不動産営業で感じた、わたしの理想の営業のあり方
大学生のとき、不動産賃貸の仲介営業アルバイトをしていました。毎年春休みに、通っている大学の新入生のお部屋探しをお手伝いするバイトです。
バイトとはいえ、条件を聞いて100件弱ある物件の中からお客様に合いそうな物件を紹介するところから、実際に2〜3件内覧に行きそれぞれの物件を比較して説明し、契約をとって契約書の説明までします。
さらに、不動産の代表的な資格である「宅地建物取引士」を取得してからは、契約を完了させるために必要な重要事項説明まで任されるので、全てを一人で完結させることができました。不動産仲介の営業の仕事とほぼ同じようなアルバイトでした。
春休み限定とはいえ4年間続けたこともあり、それなりに接客したし契約もとってきました。1件2〜4時間ほどの接客で1日に多いときで4件ほど対応することもありました。わたしは、顔と名前を覚えるのがほんっとに苦手なので、正直ほとんど1人1人のことを覚えていません。断定してますが、営業マンとしては致命的ですね(笑)
それでも、とても印象に残っているお客様がいます。どうしてそこまで印象に残ったのかをなんとなく考えてみると、わたしが理想とする形で、人の役に立てたからだと思ったのです。
入学手続き日、下宿予定の何も知らないお客様
そのお客様は、わたしが2年生のとき、大学の合格者手続日に親子3人でご来店されました。わたしが、大学の門の前で「お部屋探しされてませんか?」とビラ配りしていると、「下宿予定だけどまだ何も見てなくて、ちょっと見てみてもいい?」と言われたのでそのまま接客することになりました。
その日は、入学手続き日だったので来店されているお客様も多く、お店としては狙い時でした。特に、優先的に満室にしたいが所有している物件(以下、物件A)は、残り少なくなっており、その日中に契約とりきるのが目標となっていました。
そうした背景もあり、社員の方から「もしビラ配りからお客様を連れてきて、物件Aで契約がとれたらお昼ごはんをおごってあげる」と言われていました。お昼ごはんか・・・と思うかもしれないですが、アルバイトということもあり、契約数の目標や普段のインセンティブはなく、お昼ごはんをおごってもらうことは十分嬉しく、みんなやる気になることだったのです(笑)
結論から言うと、わたしはビラ配りから接客したお客さまを、しっかりお目当ての物件で契約し、社員の方にお昼ごはんをおごっていただきました!ただ、お昼ごはんが目当てで無理やり誘導したわけではありません。
選んだのはお客様。でも、わたしがいた意味はちゃんとあった。
そのお客様には物件を見つけないといけないというニーズがあり、本当に条件とぴったりの物件がたまたま契約をとりたい物件で、他に似たような物件を紹介し比較したけど、最終的にはお客様の意思でその物件を選んでいただいたのです。ある意味、わたしは運が良かったと思います。
ただ、わたしが何も頑張らなくても物件Aになったかと言われればそうではありません。物件Aはたしかにお客様の条件には近かったです。しかし、学校から遠いというデメリットもあります。似たような価格帯で設備もほぼ同じ物件Bは、より学校に近いです。でも、物件Bは物件Bで、周辺環境が物件Aと比べて悪かったり、説明しないとわからないレベル感で部屋の設備も劣る部分があります。
もし、お客様だけで選んでいたら、目に見えてわかる学校との距離で物件Bになっていたかもしれません。でも、わたしが入ったことによって、物件Bのデメリット、また逆に物件Aのメリットなど、しっかり伝えることができました。そして、物件Aのデメリットである大学との距離も、自転車だとそこまで時間がかからないことで解決すると伝えました。うちの大学は、キャンパスが広すぎて、自宅から通っている人でも自転車をもっているほど、自転車が主流だったのです。
だから、クロージングの時に「3件見てきましたけど、どうしますか?」というたったの一言しかかけてないにも関わらず、「物件Aにします!」と即答してくださったのだと思います。
なぜ、わたしがこのお客様のことをこんなに印象深く残っているのか、それはきっと、自分の介在することで正しい情報を伝えながら営業を行い、お客様が自分で納得し、自分で選び、その結果とても満足してくださったからだと思います。
物件を紹介するというのはとっても難しいです。すべての条件にピッタリあうような物件があることなんて稀で、ほとんどは何かを妥協していただかないといけません。
でも、紹介する側としては条件にあう物件がなくてもできる限り自社で契約をとっていただくように営業しないといけないし、プラスでここだけはしっかり満室にしたい、外せないというような物件があります。
大学の新入生なので、お客様はほとんどの場合4年間住む物件になります。ちゃんと条件に合う物件を紹介して、何件か比較して、お客様が本当に納得する物件に決めていただきたい。そう思ってましたが、そんなキレイゴトで契約を取れるほど甘くないのです。
わたしはアルバイトで目標値もなかったため、無理に契約をとりきるに倒さないときもありました。全然納得していないなら、他のお店に行ったほうがいいと思うので、いろいろ見てみてもいいかもですね〜とか言ったり。
だから、お客様自身が決めてくれた物件が、自分たちも契約をとりたかった物件Aだったことがとても嬉しかったのです。もしわたしが、お昼ごはんのためにお客様を誘導して物件Aに無理やり入れていたら、きっと今でもモヤモヤしていたでしょう。
わたしが思う、理想の営業の形とは
最後に、もうひとつ印象に残っている理由があります。それが起きたのは、その年の入学式でした。入学式では、不動産のアルバイトではなく、所属していた写真部のお手伝いとして写真を撮りに行きました。
すると、なんと物件Aで契約をとった親子3人がわたしに気づいて声をかけてくださったのです。覚えていてくださっただけでとっても嬉しかったのですが、「入居も無事できました。あのお部屋がとても気に入っていて、これから楽しみなんです。本当にありがとうございます」と言ってくださったのです。
こんなに長々と話してきましたが、結局印象に残っている理由はこの再会がすべてかもしれないです(笑)でも、ちゃんと納得していただいたことが何もよりもうれしかったことは変わりありません。そして、その上でお店の役にも立てました。関わる全ての人が、最大限の利益を手にしたのです。それがわたしにとっての一番理想的な営業の形でした。
ビジネスの世界では、利益や成長をしっかり出さないといけないので、お客様のニーズを待つだけではなく、ニーズに気づかせる力が大事です。のんきに「他の会社も見てみたらいいですよ〜」だなんて言っていては、営業失格だ!と言われるかもしれません。
でも、やっぱりお客様があらゆる情報を知っているうえで、納得して紹介したものを選んでくれることが1番うれしいです。無理に成約したところで短期的には会社の利益になったとしても、長期的にみれば誰も幸せではないと思います。だから、わたしはお客様の求める適切なタイミングで、わたしにできる最大限の情報提供と、比較した紹介で魅力をつけれるようになりたいなと思います。そして、それができることが、営業に求められるスキルなのかなと思います。
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