とある第4種接近遭遇者のインタビュー
それは海外の動画だった。英語で行われたインタビューだった。
元々、どこかのTV番組で撮影されたインタビューなのだろう。それがネットに流れている。若い男女のインタビュアーが、インタビュイーの若い女性から話を聞く。そういう構成だ。
「……それで、あなたの恋人は宇宙人なのですね?」
白人男性が尋ねると、その白人女性は恍惚とした表情を浮かべた。普通ではない。
「ええ。彼は宇宙人よ」
もう一方の白人女性が、あからさまに何だこいつは?という目で見ていた。
「……二人は、どのような経緯で出会ったのですか?」
その白人男性の司会者は、心からの笑顔さえ浮かべて、尋ねていた。まるで、ごく普通のありふれた会話であるかのようでさえあった。もしかしたら、どうでもいいのかもしれない。
「あれは星降る満天の夜でした……」
その白人女性は、宇宙人について多くを語った。とある第4種接近遭遇者のインタビューだ。アメリカ西部では割とありふれた聊斎志異かもしれない。だが最後に彼女は言った。
「……私達はその日の夜、永遠に結ばれました」
司会者の白人男性は、笑顔を浮かべたまま、内心の動きを露出させるという離れ業をやってのけた。もしかしたら、激しく嫌悪していたのかもしれない。
「おめでとうございます。幸せですね。羨ましい」
だがその男性司会者はプロだったのかもしれない。インタビューを完璧に遂行していた。
それに対して、女性司会者は引いていた。顔が青ざめて、ドン引きさえしていた。
「……そこには信じられないような快楽がありました」
会話が怪しい方向に流れた。場が凍る。
「それは彼との行為の事を言っているのですか?」
確認のため、男性司会者は尋ねた。無論、番組の倫理規定には注意を払う。
しかしこれは余計な一言だったかもしれない。
「ええ、それはめくるめく、信じられない〇ックスでした」
慌てて、女性司会者が止めに入った。これ以上、彼女に話をさせてはならない。
「そろそろ、お時間が迫って来ました。残念ですが、またの機会に、お聞かせください」
恐らく番組の趣旨から、外れていたのだろう。恋人同士の惚気話をインタビューするのが番組の目的らしかった。無論、現代の話なので、その対象は広く、単純に限定されない。
「……彼は言ったわ。科学に従え。FTS。共に人類の未来を築こうと」
第4種接近遭遇者はそう最後に言っていたが、二人の司会者に促されて、押されるように退席していた。彼女は最後まで、心を奪われたかのようにうっとりしていた。
その捕食型宇宙人は、衛星軌道上の宇宙船内で、その動画を見終わると嗤った。
愚かな地球人に、ちょっとしたドッキリを送りつけてやった。意味が分からなくて、間抜けな顔をしている。傑作だ。自分たちが何をされているのか、全く分かっていない。
あの女は家畜だ。手元に置いて飼育している。幸せで一杯だ。快楽と幸福の絶頂で捕食して、魂を喰らう。それが目的だ。他にも子供とか老人とか沢山飼っている。グルメだ。
その捕食型宇宙人は、魂喰いのグルメを自称していたので、この宇宙船は家畜の農場でもあった。アブダクションされた地球人は、みんなうっとりした表情を浮かべて、捕らわれている。
彼らは夢を見ているのだ。捕食型宇宙人は、彼らが見たい夢を見せている。
現代の地球人は、欲望をコントロールする術を持たない。だからその捕食型宇宙人がテレパスする初歩的なマインド・コントロールにさえ、簡単に騙されて、堕ちてしまう。
昔の地球人であれば、心の修行をしていたので、自分の欲望をコントロールする術を知っていた。だから逆に跳ね返せたかもしれない。だが今の地球は神秘が衰退して、科学技術が覆い尽くしている。この捕食型宇宙人が、現代の地球人に介入するのは容易だった。
Follow the science(科学に従え).
