見出し画像

「ものかたり」8年目。いちギャラリーから地域に必要な「ミュージアム」に!


「ものかたり」は冬休みを終えて8年目を迎える。
世界に先駆けて人口減少が進む高齢社会・秋田県五城目町で「文化芸術活動を自給自足する(=縮小する公共予算を頼らずやっていく)!」と息巻いて立ち上げたアート・ギャラリー。勢い半分のスタートにしてはありがたいご縁で企画に恵まれてきたけれど、目指すはいちギャラリーの成長ではなく、実は「ミュージアム」。大げさに言えば地域に必要な”仕組み”として育つこと。
息の長い仕事になるので、勢い任せで息切れしないよう、じっくり地力を蓄えるべしと、昨年は展覧会をはじめて自主企画した。

企画展を走り切ってよかったのは、自分たちの力量と宿題がよりクリアに見えたこと。丸7年でこの現在地は野望に対してマイペースに過ぎる気もするし、さすがに焦りを覚えることも。
それでも、さまざまな事業で関わる方々の多大な支援に生かされ、アドバイスに視野も広がってきた。課題が山積みの地域でそもそもミュージアムが必要とされるのか?小さなギャラリーが、そんなだいそれたことを掲げるのか?無謀ではないか?という迷いも徐々に晴れてきた。
ふんどしを締め直して、「ものかたり」の向かうべきゴールに突っ走る準備の年にしよう。

ものかたり2023は?

ものかたりは「もの」の「語り」に耳を傾けられる場所です、と人に説明するが、これは「ミュージアム」の本質を言い換えた造語。

地域の「ミュージアム」となるべく突っ走るわけなので、博物館施設の基本活動【収集・研究・展示・教育】に相応な活動形態を展開していきたい。

収集/展示
自主活動の柱として年間数本の企画展を行う。収集活動については、作品や研究対象をコレクションする方針はまだ無いけれど、たとえば『サイネンショー展』のように収集と展示が混在した企画を定番化する。いわゆる美術にとどまらない表現活動を受け容れる場でもあり続けるため、こんなスペースの使い方があるのか!と気づきをもらえるような持ち込み企画をこれからも受け入れる。

研究/教育
昨年から動き出したレジデンス・プログラム『まれびとレジデンス』がリードする活動領域として(まだ紹介できて無いですが稿を改めて詳しく…!)。ものかたりでは当面は五城目、秋田、東北のフィールドを研究対象と定めて、滞在アーティスト等(ものかたりでは「まれびと」と呼ぶ)と協働して調査活動、さらに調査の成果から着想したアート教室を実践する。

「ミュージアム」って美術館?博物館?

「「ミュージアム」って美術館?博物館?」というツッコミについては、いずれ活動が育つにつれて顔立ちが分かりますとだけ答えておきたい。いまや両者の境目は曖昧なグラデーションになっているし、根っこをたどればどちらも「ギャラリー」に行き着く(貴族の邸宅の回廊=ガレリア(galleria)が語源。博物館の前身は15〜18世紀にヨーロッパで流行した珍しい博物を陳列するギャラリー「驚異の部屋」)。

ただし目指す未来のイメージはある。まだ訪れたことはないがコペンハーゲンにあるルイジアナ美術館(見出し画像)。「世界一美しい」と称される美術館は、もと個人宅で、40年以上かけて増築を重ねているそう。税金を注ぎ込んで短期間に建ってしまうような公共施設ではない、マイパブリックのミュージアムはこのくらいの時間軸でじっくり育った方がいい。以前暮らした四国、関西でも強い感銘を受けたのは成長し続け、地域に好い影響を及ぼしている私立の美術館だった。となるとやはり美術館?

それから、ミュージアムショップ。“五城目というミュージアム”の体験を持ち帰れるお土産、これも絶対に必要だとかねて妄想しながらも自社開発するにはいたらず。けれども7年経ち、近隣にはまちの日常の楽しみ方を一段階(いや数段階!)引き上げてくれたお店(カフェ、酒蔵直営のテイスティングルーム、革工房兼ショップなど)がある。おおいに他力本願で、他所に持っていきたくなるお土産開発に着手したい。

みちひらき2023は?

ものかたりを運営するみちひらきでは、ものかたりが自走できるよう事業モデルの再構築を最優先に。そして同時に新たな事業領域に踏み込む一年にもなる。
具体的には仲間と協働して町中心部の宿づくりに携わっていく。朝市や酒蔵など時代を越えて受け継がれる文化が現存するエリアであり、まれびと〜の滞在スペース運営などものかたりの活動とも密にリンクしながら進めていく。
これももちろん宿泊業にとどまらず、町の歴史をリスペクトしながら新たな文化をつくり、次世代に手渡すための、長い道のりが待ち構えているに違いなく。
瞬発力は低いけど気長な仕事が好きな会社なのです。
関わる人の「想像」と「創造」を引き出す“余白”をまちにつくる、という考え方を真ん中に置いて取り組みに貢献していきたい。

そして根っこにあるのは、文化と経済の両輪が支え合う文化経済圏の形成。
五城目の文化経済圏を目指して!

2023年3月30日
小熊隆博(ものかたり主宰)