義理歩兵自伝(12)

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アロハシャツがホームページの撮影に至るまでの間、
義理浪士は他にも、これでもかというほどのハッタリ業務に耐えてきていました。
 
浴衣の反物というのは、現代風の新柄が出てくることはあっても、古典柄というのは決まりきったパターンばかりが製造されていて、理想に描くような柄を見つけ出すことができませんでした。
 

これをスポンサー氏に報告すると、
「デザイナーさんだもの、自分で描けるでしょう」 
というのです。いてつくはどう、でした。
 

「もちろん、了解です!」

言ってしまった義理浪士は、頭にきて決起しておでこにハチマキを巻き(嘘)、

・とりあえず大判の紙に反物の模様を描いてみよう
・鉛筆しかないから鉛筆を使用しよう
・最もマズいことに何ひとつ知識がないからTSUTAYAに行って本で学ぼう

ここからスタートして、反物の古典柄を創り出す作業に没頭しました。
食べたり飲んだりすることはおろか、睡眠もほとんど取らずに、最後は21日間も部屋に閉じこもる有様でした。

ハッタリでデザインをし、ハッタリで指示書を作り、
現存する人間国宝の反物柄の型を木彫りする職人さんに型を注文して、 
昔ながらの染物屋さんに何度も色を作り直してもらったりして、
次々にきれいな反物を作りました。

終わった時には、まるで山篭りの修行が終わった時のように、
日頃から痩せすぎの私がさらにゲソっとしてしまいました。
ストリートファイターのダルシムというキャラクターは当時の私をモデルにしたと言われています。

こんな背景を抱えて迎えた、アロハシャツの販売ホームページ用の撮影日当日。その日の朝、このミッション・インポッシブルに挑む義理浪士は、

「腹はまったく括れないが、失敗を自分に許すことは絶対にできない」

という、辛い自己矛盾を抱えたまま家を出発しました。

心や頭やお腹は恐怖におののきながら、足腰だけはそれをよそにずんずんと歩みを進める・・・いわば上半身と下半身が別物の、ケンタウロスのような状態でスタジオへ向かいました。
 
 
現場にはヘアメイクさん2名、カメラマンさん1名、女性モデル、男性モデル、それからスポンサーさんと義理浪士、アシスタントさん、大道具さん、このメンバーが集結しました。
撮影前のピリッとした空気は、挨拶などを交わしてにわかに賑やかになりました。
 

モデルさんは両者とも外国人。
この当時、英語がまったく話せなかった義理浪士は、会場で彼らが日本語を理解できないのだと知って愕然としました。
しかしアシスタントさんが通訳できるということで一命を取りとめたのでした。
 
「危ない、、危なすぎる、、おかげで命拾いをしたが、問題はこのあと何をすればよいのかすら、わからないということだ・・」
 
 
義理浪士はこの日まで、何も準備をしないでいるのはあまりに恐ろしかったため、なにか行動しなくては居ても立ってもいられず、100円均一で購入したお絵描き帳に、さまざまなイメージ画を描いていました。
 

女性用には浴衣反物地のワンピースを着てもらうことになっていて、それを着たモデルさんが、海から出てきたように少し上を見ながら歩き始めるところや、太陽の眩しさを避けるようにスッと腕をかざしたところ・・・

これは、家でイメージしながら描いているときはとても良いアイデアに思えました。
しかし、こうしてそれぞれの分野のプロが集まって準備をしているスタジオに入ると、そのお絵描き帳を見せる勇気は、摘んでから1時間も経過した野草のように、ヘナヘナに萎えてしまっていました。
 

「これを見せるのはちょっと・・・・・これが現段階での唯一の武器だが、あんまりに稚拙で恥すぎる・・・!」
 
 
弱気の心でいっぱいの義理浪士は、そのお絵描き帳(B4)をバッグに隠したまま、なんのプロでもない自分がそこに監督として存在していること自体が愚の骨頂に思え、生きている心地がしませんでした。

「まるでクラブで働き始める日、はじめてずらりと並んだホステスたちの中に入った時のようだ・・・・」

人生には、幾度こうした恐ろしい場面が用意されているのだろう。
なぜ穏やかで平和な暮らしができないのだろう・・・・・
 
 

そこへ、風船がパン!と割れるようにかけられた、ヘアメイクさんの掛け声。
「モデルさん着替え終わりました、メイクに入ります!」
 

それまで、「バッグに子供用お絵かき帳に描いた絵を隠し持ってビクついているケンタウロス」
だった義理浪士は、その一言で、ハッと目が覚めました。
 
 
もう、やるしかない、やるしかない!!!!!!!!!!!!
あれほど頑張ってきたんじゃないか、ここで何を怯えるというのか?!
自分が監督だというなら、好きにさせてもらうのだ!!ゆけ!!!
 
 
窮鼠猫を噛む、というのはこのことなのでしょう。
ギリギリのところまで追い詰められた気持ちが、ひっくり返って反逆に入るのをマグマのように感じた瞬間でした。
 
 
「それでは皆さん、よろしくお願いいたします!」
 

勢いよく、かつ微妙にこういう場に慣れた風の、プロっぽい言い方をするという恥演技をかましつつ、スイッチの入った義理浪士はメイクさんのところへ指示に行き、ヘアー担当さんにディティールを伝え、大道具さんに自分のイメージを必死に語ってライトや幕を調整してもらい、カメラマンさんと自然光の下で写ったような仕上がりにする打ち合わせをして、

完全に、「なりきり!撮影監督モード」で立ち回り始めました。

そしてモデルさんへの指示のため、ついにイーサン唯一の武器である「お絵描き帳(B4)」を引っ張り出して、夜書いたラブレターを次の日になって読み直してみたときのような自己嫌悪に耐えつつ、描いてきた漫画風の恥鉛筆画を恥絵コンテとして見せながら、表情やポーズをなんとかイメージに合うように英語で伝えてもらい、

最後は長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督的なバグが自分の中に起きて、
和製英語と日本語のミックスされた風変わりな言語で指示を出して撮影を仕切りました。
自分は決してこの時の自分自身を、第三者の視点から見たくはありません(笑)
 
 
最後にすべてのショットにOKを出した時の爽快感というのは、今もとても大きな喜びとなって思い出すことができます。
拍手の中で撮影を終えた時のスパークした喜び。
もう好きにしてくれ~~~という最高の飛翔感でした。

こうして得た写真を使って、ウエブデザイナーさんと作ったホームページ。
いよいよ販売を開始した夜は、座っていることもできないほどソワソワしました。
 
 

神様はこのあと義理浪士に、祈りを上回るご褒美をくれました。
 
 
250枚のロットで用意したアロハは一週間で売り切れとなり、
あれよあれよという間に雑誌に取り上げられ、ラジオ出演を果たし、
新宿の有名百貨店の本店さんから、店内1Fの催事用店舗のオファー・・・・
 
 

背中に背負った義理が、無防備にもふわふわと飛んでいって、ちょっとした勝利感に興奮し、バラ色の視界に酔う日々でした。

この浮かれた浪士がこの時、ピッタリと満たしていたあの条件。

読者の皆様にはもうおわかりでしょう。 
しかし、あの時の私はまったく気がついていませんでした。

扉の後ろに再び、あのジェイソンが斧を振り上げて立っていることに・・・・・・
 
 
 
つづく・・!

次回は呆れるほど見事で単純な急転落の模様を綴ります・・

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