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[書評]『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』
ビブリア古書堂シリーズの完結篇。ついに主人公・栞子をめぐる人間関係が一応の着地点を迎えることになるのか。
本当にこれで終わりだと思ったら、作者あとがきによると、今後も、書けなかった余談や副筋などの前日譚や後日譚がスピンオフの形で続くことになる。
本作はシェークスピアのファースト・フォリオ本を主軸に物語が展開する。シェークスピアの専門家が読んでも面白いのではないかと思えるくらい、興味深い面も出てくる。巻末の参考文献表は圧巻だ。
ファースト・フォリオとはシェークスピア(1564-1616)死後の1623年に劇団仲間によってまとめられた初のシェークスピア全集。
本書で(改めて)気づいた点がいろいろある。少し挙げてみる。
・没年(1616)が徳川家康(1542-1616)と同じ。日本の年号で元和2年だった。
・戯曲の題に法則。悲劇・歴史劇などシリアスな劇は登場人物の名前をつける
・900頁のファースト・フォリオを刷るのに二年かかった
・オクシモロン……撞着語法。矛盾した内容を示す表現。彼の戯曲に多い
・なんにも予定がないのが大人にとって最高の贅沢なの(五浦恵理のことば)
物語の本質的な人間関係が『リア王』のリアと道化の関係に似る。
コーディーリアを失ったリアの慟哭('My poor fool is hang'd')が引用される。リアの道化は頭がいい。物語の道化も頭がいいが、リアのセリフはある意味で暗示的だ。
五浦は栞子のパートナーとして能力が低いと智恵子に断じられるが、志田の励ましのことばが胸を打つ。
「そりゃお前は凡人だろうよ。これからの人生で、いつかあの姉ちゃんはお前から離れていくかもしれねえ……でも、それがどうした」
果たして五浦は勇気をふるって運命を切開くことができるのか。
三上延『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』(メディアワークス文庫、2017)