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足りないものから物語は始まる

私たちはいつも下ばかり見て歩いていた。


「あと1ヶ月位で保育園に入れようと思ってるんです、、」3人目がお腹にいるママは帰り際に教えてくれた。

なんとなくそう思っていたものの「そっか、彼女とのこの楽しい時間も終りが来るんだなぁ」と寂しい気持ちになった。


毎週金曜日の午前中に遊んだ女の子。

春には春の、夏には夏の、秋には秋の、冬には冬の、お花や葉っぱを集めて遊んだ。

私たちのルールは落ちた物は貰ってもいい。たくさん生えている雑草のような類いは「貰いますね」と草花に一声掛けて一本だけ貰う。(たまにもっと貰う時も)

「今日は何を発見するでしょうかっ!」と。

なので自然と下ばかり見て歩くようになった。

彼女の感性は素晴らしく、サルスベリの花がいっぺんに落ちてピンクの絨毯のようになったのを見た時に驚いて「これは○○ちゃんの為に落としてくれたの!?」と感激している様子は忘れられない。

雨が降れば雨水を集めて歩いたり。その一つ一つが彼女との物語になっている。

そして彼女はとてもクリエイティブだった。

ある時私の持っていった色鉛筆の黒が無い事に気づいて「どこに行っちゃったの?」と聞かれたので「どこだろう?迷子かな?」と思いつきで応えると、彼女の中に「迷子の黒くん」が動き始める。

なので、私は画用紙に黒くんを探しに行く色鉛筆君たちを書き始める。そこから二人で作る物語になっていく。

二人の絵本作りがブームになった最初かもしれない。

私はレオ・レオニが大好きなので、美術館に行った時に「青くんときいろちゃん」のバッチを買ってリュックに付けていた。

青丸と黄色丸のバッチなんて知らなければ何だかさっぱり分からないものでも、彼女はいち早く「あっ!青くんきいろちゃん!」と気付いてくれる。

数週間して、気づいた時に青くんだけ無くなっていた(これには私もしょんほりだった)その事にもすぐに気づき「青くんどこに行っちゃったの?」と彼女もしょんほり。

私はまた「青くんがどこにいるか考えよう」と画用紙に書き始める。

そして画用紙の中の青くんはきいろちゃんに見つけて貰えて二人は仲良く一緒に暮らすのです。

この物語はいつしか彼女のお気に入りのひとつになった。

それからしばらくして、良く行く雑貨店がレオレオニとコラボをして色んな雑貨を出していた。そこに青くんきいろちゃんが重なって一緒になったキーホルダーが売っていた。

「これは彼女がきっと喜んでくれるはず!」と買って早速リュックに着けた。


気付いてくれるかワクワクしながら待つと、気が付いてあっ!!と言って喜んだ。

でも、それきりだった。

私は「あれれ?」あんなに1人ぼっちになったリュックのきいろちゃんには毎回声をかけてくれてたのに、、


そしてハッとした。

そうか一緒になっていたなら、もうそこでお話しは終わり。

色鉛筆の黒くんも、青くんも私のおっちょこちょいのせいで足りなくなって、でもそこから物語が始まって行ったのだ。

彼女はそれを私に教えてくれた。


足りないもの、それは無限に拡がる宇宙。


最後の日、帰り際にママに(こんなご時世なので)「ギュっと抱っこしてもいいですか?」と聞いて彼女をギュっとした。がまんしていたけど涙が溢れてしまった。彼女は「○○ちゃんを連れて帰っちゃうの?」と言い、私は泣きながらブッと吹き出してしまった。「連れて帰りたいけどパピーとマミーが寂しくなっちゃうからねー」と下ろした。

このシッターの仕事は子どもが大きくなればお別れの時が来る。それは喜ばしい事。

彼女の物語をまたいつか聞ける時が来るかもしれない。


実はこの後、妹ちゃんも交えた余韻の時間がしばらく続いたのはサッカーのルールは分からないけど、あのおまけの時間みたいで幸せだった。

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