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デザインの新時代到来?生成AI時代のプロダクトデザイン

本記事はIVRy Advent Calendar 2024の紅組の8日目の記事です。
白組の記事では、エンジニアマネージャーの堀田さんが IVRyのエンジニア採用やエンジニア組織について書いています。
紅組の9日目はYamamotoさんが記事を公開予定です。お楽しみに!

こんにちは、IVRyでLead Product Designerをやっているみっちー(@michiminstar)です。
今年の10月末に入社してから、あっという間に1ヶ月が過ぎました。研究メインで過ごしていた時期とは一気に生活が変わり、人とコトに向き合う時間が圧倒的に増え、刺激的な日々を過ごしています。
中には5-10年ぶりに会えた方々もいて、とても嬉しいです。

忙しくはあるけれど、やっぱり自分は誰かと一緒にコトに向かって走るほうがやりがいを感じるタイプなんだなと実感しています (心なしか肌もきれいになった気がする✨)。

それでは、本題に入りたいと思います。


はじめに

この記事では、生成AIの普及によってデザインの現場でどのような変化が起きているのかを振り返りつつ、デザインの未来についての考えを紹介します。

一般的に「デザイン」と聞くと、いまだに「ビジュアル」や「見た目の美しさ」を重視した領域を想像されることが多いかもしれないですが、この記事ではより広義の「設計」としてのデザインに焦点を当てています。

私自身はデジタルプロダクトのデザインを専門としており、本記事での主張はその観点に基づくものが中心です。ですが、他領域のデザイン実践者の方々にも、生成AI時代のデザインが持つ可能性や課題を考える上で何らかのヒントになれば幸いです。

生成AI時代の到来が変えるデザインの風景

2024年現在、生成AI、とりわけLLM(大規模言語モデル)の登場は、プロダクトデザインの在り方を劇的に変えつつあります。それ以前のデザインプロセスと比べて、どのような変化が生じているのか、そしてそれがデザインにどんな可能性をもたらしているのかを考えてみます。

これまでのデザインスタンダード

今日のデザインの現場では、「デザイン思考」や「人間中心設計 (HCD)」が長年スタンダードなアプローチとして広く採用されています。これらの手法は、デザインを「問題解決」のプロセスと捉え、人間のニーズや行動を深く理解したうえで、適切なソリューションを提供するための強力なフレームワークとして、さまざまな分野で活用されてきました。

しかし、これらのフレームワークが登場した時代と比べ、技術や社会が劇的に変化した現在、生成AI時代のプロダクトデザインにおいて既存のアプローチはどれほど有効に機能するのでしょうか

デザインプラクティスの前提が崩れ始めている

デザイン思考やHCDが登場した1960〜1980年代は、消費市場の拡大と消費者ニーズの多様化によって、「技術中心」から「人間中心」へのパラダイムシフトが始まった時代でした。この流れは、デジタル技術の急速な発展によってさらに加速し、1990年代以降、デザイン実践の場は単なる製品デザインから新しいサービスやプロセス、コラボレーションへと拡張していきました。
この転換期を支え、ビジネスや社会問題の解決において革新的な手法として活用されてきたデザイン思考やHCDですが、生成AI時代に突入し、これらのデザインプラクティスにおける様々な前提が崩れ始めているように思います。

生成AIの浸透によってデザインプラクティスにどのような変化が起きているか?

ChatGPTの登場により、様々な分野でデザインパラダイムの変化に注目が集まっていますが、その前からビジュアルデザインの分野では、AIを活用したクリエイティブ制作が徐々に広がりを見せていました。

① Adobeが2016年に公開したAdobe Sensei

② Alibabaが2017年に公開したAI-based Graphic Designツール

③ 2019年頃に登場した、UIデザインの自動生成ツール - Uibot

しかし、これらのツールは主に効率化やルーチンワークの自動化に焦点を当てたもので、少なくともプロダクトデザインのアプローチそのものに大きな変化をもたらしたものではなかったのではないかと思います。
あくまでも創造性を発揮するのは人間のデザイナーの役割であり、AIツールは人間が創造的な作業に専念できるように補助する、という位置づけだったと記憶しています。

では、ChatGPTの登場以前と以後で、デザインプラクティスはどのように変わりつつあるのでしょうか?