結構な事だ。科学技術なんて幾らでも教えてやる。
どうせ理解できないから、初歩的な技術しか渡せないが。
今地上を飛んでいる第五世代戦闘機のステルス技術なんて、UFO技術の下位互換でしかない。あれでも地球人は努力して、UFO技術を獲得した気でいる。ちゃんちゃら可笑しい。
ちょっと教えてやれば、奴らはありがたがって、幾らでもお目こぼししてくれる。
そのおかげで、この宇宙船は、その捕食型宇宙人の家畜農場となっている。
だがあまりやり過ぎると、時空管理局に見つかって、捕まるので、気を付けないといけない。自分は馬鹿な地球人とは違うので、程々を知っている。これでも欲望をコントロールしているのだ。自制心を知らない者は、宇宙でも滅びる。それは道理だ。だがグルメなら見逃される。あまりに美味しいので、神に隠れて食べる。ナプキンで全身を隠して食べる淫らな食事だ。
念のため、地球人にも気を付けて、手は打っている。万が一、こちらの存在に気が付いて、反撃してくる可能性がない訳でもない。地上の人間はいつだって愚かだが、地球にも神はいる。要注意だ。やり過ぎると追跡されて、地球から排除されるだろう。
下級神の類であれば、撃退できない事もない。こないだは三人かがりで不覚を取ったが、エネルギーをフルチャージして全力全開で行けば、地球の下級神など恐れるに足りない。
仙人など所詮は名無しの役職神だ。人々に信仰されていない。人気がない。だから力もない。
だが名前がある中級以上の人格神には勝てないかもしれない。
特に人気が高い女性の神とか苦手だ。人々に信仰されているので、勝てない。力がある。
億の単位で、地上の人間にその名が知られていて、今も人気が高い女神とか聖女は、この捕食型宇宙人でも勝てない。集めているパワーが違い過ぎるからだ。
これは単に欲望に染まっていないとか、そういう問題だけでもない。無論、同じようにパワーを集めれば、力押しで勝てる可能性は残されている。この宇宙は力でできているからだ。
現実的な対抗策としては、地上に支援組織を作る事だと、この捕食型宇宙人は考えている。
そのためには人を集めないといけいない。この捕食型宇宙人は、今の地球を見て、人々が賛同しやすい考えを集めて、とある団体を作った。
その団体の名はFTSだ。ずばり、Follow the science(科学に従え).そのまんまだ。
シアトル・デュナミス社というIT会社もアメリカ西海岸に立ち上げて、支援している。
地上で、自分の手足となって動く人間や機械が必要だからだ。
この捕食型宇宙人たちの地上侵攻計画はまだ進んでいないが、橋頭保を築く事は許されている。今のところ、地上で人間同士を戦わせて、漁夫の利を取る。それだけの話だ。
それにしても、80億にまで膨れ上がった地球人類の欲望は飽く事を知らない。
特に今の地球の政治家など、自分の欲望を押さえ切れない。だから際限ない支配欲、金銭欲、その他諸々を零している。そこに忍び寄れば、容易に取引可能だ。そこに善悪はない。
そもそも善悪が分からないので、そんなものはないと思い、自分にとって都合がいい事ばかり考え始める。善か悪か分からないのだから、損か得か、効果的か効果的でないかで、物事を判断するようになる。当然の帰結だ。そして時局を読む者がトリックスターになる。
トリックスター、それは人気者の別称だ。善悪がなければ、ないほど人々に喜ばれる。
昔から善悪を教えるのは宗教だが、これを破壊する。徹底的に撲滅する。それがこの捕食型宇宙人の目的だ。宗教は非科学的な事ばかり述べるので、今の科学主義に反しているのでちょうどいい。地上の人間たちは喜んで賛同するだろう。味方は多い。神殺しの偉業だ。
教えを破壊したり、歪める事は簡単だ。だが人気というものは抜きがたい。
たとえば、今地上で流行っているこのソーシャル・ゲームというものは中々厄介だ。
キャラクターと称して、過去の地球の歴史に現れた知名度の高い人物を取り上げる事が多く、中でも聖女とか女神の名前を、再び広げている一面がある。
その捕食型宇宙人はスマホに触れると、ジャンヌ・ダルクのカードをめくった。
その名前は、どのゲームでも人気が高く、今でも衰えを知らない。
キリスト教圏を超えて広まっている。昔は聖母マリアかマグダラのマリアが有名だったが、今ではジャンヌ・ダルクの方が有名かもしれない。もう第三位ではないかもしれない。
この捕食型宇宙人は、どうやったら、この女たちを汚して、なすりつけて、貶められるか、日々考えている。妄想している。その人気を失墜させてやりたい。
たとえば、こんな風に、夏の水着キャンペーンを実装して、ジャンヌ・ダルクを水着姿に変えてみたりする。これで彼女を汚せればよいが、逆に人気を引き付ける結果にもなっている。
この女たちは、どうにも抜き難く、汚し難い。何とかならないか?
