黒ギャル改め淫魔サキュバスに魔界転生!魔法少女を倒せ!
その捕食型宇宙人は、ガ〇ラス型ワイングラスを片手に、衛星軌道上から地上の戦闘をモニターしていた。ミッションは、黒ギャル改め淫魔サキュバスに魔界転生!魔法少女を倒せ!だ。
画面では、マグダラのマリアに教導されたパパ活女子大生改め魔法少女が戦っている。悪人正機説で戦う浄土真宗系魔法少女らしい。ふざけた女だ。地球人など低レベルな科学文明で、自己家畜化した劣等種族に過ぎない。いつかこの星から駆逐してやる。一匹残らず。
淫魔サキュバスは圧倒的な呪いの力で、魔法少女を追い詰めていた。
どちらも元パパ活女子大生だ。
片方は聖女に導かれて魔法少女になり、もう片方は悪魔に導かれて淫魔になった。
あの黒ギャルは、六本木で悪魔営業をやっている地獄ホストから借りた。
ちょっと科学技術で肉体を改造しているが、淫魔サキュバスに魔界転生させた。
増幅された闇の力で、呪いのパワーを爆発させる。
サロンで焼いたチョコレート色の肌に、青いアイシャドウ、青いマニュキュア、青のカラーコンタクト。日本人だが、胸がでかく、圧倒的だ。1メートルを超える。
紐のような黒水着を身に纏い、背中から黒い翼を生やし、悪魔の黒い尻尾が伸びている。そして全身に淫紋を走らせている。タトゥーは怪しくピンク色に輝き、特に下腹部のそれから強い男殺しの呪いを放っている。全生命エネルギーを色気に転化して、男を惑わすのだ。
その捕食型宇宙人は、完成した淫魔サキュバスの出来に満足していた。まだプロトタイプに過ぎないが、この計画が軌道に乗れば、順次量産してもよい。零号機だ。あるいはあの魔法少女も捕らえて、初号機にしてもよい。シリーズ化してコレクションしようか。
捕食型宇宙人は、画面を眺めながら、地上の戦闘の行方を見守った――
「……マドカ。よくもワタシを裏切ってくれたね」
その黒ギャルは、淫魔サキュバスに魔界転生していた。メートル級の左胸には、黒いバーコードが貼られ、耳にイアリングのように黄色い家畜タグがついている。お尻から矢印型の尻尾が伸びていた。右尻には「零号機」とブランディングされている。管理飼育されていた。
「裏切ったとか心外だよ……足を洗っただけだよ」
正直、マドカは引いていた。よくもここまで凄い姿をしているものだ。これだったら裸の方が幾分ましだ。もはや同じ人間とは思えない。いや、もう人間ではないのかもしれない。だが相手は肉体を持った生身の姿だ。それはこちらも同じだが……。
「ワタシのターン!」
淫魔サキュバスは突如、高らかに宣言した。スマホを掲げる。
「え?なになに?」
その魔法少女は怯えた。だが現代戦はいつもサイバー空間から始まる。
淫魔サキュバスは、マドカのSNSのアカウントを炎上させた。
パパ活女子大生だった時、使っていた裏アカウントを特定して、世間にバラしたのだ。
「あ~私の青い鳥が!」
見事に火の鳥になって堕ちていた。
表アカウントに裏アカウント情報が紐づけされて、マドカの交友関係が一瞬で壊滅した。
大学の友人たちが立ち去り、代わりにまたパパたちが帰って来た。定額の報酬を持ちかける。
この精神攻撃はこたえた。社会的死だ。どうしてくれよう?
二人のコスプレ女子大生は、深夜の路上で、必死になってスマホを操作していた。
――大丈夫だ。問題ない――
不意にニートが自らのスマホの画面を見せてきた。
それから荒らされたアカウントの修復作業に取り掛かる。
コメ欄に反論を投稿し、何とこの戦いを動画で撮影して、アップロードし始めた!
――悪行から足を洗って、正義に目覚めたというなら、この戦いで証明してみせろ!――
「ちょ!サトル君……」
あまりの展開の早さに、マドカは目を回していた。だが敵も追撃の手を緩めない。
「死ね!マドカ!」
淫魔サキュバスは、スマホのメールアドレスに、直接dos攻撃を仕掛けてきた。大量のメールが送られて来る。すると白猫のルルが苦しみ始めた。もがいている。
「え?どういう事?」
マドカは慌てた。意味が分からない。
――そのスマホはマドカの変身デバイスだ。ルルも繋がっている――
ニートが解説した。いつの間に、そんな事まで知っていたのだろうか?推測か。
メールを見ると、JavaScriptで書かれた死のコードが書かれていた。If, then, elseでバッドエンドしかない。呪いだ。そう言えば、あの黒ギャルは、大学で情報処理科にいた。
淫魔サキュバスのスマホが怪しく光っていた。向こうもスマホが変身デバイスで、何にでも使える武器に転用できるようだ。あれも悪い宇宙人の科学技術なのか。一種の呪物か。
――マドカ!反撃だ!攻撃こそ最大の防御だ!――
ニートがスマホの画面をマドカに見せてくると、今度はマドカのスマホのdos攻撃を逸らすために、メアドを変えた。一時的に攻撃が止み、白猫のルルが立ち上がった。
すると淫魔サキュバスは、急にニートに向かって走った。童貞を奪いに行った!