以下3点について詳しく説明していきたいと思います。

  1. 「Problem to Solution」から「Solution to Iteration」へ

  2. 「問題解決」から「可能性を探求する」デザインへ

  3. 「汎用的なデザイン」から「ニーズに呼応するデザイン」へ

「Problem to Solution」から「Solution to Iteration」へ

プロダクトデザインのセオリーでは、今でも明確な問題を特定し、それに最適な解決策を導くプロセスことが主流だと思います。
しかし、実践の場においては、FigmaのCPOのYuhki Yamashitaさんが仰っていたように、Problemから試行錯誤を始めることもあったりと、必ずしもダブルダイヤモンドのモデルに沿ってデザインが行われないケースも多々あります。

セオリーと実践のギャップ。WebSummit 2022のYamashitaさんの発表資料より抜粋。
ダブルダイヤモンドの図。WebSummit 2022のYamashitaさんの発表資料より抜粋。

私自身も、実務ではこういったセオリーと実践のギャップを感じながらも、なるべく「お手本」とされるデザインアプローチで進められるよう努めたり、ときに他者にデザインロジックを説明する際に、便宜上後付けでダブルダイヤモンドに沿って紹介したりもしていました。

しかし、生成AIでプロトタイピングコストが飛躍的に低下したことで、問題の探索・定義からのスタートを前提にしたアプローチが見直され始めているように思います。

例えばFigma AI (ベータ版) では、プロンプトを入力するだけで、たった数秒で条件にマッチしたUI候補を自動生成してくれたり、画面内のテキストやレイアウトの細部まで、AIが状況に応じて自動補完してくれます。

このように、生成AIを活用したデザインアプローチでは、従来の「問題を明確にしてからソリューションを設計する」という流れをショートカットしつつ、完成度の高いプロトタイプを使って迅速に仮説検証や課題発見のイテレーションを回すことを可能にしています。

勿論、生成AIが提供するスピードと効率性を活かす一方で、生成AIのアウトプットを過信せず、課題の本質を見失わないための慎重な検証や、ユーザーインサイトを深掘りするためのリサーチは依然として重要です。従来のアプローチが提供する構造的な強みと、生成AIがもたらす柔軟性やスピードを組み合わせることが、次世代のデザインスタンダードになるのではないかと思っています。

「問題解決」から「可能性を探求する」デザインへ

「Solution to Iteration」へのシフトによって、問題解決のスピードが飛躍的に向上したことに加え、複数のシナリオを想定し可能性をそれぞれ探求する、未来探索型デザインの実践ハードルも低くなりつつあります。

未来探索型デザインの代表として、これまでにSpeculative DesignDesign Fictionといったアプローチが一部の分野で注目されてきましたが、それらは主に研究や実験的な取り組みに限定されることが多く、私が知る限り国内のデザイン現場ではあまり浸透していませんでした。

しかし近年、生成AIが広くデザインの現場で活用されるようになり、いくつか変化の兆しが見えてきています。

残念ながら、まだプロダクトデザインの領域では、生成AIの活用が仕様の枠内でのアイデア探索に留まっていることが多い印象ですが、活用が進むにつれ、より未来探索的なアプローチにも踏み込んでいく事例が増えていくのではないかと考えています。

様々な未来のシナリオを探索する
Speculative Design and a Cone of Possibilitiesより抜粋

例えば、生成AIを用いて様々な未来のシナリオパターンをシミュレーションし、それをもとに未来を先回りしたプロダクト体験を提案・実装する、といったことも十分可能であると思います (そういった事例を知っている方がいらしたら、是非メッセージいただけると嬉しいです) 。

プロダクトデザインの現場でもこのような可能性に目を向け、より広い視点で可能性を探求するようになれば、デザインは問題解決だけでなく、未来の可能性を示す道具としてもその価値を発揮していけるはずです。

「汎用的なデザイン」から「ニーズに呼応するデザイン」へ

UIが個々のユーザーニーズに合わせてカスタマイズされる世界
https://www.nngroup.com/articles/generative-ui/より抜粋

生成AIの普及に伴い、プロトタイピングコストが劇的に削減されたことで、体験のパーソナライゼーションは一層加速しています。

2023年に発表されたTwilioのレポートによれば、9割以上の企業が既にAIを活用したパーソナライゼーションを導入しており、個々のユーザーの嗜好やニーズに応じた体験設計の重要性がますます高まっていることが伺えます。

生成AIが台頭する以前から、UIレベルでのパーソナライゼーションは、NetflixAmazonなどのプロダクトで広く実践されてきました。しかし、過去の例では主にユーザーをセグメント単位で捉えており、その特徴にもとづいたパーソナライゼーションが中心でした。

ところが、生成AIが進化したことによって、デザインの対象はセグメント単位から個人単位に広がり、個々のニーズや趣味嗜好、コンテキストに合わせた、より高度なパーソナライゼーションが社会実装され始めています。

