言葉にしない優しさ
なおちゃん。
それは高校時代から40年以上も
大好きな私の友達の名前です。
今は遠く離れていて、コロナ禍でもあり
長い間会えてないけど、週に一回は
必ずLINEでやり取りしています。
大した内容ではありませんが
彼女と繋がれている、それだけで嬉しいのです。
死ぬまで、いえ、死んでからも
ずっと友達でいたいです。
私は子供の頃から
家庭に対するコンプレックスもあり
友達を作るのがとても苦手でした。
小学校から中学校に上がる時は
知り合いも多かったので
取り敢えずは一人ぼっちになることは
ありませんでしたが
高校には同じ中学校から10人弱しか行かず
しかも仲のいい人はいなかったので
入学当初はとても緊張していました。
やがてそんな私にも
なんとか仲良しグループが出来、
学校行事にはいつも一緒に行動していました。
ある日、その中の1人が私に言いました。
「みっちの家はお父さんの影が薄いんだね。」
それは別に悪気のない、素朴な感想だったと思います。
私が父の話をしなかったのは
もうその頃は一緒に住んでいなかったから。
父は私達を捨てて他の女性と暮らしていました。
いえ、ひょっとしたら私達が父を捨てたのかも知れません。
私は中学生の頃から父が大嫌いでした。
ちゃんとした職にもついていず、
母ともきちんと結婚していない
こんな父ならいっそいない方がまし、
何度そう思った事でしょう。
友達からそんな言葉を投げかけられ
その時はあやふやにごまかしてしまったのですが
高校生ともなると中途半端な嘘をついたところで
すぐに見抜かれてしまうでしょう。
私は仲良しグループの子に
本当の事を告げる決心をしました。
グループは私を入れて4人です。
だから3人に当ててそれぞれ手紙を書きました。
3人の内の2人は、私の手紙に返事をくれました。
「全然知らなくて、無神経なこと言ってごめんね。」
「これからもずっと友達だよ。」
温かい手紙で本当に嬉しかったし、何より
受け入れてもらえた事に心から安堵しました。
ところがなおちゃんだけは手紙をくれません。
それどころか、そんな事全くなかったかのように普通に話かけてくるのです。
私は最初、訳がわかりませんでした。
他の二人のように温かい言葉を期待していたのに
まるで無視なんて!
でもそれが彼女からのメッセージだと
気づくのにそれほど時間はかかりませんでした。
彼女は敢えてその事を話題にしない事で
私達の間にはそんな事は関係ないと
言ってくれていたのです。
よく「言葉ではっきり言わないと伝わらない。」
と言いますが、私は時々、
言葉にすればするほど
嘘っぽく感じてしまって
話すのを止めてしまう事があります。
逆に、言葉にしない方が伝わる思いもあると
なおちゃんから教わりました。
その後も私達のグループはずっと仲良しで
子育て中は暫く会えませんでしたが
毎年一度は会ってランチや
旅行を楽しんでいます。
ここ3年は会えてませんが
また必ず4人で会って
しばし時間を共有したいと思います。