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うちのパンちゃん ニワトリの雄たちよ②

 うちで生まれたそのオンドリは
パン、という名前になった。
バターのたくさん入った
高級食パンのように
ふんわりしていて、
淡いクリーム色をしていたからだ。

卵を産ませるための品種、
というものがあるのだろうか。
卵が目的で飼われているメンドリたちは
自分で産んだ卵を温めない。

もっとも、
卵を抱え込んで温めていたら、
次の卵を産まなくなる。
ペットとして飼っているわけ
ではないのだから、
人間としては、それは困る。

そういうわけで、
卵は新鮮なうちに
産むそばから人間たちが取っていく。


子育て経験がないからなのか、
それとも子育てに興味がないように
改良?されているのか、
どちらもなのだろうか。

たとえ自分が産んだ卵を
人間が奪わなかったとしても、
メンドリたちは卵を温めなかった。

そのことは、今思い出しても
ちょっと胸がキリリとなる。
そんなふうにさせちゃって
ごめん、と思う。


そういうわけで、
卵からニワトリを孵したいときは
こっそりチャボのお腹の下に
ニワトリの卵を入れておく。

人間の手を介した托卵だ。


こうして生まれてきたヒヨコたち。
5羽のうち1羽だけが
オンドリだった。

ヒヨコのきょうだいは
卵を温めてくれたチャボのメスを
母と認識していたようで、
いつも後をついて
列になって歩いていた。

母はチャボ、子どもたちはニワトリ。
しかもパンはオンドリなので

後をついて歩くパンのほうが
どんどん大きくなっていった。


一方、ヒヨコたちは、わたしのことは
育ての親
と思ってくれていたようだ。


ヒヨコというよりニワトリ、
という姿になってからも、
人間の子どもが
ままごと遊びをしていると
近くに寄って来て
草のご飯を食べたり、
泥水のスープをつついたりするほど
懐いていた。


姿形は違えど乳兄弟
(乳は飲んでないが)みたいな
感じだったのだろうか。




しかし
そのうち
変化が現れた。



わたしたちを見ると寄って来る 
ニワトリたちのうち
パンだけが
違う動きをするようになった。


屈託なく近くに来ていたのが、
すぐには近寄ってこなかったり、
ワナワナ震えながら
こちらを見ていることが増えた。

しばらく逡巡したのちには
ようやく餌を食べに来るけれど、
何か今までとは違う。

何度かそういうことがあり、



ある日、

パンがわたしに飛びかかって来た。


それ以来、
パンは、メンドリたちのように
無防備に人間の近くで餌を食べることは
なくなった。





これは推測に過ぎないが


あのワナワナは
「飛びかかりたい!」
という衝動と

「いやいや、この人はお母さん」
という気持ちが闘っていた
のではないかと思う。



しかし、このお母さんは
どう見ても同種ではない。


そのことに気づいてしまった。
気づいた以上、
もう馴れ馴れしくはしない。



本能と、育ての親への愛情の
せめぎ合い。
パンの中の葛藤は、
本能のほうに
軍配が上がったようだった。


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