「何やっているの!」
マドカは瞬時にファンシーステッキに星の光を瞬かせると、シュートした。
光の弾が着弾して、淫魔サキュバスは、組み伏せていたニートから離れた。
「……今、怒ったね。闇の波動を感じた」
起き上がった淫魔サキュバスは、怪しく微笑んだ。
正義の魔法少女は、いついかなる時も、怒ってはならないと、マリーさんから言われている。魔法少女に許される事は、人々と共に涙を流して悲しむ事であり、間違った人々に対する教導の怒りしか許されない。それだけこの力は危なく、簡単にダークサイドに堕ちるらしい。
「さぁ、怒れ!憎め!」
「あなたこそ、目を覚ましなさい!」
マドカはステッキを捨てると、黒ギャルの頬を平手打ちした。
深夜の街角に乾いた音が響く。淫魔サキュバスは、ぺっと唾を吐いた。
「所詮、ワタシたちパパ活女子大生には肉体言語しか許されていないのよ」
「……そういう言い方はしない!」
それから二人は、取っ組み合いの喧嘩を始めた。ポカポカと殴り合い、モクモクと煙が上がる。時々、二人の手足や顔が見えた。キャットファイトだ。
いつしか疲労して、二人は一旦、距離を取った。そして互いに睨み合う。互いに手詰まりに陥っていた。だがマドカは不利だった。今日は聖女のサポートがない。
「ワタシ、マドカが嫌い」
淫魔に堕ちた黒ギャルは言った。眼が燃えている。
マドカは何も言わなかった。黙って見ている。
「……あなたはいつでもどこでもいい子ぶる」
淫魔サキュバスは言った。元々二人は、同じ大学で同じ学年だった。学部は異なる。
二人とも、二年生まではオタサーの姫だった。平和だった。居心地が良かった。
それぞれ別のサークルで、姫を張っていた。だがeスポーツ系の大会で、この両サークルが接触し、たちまち人間関係が空中分解した。今となっては、理由はよく分からない。
男か。見栄か。あるいはその両方か。二人が変わったのは確かだった。
次は六本木で遭遇した。パパ活だ。この時、二人は休戦した。情報交換した。互いに利益を求めた。別にパパたちを愛していた訳ではないので、今度は争いにならなかった。
だが勝手に抜けるのは許せない。よく分からない女も連れて来て、パパ活情報網も壊された。
「何が正義の魔法少女よ!ただのパパ活女子大生じゃない!」
「……確かに以前はそうだったけど、今は違うよ」
マドカは静かに首を横に振っていた。黒ギャルはこちらを見る。
ニートは、メートル級の胸囲に惑わされて、まだ転がっていた。役に立たない。
代わりに白猫のルルが立ち上がり、前足でニートのスマホで動画の撮影を継続していた。
「パパ活なんて止めよう」
マドカは言った。だが黒ギャルも言った。
「所詮、この世はガチャよ。マネーゲームよ。パパ活でマウントを取って何が悪いの?」
「……マリーさんに言われたでしょう。そんな事をしていると、あなたの運命が狂うって。あなたが神様と約束した大切な人とも逢えなくなるって」
マドカは、運命の赤い糸的なものを信じている。そういうものはあると感じた。
「約束した人?そんな人はいない。今、ワタシの目の前にいるのは彼だけ」
「……あの男ね」
ホストがいる。かつて都内第一のIT営業と呼ばれ、今は六本木の帝王だ。
悪魔営業の二つ名を持つ。異常なまでに状況を読む力が高く、裏社会にも影響力がある。
「それにワタシはもう、パパ活なんかしなくても、生きて行ける」
淫魔サキュバスに堕ちた黒ギャルは、ソフマ〇プのポーズを決めて、ハートを飛ばした。効果は抜群だった!悩殺されたニートが、目を真っ赤に光らせて、ゾンビの如く立ち上がる。
マドカはすぐにステッキでポカリと殴り倒して、ニートを正気に戻した。
――は!自分は今一体何を?メートル級の胸囲が見えて――
まだ術中に嵌っていた!魔法少女は鋭く淫魔サキュバスを見た。
「……欲望を焚き付けて、人を操るんだね。許せない」
不意に淫魔サキュバスの口から忍び笑いが漏れた。邪悪に口角が上がる。
「そうよ。人類なんて家畜で、欲望の塊。よく燃える。ワタシは炎上する人を見ながら、エナジーを吸い取るの。ああ、美味しい。胸がすーっとする」
ぞっとした。時折、口が裂けて見える。まるで口裂け女のようだった。
「……あなた、いつもとキャラが違くない?」
何かが取り憑いて、操っているようにも見えた。影が二重写しに見える。
すっと黒い影が離れて、立ち上る。それが大きくなり、2メートルを優に超えた。赤い口が大きく開いている。あれは六本木のホテル街で見た。神に隠れて食べる淫らな食事だ。
「こんばんは。お嬢さん――」
捕食型宇宙人が立っていた。レプタリアンだ。グルメで人魂を捕食して、排泄する。人類の敵だ。ふとそれは、どこか風流な仕草で、夜空を見上げた。月は出ていなかった。新月だ。
「――ああ、こんな夜は、魔法少女を堕として、食べたいね」
魔法少女は一歩下がった。二歩下がった。マドカは前を向きながら、後ろの白猫に言った。
「ルル逃げて、マリーさんに知らせて」
白猫のルルは頷くと、夜の街を走った。捕食型宇宙人はそれを見ると、目を細めた。
「さぁ、零号機。そのお嬢さんを捕まえて、夜を楽しみましょう」
捕食型宇宙人がマントを広げると、赤黒い触手が伸びて来た。マドカの悲鳴が響く。
ニートは、メートル級の胸囲に惑わされて、まだ一人で路上に転がっていた。
『シン・聊斎志異(りょうさいしい)』エピソード40