その捕食型宇宙人は、ジャンヌ・ダルクのキャラ・カードを再び見た。
彼女は、本当に神秘的な物語で彩られている。キリスト教の歴史は二千年あるが、修道院から出た聖女は数多いが、戦場から出た聖女はジャンヌ・ダルクただ一人だけだ。
その特異性は、他の聖女たちと比べても、頭が一つ抜けている。
運命の人という意味では、マグダラのマリアも特異性がある。元娼婦で、かの人に対する特殊な奉仕プレイで、聖女に昇格したが、その光景を見て嫉妬し、裏切りを決意した者もいた。
聖女の誕生と引き換えに、キリスト教最大の裏切り者が発生したので、これは運命のバーター、交換条件なのかもしれない。いつだって、強い光の下には大きな影が生じる。
その捕食型宇宙人は、ジャンヌ・ダルクのキャラ・カードを閉じた。
目下障害となっていないが、一度目を付けられると大変だ。神に隠れて、ナプキンの下で食事ができなくなる。美味しいのでやめられないのだが、自分が滅びてしまっては元も子もない。
とにかく、力の源泉は人気。そして人々から信じられる事、尊敬。さらに信仰である。あとは魂喰らいでもやって、強引に集めるしかない。要するに人気、尊敬、信仰の三段階がある。
地球人類という単位で見れば、最大の人気者は、三大宗教の開祖たちとなるだろう。
知名度、人気、信者の数で言えば、今でも圧倒的と言わざるを得ない。
だが今は科学万能の時代だ。少なくとも、地上の人間はそう思い込んでいる。
そこに、この捕食型宇宙人がつけ込む隙があると考えていた。勝ち目があると考えていた。
まだ地上侵攻作戦は上から許可が下りていない。機は熟していないだろう。だが橋頭堡を築いて、準備を進める事は許されている。時が来れば、地上人類を一掃する。地球乗っ取りだ。
他の宇宙人にも注意が必要だろう。今、地球には数多くの宇宙人が訪れているが、捕食型宇宙人、レプタリアンは強力な種族であるが、最大最強ではない。他にも強い奴らはいる。
こないだその中の一人が独走して、人類に公式接触を試みた馬鹿がいた。日本の空軍基地にUFOで降りて、何か伝えようとしていた。愚か者だ。協定違反は重罪となる。
今のところ、全ての接触は非公式、水面下でしか許されていない。全てはテーブルの下で行わる足遊びに過ぎない。だからこの捕食型宇宙人は、この星にずっと張り付いている。
科学文明で自己家畜化した人類など、赤子の手を捻るが如くだ。社会性を捨てて、修行に明け暮れる変人はもういない。だが最近の欧米の調査で気になる事がある。僅か0.01%に過ぎないが、ジェ〇イの騎士と宗教欄に書いている者がいる。まさかフォースを信じているのか?
どこまで本気か分からないが、たとえ人口の0.01%でも、〇ェダイの修行をやられると、何かの間違いでフォースを獲得する可能性がある。あれはSFだが、モデルは存在する。
まさかそんな事はあるまいと、その捕食型宇宙人は独り嗤うと、宇宙船のとある部屋を開いた。そこには無数のどろどろが蠢いていた。捕食して排泄した魂たちだ。そのレプタリアンは、凄絶な笑みを見せると、UFOを降下させ、地上に向かって、どろどろを解き放ち始めた。
『シン・聊斎志異(りょうさいしい)』エピソード29