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ぎゅわーん、ぎゅよーん 千葉都市モノレール
11月下旬。用向きがあってJR千葉駅を訪れた。用といっても、催事でOJICOの鉄道Tシャツを買うだけ。Tシャツ1枚のために、総武・横須賀線快速で1時間半。妙な方向への爆発的な行動力には、われながら感心する。
Tシャツは、欲しいデザインはすでに決まっていて、サイズを確認して買いたかっただけだった。用は早々に済んでしまった。
千葉駅を訪れたのは13、14年ぶり。ずいぶんと様子が変わっている。駅ビルが増えた気がする。千葉県出身の私。高校生の頃は時々この周辺で遊んだ。記憶の中の千葉駅と目の前にある景色はまるで別ものだ。
駅前でJR千葉駅の設立130周年イベントが開かれていた。県内の鉄道・バス事業者がブースを出店してグッズなどを販売している。
特設ステージでは、千葉商科だか、高校のブラスバンド部が演奏を披露している。中高年のオーディエンス向けに昭和の演歌もブラバンアレンジで演奏していた。最近のブラスバンド部は、ダンスや歌もできないといけないのだなあ。大変だなあ。
ステージの周りにフードトラックが出ていた。その中に「幕張ブルワリー」という店があった。聞けばブルワリーは2017年創業。海浜幕張駅から15分くらい歩いた、花見川に近い埋め立て地にあるらしい。
「ああ、わが学び舎の、跡地のあたりか」
一抹の寂しさを、その名も「幕張ペールエール」とともに飲み込んだ。うん、軽くていい。朝一番のビールには最適だ。千葉県産の鶏肉を使ったという唐揚げもいい塩梅だった。
次の予定まで2時間ほどある。さて、どうしよう――ふと目に入ったのは「千葉都市モノレール」の看板。そうだ、千葉にはモノレールがあるじゃないか。
千葉都市モノレールは2路線を有する。千葉みなとから千葉駅を経由し県庁前まで行く「1号線」。千葉から千城台を結ぶ「2号線」。後者は途中スポーツセンター(天台の野球場、グラウンド)や動物公園、JR都賀駅などを通る。千城台まで行っても片道25分程度、往復1時間弱。よっしゃ、これだ。なんにも用事はないけれど、千城台まで乗ってみよう。私は長い長いエスカレーターを上った。
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2両編成の広告ラッピング車体。ピンク、赤、黄、青。極彩色がえらくうるさい。絵柄もわちゃわちゃしている。自由というか野放図というか。車体の色やデザインのガイドラインはないのか、千葉都市モノレールよ。後発の公共交通機関なのだから、もうちょっとなんとかしようがあったろうに。まあ千葉らしいっちゃ千葉らしいんだけれども。
もちろん先頭車両に乗る。前面展望かぶりつき。立ちっぱなし乗車上等だ。大人げないかしら、なんて人の目を気にしていたら、見たい世界は見られない。これは鉄道に限った話ではない。
プルルルルと発車ベルが鳴る。ごうん、といきなり加速した。速い!
千葉都市モノレールは「サフェージ式懸垂式モノレール」といって、車両の上にある軌道にぶら下がって進む。つまり車両は宙ぶらりん。乗っていてもなんとなくふわふわして、地に足が付かない感じがする。日本でこのタイプはここ「千葉都市モノレール」と、わがまち藤沢も走る「湘南モノレール」の2つだけだ。
ちなみに千葉都市モノレールは、懸垂式モノレールとしては世界最長の総延長15・2㎞。ギネスブックにも登録されている。千葉県民はもっと誇っていいと思う。
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アップダウンが激しい。前面ガラスの向こうに見えるレールが、蛇のようにのたうち回っている。この辺はぺたっとした平地だと思っていたけれど、案外、山あり谷ありなのだな。そういえば「台」の付く駅名が多い。天台、みつわ台、小倉台、千城台北、千城台と5つもある。名は体を表している。
おまけにカーブに次ぐカーブ。
「ぎゅわーん ぎゅよーん ぎゅわわよーん」
中原中也風の擬音をあてたくなる曲線が続く。地べたを走る鉄道と違って、モノレールは平気で直角ぐらい曲がれる。車両ごと身体が横に振られる。
上下に揺れ、左右に振られ。まるでジェットコースター。スリル満点だ。
モノレールの下を幹線道路が走る。県道や市道の上に軌道を敷けば、用地取得の面で(私有地に敷くよりは)手続きや費用が少なくて済むだろう。道路の中央分離帯にモノレールのぶっとい支柱が刺さっている。あんな柱に今、支えられているのかと思うと、不思議な気持ちがした。
運転室の床面に透明なガラス張りの窓がある。モノレールの下、つまり道路が丸見えなのだ。うへえコワイ。けど、おもしろい。八千代方面に向かう車の屋根が眼下に見える。クルマとモノレールが抜きつ抜かれつ。向こうは信号で停まり、こっちは駅で停まる。千葉方面へ向かうクルマはやや渋滞していた。モノレールに渋滞はない。
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終点・千城台駅。モノレールの終わり、「どん詰まり」を眺めるのが好きだ。ここまで当たり前のように続いてきた軌道、建造物が突然ブツン! となくなる。景観なんて二の次。はい、ここまで。容赦なく、無情に終わる。
「物事はいつか終わります。誰かが終わらせます。それがいくら楽しくても、便利であっても」
世の理を見るような気持ちになる。決していい気持ちではないのだけれど、なぜだか見入ってしまうのだ。途切れた軌道の先には壁がない。真下に通る道路を見下ろせる。ホームに人影はない。まるで近未来の廃墟みたいな駅だった。
千城台にはショッピングモールが直結している。東京では馴染みのない名前のモール。これといって欲しい物も食べたい物もない。すぐに千葉駅へと折り返した。
まだ少し時間に余裕がある。今度は1号線に乗って海側の終点・千葉みなと駅へ。ここはJR京葉線と接続する。
千葉みなとのまちには独特の虚無感がある。いつ来てもどこか「ゴーストタウン」っぽいのだ。まちに体温がない。埋め立てで、建物が灰色のコンクリートだらけだからだろうか。
せっかくだから県庁前駅までも乗ってみた。軌道は葭川(よしかわ)の真上を走る。柱は、2号線のように中央分離帯のど真ん中に立てるわけにはいかない。川の両岸に細めの柱が立って、左右から軌道を支えている。
葭川は相変わらずドブ川みたいだった。濁った深緑色。粘度すら感じる濃さ。ここで緊急停止でもして、掛員に「脱出しまーす、シューターで降りてくださーい。下は川だから大丈夫(?)でーす」なんて言われたらどうしよう。あんなトコに降りたくないよ、全然大丈夫じゃないよ。水に入るのを躊躇してしまいそうな、そんな色をしていた。
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