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慶應高校は試合前のシートノックで最後にバックホームではなく、緩いゴロをワンハンドでキャッチしランニングスローで1塁に投げて締める。
慶應ではこのプレーをチョッパーと呼ぶ。

チョッパーは慶應野球部の象徴だ。
腰を落として正面で捕球という昔ながらの野球の基礎から脱却した、プロ野球選手さながらの華やかでカッコいいスタイル。エンジョイベースボールのイメージそのまま、「これがおれたちの野球だぜ」と誇らしげにランニングスローをする選手たち。慶應野球部に憧れて入部してきた新入生は「これが慶應だ」といって、勇んでランニングスローをする。2011年に慶應高校野球部に入部した僕も例外ではなかった。

今年、母校の応援をしようと北神奈川大会の決勝を観戦した。すると慶應のシートノックで、サードの下山がチョッパーをする場面で腰を落として捕ってスローしていた。他の選手たちはランニングスローだから、監督の指示ではないようだ。きっと下山は、試合でアウトにするには、この打球でランニングスローするより、腰を落としてしっかりした体勢でスローした方がいいと考えたのだ。

誰も疑問に思わず、誰もが憧れ、継承されてきたプレーに、彼は一石投じたと僕は感じた。つまり、慶應野球部はこれまで、シートノックのチョッパーはパフォーマンスであり、試合のための準備としてやっていた訳ではなかったと、下山の形を見て初めて僕は気付かされた。ランニングスローをするのは慶應なら当たり前と思っていた僕は、「何のためか」ということが、この学校に入学した瞬間からすっ飛んでいた。それは歴代の先輩も同じだ。

だが、今年のチームは違った。しっかり思考していた。
この練習が何のために必要なのか。
このケースで本当に必要なプレーは何なのか。
キャプテンがそういう思考だと、チームの浮つきがなくなる。
シートノックの下山のプレーを見て、今年の慶應はかなり強いと感じた。

(息子のエッセイより)


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