面で、大きな《うねり》が生まれ、下々の人間でも体感できるほどに、これまで牧歌的に営まれてきた権益の構造のあり方が、抜本的に変わりつつあります。
これまでの陰謀論に真実味が与えられ、“正義”とやらを振りかざして、「あなたのため」云々と嘯く為政者に対して、世界中の《わたしたち》が猜疑心を抱いています。
今、起こっている「既得権益層」をパージしようとする潮流は、果たして、白馬に乗った騎士団が、《わたしたち》の権利を代弁するために、“真の正義”を獲得するために起こした社会的な“ムーブメント”なのでしょうか。
個人的な見解を述べてしまうと、筆者は「違う」と考えています。ただ単に、“旧勢力”の牙城が、現状に甘んじるばかり、文字通り《瓦解》しただけに過ぎないのです。当然の帰結として、甘い汁を啜ってきた“ガワ”の結束に綻びが生じ、その権益を狙う“新勢力”が、ここぞとばかりに“それ”を奪うことに腐心する。何事も、二元論で語ってしまうと簡単ですが、神髄の部分は、そこまでシンプルではないように思います。
好きとか嫌いとか、親日とか知日とか
日本のメディアは、「あそこの国は親日」とか、「東南アジアの人は、日本が好き」、「日本の“カルチャー”に惚れ込んだガイジンさん、いっぱいいるよね」といった非常にざっくりとした切り口で、コンテンツをつくります。つまり、表層的な感情の部分だけを取り上げて、あたかも“それ”がすべてであるかのように描くのです。
ただ、「日本語ができる」、「日本の文化に精通している」とか、「同じような顔、肌の色している」という要素は、結局のところ、単なる《共通項》でしかなく、それが「究極の有事の際に、どう作用するのか」ということ、「彼らが、腹の底で何を考え、どのように行動するのか」ということは、未知数でしかありません。我々、島国日本人が忘れがちな世の理(ことわり)であります。
筆者の個人的な経験を通して、卑近な例を挙げさせていただきます。まず、親日国家として有名なタイ王国です。筆者が、タイの田舎で友人のお兄さんに言われた一言が忘れられません。「日本は、すごい国かもしれないけど、戦争に負けたんだよ」と。そこに微笑みなど介在せず、ただただ、連綿と受け継がれてきた、日本に対するネガティブかつ優越的な感情だけが、その場に横たわるのでした。確かに、同国に対する投資が盛んに行われていた時代、日本人の羽振りが良かった時代は、親しみのこもった《蜜月関係》が維持できていたのです。しかしながら、日本の同国に対する影響力、国際的なプレゼンスの低下が顕著になるにつれ、親しみも薄れ、今となっては「まあ、他の国の横柄な奴らよりマシだ」といった程度の評価でしょう。これは、同国で5年ほど仕事をした筆者の見解に過ぎませんが、日本との特別な接点がない限り、“フツー”のタイ人は、そのような《印象》をもって日本人と対峙します。
色んなところで方針転換
今回の本題です。「中国の江西銅業 (Jiangxi Copper) 、6年半ぶりの絶好調」だそうです。同国における最大規模の精錬、製品製造会社です。
https://jp.reuters.com/article/jiangxi-copper-results-idJPKBN2CF09E
江西銅業有限公司 江西銅業有限公司は、銅の採掘・選鉱、製錬・加工、貴金属・散逸金属の抽出・加工、硫酸化学を行っています。製品は、銅カソード、金、銀、硫酸、銅棒、銅管、銅箔、セレン、テルル、レニウム、ビスマスなど。同社は1997年1月24日に設立され、中国のGuixiに本社を置いています。(DeepL翻訳)
とまあ、「相場の恩恵を受けられて、ウハウハ。よかったねー!ちゃんちゃん」といったハナシで終わりません。本題の本題は、下記の記事の通りであります。要するに、「江西銅業、マレーシアに建設予定だった、スクラップ・オンリーの非鉄精錬工場の計画をキャンセルするんだってよ」ということです。具体的な理由は明らかにされていませんが、記事によれば、「マレーシア政府が、低品位のスクラップを受け入れない姿勢を示したため」とされています。
筆者は、手前の本家ブログ『みちるリソースのご意見番が吠える』にて、散々マレーシアという国を取り巻く、資源政策の移り変わりについて言及して参りました。もし、銅を中心としたコモディティ関連相場の高騰がなかったとすれば、おそらく、中国政府肝いりのプロジェクトとして、なんとしてでも実現させるべく、多方面からの圧力が、マレーシア政府にかかったでしょう。
でも、現実は、そうはならなかった。2019年、同ブログに投稿した『アフリカで花開く一帯一路』でも言及しましたが、カモア・カクラ鉱山での操業が現実味を帯び、そして、精錬コストが劇的に安くなった。そこにきて、銅相場も他のコモディティ同様、高騰を続け、収益率の高い鉱山運営を実現できる環境になったのです。
そういった状況下において、なにがなんでも、「血眼になってスクラップ原料を集荷する必要性」、「地政学的に不安定かつガッツのない“第三国”の重要性」が薄れてしまったわけです。当然の帰結であると思います。世界最大の需要国である中国は、このゲームにおける意思決定者(親)でありますので、プレイヤー(子)に対して、「やるの?やらないの?やらないんだったら、他のヤツにやらせるよ」と迫ることもできるし、「買ってほしいの?じゃあ、うちの条件はこんな感じだから、よろしく」と、突き放すこともできるわけです。
筆者の邪推
しかしながら、「そんなに絶好調なら、鉱石だけじゃなくて、スクラップ原料の分野でも、継続的にパラレルで投資活動を進めればいいのに」と素人は考えてしまいます。筆者の個人的な邪推に過ぎませんが、おそらく、今般の投資に関する取捨選択に至った背景に、今後の世界における資源政策の未来、ひいては相場動向の一端が見え隠れしているのだと思います。
東南アジア地域の精錬所といえば、インドネシアの PT Smelting が有名です。三菱グループの権益です。かつての出資比率は、下記の通りです。
三菱マテリアル株式会社(60.5%)、P.T. Freeport Indonesia(25%)、三菱商事RtMジャパン株式会社(9.5%)、JX金属株式会社(5%)
ここにきて、JX金属は、全持ち株を Freeport Indonesia に売却しましたね。プレスリリースは、2021年の4月26日です。左記の Jiangxi が、プラント計画を破棄したと報道されたのが、同年4月8日頃です。
つい先ごろ、「東南アジア地域における、銅権益に関するパワーバランスの調整があったのではないか」、そのように考えてしまうのは、筆者だけでしょうか。ただの偶然でしょうか。PT Smelting は、今後、どのような役割を担ってゆくのでしょうか。インドネシアという国は、銅以外にもニッケルを中心とした様々なベース・レアメタルを産出する資源大国であります。大変興味深い出来事であることに違いはありません。
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