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[書評]内藤裕二監修の近著
腸内フローラを健康に保つことは心身の健康につながる
腸内フローラを健康に保つことが体の健康・心の健康・健康長寿につながるというテーマが一貫して追求され、そのための実践的アドバイスに満ちた本だ。
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内藤裕二監修の本で、そのアドバイスを元に、実際の執筆は編集集団がおこなったのだろう。
読みやすいといえば読みやすいし、多くは見開き2ページ単位の記事が集められている。
しかし、ある主旨を一貫した文章で叙述したような書物を期待すると、肩透かしをくらうかもしれない。読後感は、ブログ記事や、ムックなどの細切れの文集のそれに近い。
冒頭に挙げたテーマが繰返し出てくるのだが、それにしても繰返しが多すぎて、書物としての読書の手応えが乏しい。
繰返しは記憶には役立つという側面はあるが、本はその気になれば気になる箇所を自分で繰返し読めるので、これほど繰返してもらわなくてもよい。分量としてはこの半分のページ数で同じことが言えるだろう。
まとまったデータ等を参照したい場合には、内藤裕二ら共著の『腸すごい!』のほうが便利だ。
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本書は、参考になる有用な内容は多い。
腸内に約千種類の腸内細菌がすみついて「腸内フローラ」という生態系を形成している。
この中で、腸に入った食物繊維をエサにして体に良い働きをする物質をつくるのが有用菌。脂肪や糖分をエサに体に悪い成分または不要な成分をつくるのが悪用菌。
このとき、有用菌の場合は「発酵」が進み、悪用菌の場合は「腐敗」を起こす。
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有用菌である乳酸菌とビフィズス菌の違いについて。
ビフィズス菌が大腸ではたらくのに対し、乳酸菌は小腸ではたらくこと。そして、小腸にすんでいる腸内細菌は、生きた菌でなくても(死菌でも)、免疫効果を高める、コレステロール値を下げる、がんを抑制する、アレルギー性の炎症作用を抑えるなどの効果を発揮します。(34頁)
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最近注目されている有用菌のアッカーマンシア菌について。
アッカーマンシア菌のエサはポリフェノール。(82頁)
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健康のために本書で薦めている油は、オメガ3系とオメガ9系。前者について。
オメガ3系のえごま油やアマニ油は熱に弱いので、サラダなど火を通さない料理に使用すると良いですね。(98頁)
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睡眠と腸との関係について。
睡眠が不足すると成長ホルモンの分泌量も低下し、その結果腸内フローラも回復されず、健康に悪影響を及ぼします。(逆に)腸内環境と脳は相関しているので、腸内フローラがバランスをくずすと自律神経のバランスがくずれ、睡眠の質が低下する可能性があるのです。(144-145頁)
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幸せホルモン「セロトニン」について。
セロトニンは、食事と腸と脳によって作られます。食べ物が腸に運ばれると、食べ物に含まれるアミノ酸の一種、トリプトファンが腸内細菌によって代謝され、セロトニンのもとになり、これが脳に運ばれてセロトニンが作られるのです。(146頁)
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このほか、海外の最新研究についてもふれてあり、参考になる。例えば、フィセチン(ポリフェノールの一種)、サプリの「セノリティクス」「NMN」や、薬の「メトフォルミン」など。
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また、腸内フローラの観点からコンビニ食を選ぶ場合の目安などのおもしろい話題もある。ラベルに「食物繊維○g」などと表示されている商品もあるそうだ。これに水溶性食物繊維についての知識があれば、かなり選択の参考になる。
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なお、水溶性食物繊維のリストは、『腸すごい!』にあるものが便利。同書では成分によるリストと含有量による50位までのランキングのリストが載っている。
前者は、例えば、コンブ、ワカメ、モズク、寒天、ナメコ、大豆、大麦、ゴボウなど。後者は、例えば、ラッキョウ、干しワラビ、きな粉、チアシード(乾)、アンズ(乾)、イチジク(乾)、オートミール、ライ麦パンなど。
本書にも、こういう総括的なデータを載せてくれれば、もっと有用性が上がっただろうと思われる。