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拾われた猫

男は人を殺し、山へと逃亡していた。しかし山籠りの食料を探している途中、足を踏み外し崖下に転がり落ち、気を失った。
そして、気づいたら猫になっていた。
近くに人間であった自分の遺体は見当たらない。
夢なのか、それとも魂が野良猫にでも乗り移ったのか。。。

まぁ、猫として気ままに生きていくのも良いだろう。
そう考ポジティブに考え歩き出した。

少しすると雨がポツポツと降り始め次第に大粒へと代わり、やがて土砂降りになった。

近くに雨宿りできるようなところは無く、仕方がないので、ずぶ濡れになっても歩き続けた。
しかし一向に雨が収まる気配もなく、どんどん雨は強くなり、風も吹き始めた。

体が芯から冷え切り、目眩がし始めた。
これは死ぬのかもしれない思いつつも、ネコは濡れた冷たいアスファルトをなんとか歩いていた。

少しすると、一台の車が後ろから通り過ぎて行った。
普段こんな状態であれば、初めは助けてくれと下手に出てみて、ダメそうなら脅したりしていたが、こんなずぶ濡れの猫ではそんな事もできやしない。
そんな無謀なことを考えて、猫である自分の非力さを思い知り、もう死ぬのだと諦めていた。

すると、通り過ぎた車は数十メートル先で停車し、助手席から喪服を着た女が降りてこちらに傘をさして歩いてきた。

女は猫を抱き抱えて車へと戻った。
車の中には、喪服を着た大人たちと子供達が座っていた。
どうやら葬式後の帰り道らしい。

子供達は、ずぶ濡れでブルブルと震えている猫をなんとか温めようとティッシュで体を包んでくれた。
車内の温度と、ティッシュのお陰で寒さを凌いだ。

自宅に着くと、子供は猫を抱えてストーブを着けてその前にそっと置いてくれた。
そして、牛乳を薄皿に注ぎそれを一緒に置いてくれた。

猫になって初めてうけた施しどころか、男にとっては今まで生きて中で初めて受けた施しであった。
物心ついた時には、既に1人で引き取られた親戚の家では暴力が絶えなかった。

お前は汚い。お前は頭が悪い。何も喋るな。
この家が不幸になる。頼むから早く消えてくれ。
そう言われ続けてきた。
何が理由で自分がそう言われているのか検討もつかなかった。
とにかく居心地も悪いし、まともに家で食事をしたことがない男は猫となり、拾われた今が1番幸せだと思った。

少しすると、今日あった葬式の話になった。
「お兄ちゃんはなんで死んじゃったの?」と末っ子が率直な疑問を投げた。
母親は少し困った表情を見せたが、それに答えた。
「お兄ちゃんはね、誰かに殺されたのよ。でもまだ犯人は捕まってないの。」
そう言うと母親は泣き崩れた。
次男は、末っ子の頭をポカンと殴り、「バカ」と末っ子に向け言い、涙を流していた。

こんなに優しい家族が不幸に見舞われるなんて本当に世の中はなんで理不尽なのだろう。
男は、お兄さんを殺した人物なんて死ねば良いと思った。
他人のことに対して、そう言った感情をもつのは男にとって初めてだった。

男は、家の中を散策し始めた。
リビングを抜け、少し行ったところに日当たりが良さそうな場所を見つけた。
一休みしようとそこへむかった。

どうやらここは、通夜を行った場所なようで、そばには仏壇があった。

その仏壇に飾ってある写真をみて、男は絶句した。

男が殺したのは、なんとこの家族の長男であったのだ。。。
なんてことをしてしまったのだろう。
男は初めて後悔をした。

救ってくれ、施しを初めて受けたこの家族の幸せを祈ったというのに。

その時、視界がぼやいだ。
少ししてその視界は元通りに戻った。
しかし何かを、忘れている気がする。

猫はあくびをして、縁側で日向ぼっこをし猫として生きていくのであった。






最後まで読んでいただきありがとうございます。

また少しずつ投稿していくので是非また読んでくださるとありがたいです🙇‍♂️

それではまた!

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