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臍の緒は竹のナイフで
自宅出産も三回目。
出産自体は四回目の時のことだ。
毎回都度都度の不安はあるものの
準備は少しずつ整ってきていた。
例えば、臍の緒の処理。
今回も、臍の緒を切るのには
ナイフを作った。
初めて自宅出産をした長男(第二子)の時は、
カレン族のおじさんから
お手製のナイフを
プレゼントしてもらった。
第三子の次男からは
日本で生まれているので
夫のお手製だ。
竹は殺菌力が高く
細かい繊維でできているので
繊維に沿ってナイフを作ると
ステーキを切るナイフのように
刃先が細かいギザギザになる。
触ったことがある人はわかると思うが
臍の緒は
ツルツルグリグリしていて
意外と太いし硬い。
普通のはさみでは逃げ回るように
すべってしまい、
歯が立たない。
それが、竹のギザギザの刃先だと
調和したように
すっと切り込んでくれるのだった。
生まれるところまでは
百歩譲れば一人でもなんとかなるだろうが、
赤ちゃんが出てきてからは
動けない。
ここからは、
父親をはじめとする
家族のメンバーの活躍どころだ。
自宅出産で一番大変なのは
実は生まれたあとなのではないかと思う。
生まれるまでは、
病院で産むのとさほど変わらない。
妊婦さんたちはそれぞれに
赤ちゃんを迎える喜びや
出産や育児への不安
体調の変化や
気持ちの変化による戸惑い
24時間船酔いのつわりや
水を飲んでも増えていくような体重の管理
重苦しい体
時には安静にしていなければならなかったり
仕事の悩みや
赤ちゃん返りする上の子たちへの気遣いや
それらも通って
でもきっとそれを上回る喜びの中
出産の日を迎えるのではないかと思うから。
わたしが自分のことで
精一杯だった9ヶ月
父親になる身は
どんな気持ちで過ごしていたんだろう。
できることを粛々と
その一つが
竹のナイフだったのだろう。
そして、
いよいよナイフの出番
臍の緒を切るその役は
13歳になったばかりの長女が担った。
ついさっきまで
陣痛の間は
それぞれが落ち着かない部屋の中で
「わたしは関係ない」
とばかりに
心頭滅却して本を読んでいた長女。
臍の緒は
シュルシュルと
気持ち良いくらい切れていた。