このような変化の兆しは、従来の汎用的なデザインでは対応しきれなかった多様なユーザー層、特に身体的特徴や特別なニーズを持つ方々に新たな可能性をもたらすため、まだ課題は多いものの、個人的に非常に期待しています。世の中の体験はまだまだインクルーシブでないものが多いので、この流れを推し進められるよう、自分自身でも実験を重ねながら知見を共有していきたいと思っているエリアです。

新しいデザインパラダイムにどう向き合っていくか

さてここまで、生成AIがデザインプラクティスに与えた影響について見てきました。

改めておさらいしましょう。

  1. 生成AIの台頭によって、デザインプラクティスの前提が崩れ始めている

  2. アイデア検証のためのプロトタイピングコストが飛躍的に低下したことにより、以下3つの変化の兆しが見られる:

    1. 「Problem to Solution」から「Solution to Iteration」へ: 従来の問題の探索・定義起点ではなく、より柔軟性のある、ソリューションアイデア起点で高速に価値検証をしやすくなった。

    2. 「問題解決」から「可能性を探求する」デザインへ: 生成AIの活用によって、複数のシナリオを同時に検討しやすくなったため、未来の可能性を探求するハードルが下がった。これからプロダクトデザインの場においても、デザインは問題解決だけでなく、未来の可能性を示す道具としても力を発揮するはず。

    3. 「汎用的なデザイン」から「ニーズに呼応するデザイン」へ: 生成AIによって、ユーザーセグメント単位から個人単位での高度なパーソナライゼーションができるようになりつつある。これによって、個人の身体的特徴やニーズ、コンテキストに適応するユーザー体験の実現に近づく。

基本的に大事なマインドセット

ここまで割と肯定的な視点で生成AIのインパクトについて触れてきましたが、生成AIは決して万能ではなく、その利用には慎重かつバランスの取れた姿勢が求められます。
今では認知が広がっているとは思いますが、生成AIはハルシネーションやバイアスの問題などを抱えており、AIのアウトプットをそのまま受け入れるのではなく、常に批判的な視点を持って向き合うことが大切です。

デザイナーとしてどう変化に向き合うか

近年では生成AIに後押しされ、これまでCo-Designの分野などで取り組まれてきたデザインの民主化が大きく前進しつつあります。
デザインがより多くの人に開かれることで、組織や社会の越境的なコラボレーションがより促進され、社会全体の想像/創造力を高めるきっかけとなるため、非常に意義があると感じています。

その反面、デザインの民主化が進むなかで、一デザイナーとして強く疑問に感じていることもあります。来る未来、誰もが生成AIのような技術を使ってデザインをできるようになれば、果たしてデザイナーの存在価値はどこに見出されるのでしょうか?

個人的にはデザイナーは肩書きでしかないと思っているので、それに対するこだわりはありません。

しかし、デザインを通じて社会貢献をしたいと思いデザイナーを志した身からすると、デザインアウトプットの差でしか価値を示せないのは、とても窮屈に感じます。

私のなかでのデザイナーのイメージは、アメーバーのように自身の形を変えながらも本質を保ち続ける存在です。技術の発展によってこれまでの前提が崩れるたび、自らの専門性を再定義しながら、その時々の社会で求められる役割に適応していくことが、「デザイナー」が価値を生み出し続ける鍵ではないかと思っています。

まだまだ多くの模索が必要ですが、対話型音声AI体験に携わる一人として、デザインにおける変化の兆しや自身の問いと向き合いながら、新しい可能性に挑戦し続けたいと考えています(仲間も募集してます!)。

終わりに

いかがだったでしょうか?
すでにAIxDesignの領域に明るい方にとっては、もしかすると当たり前に感じられた内容だったかも知れませんが、少しでも発見になっていれば嬉しいです。

改めて記事を書いてみて、自分が抱いているAIやDesignに対する問いを探求していくには、IVRyは本当に最適な環境だなと感じました。下記の記事にもあるように、IVRyは過去のアプローチにとらわれず、新しいカタチを生み出す精神がカルチャーやプロダクト開発に根付いています。こういった環境下でこそ、新時代のデザインに挑戦し、社会の次の可能性を切り拓いていけるのだと強く感じています。

この記事を読んでいただき、「ともにIVRyで、対話型音声AI体験の最前線を駆け抜けていきたい!」と思ってくださる方が少しでも増えると嬉しいです。

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P.S. 12月に以下のウェビナーも開催を予定しています。IVRyについてより詳しく知るチャンスなので、是非エントリーしていただけると嬉しいです。

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