Irish Song-Craft and Metrical Practice Since 1600
Virginia S. Blankenhorn, 𝐼𝑟𝑖𝑠ℎ 𝑆𝑜𝑛𝑔-𝐶𝑟𝑎𝑓𝑡 𝑎𝑛𝑑 𝑀𝑒𝑡𝑟𝑖𝑐𝑎𝑙 𝑃𝑟𝑎𝑐𝑡𝑖𝑐𝑒 𝑆𝑖𝑛𝑐𝑒 1600 (Edwin Mellen P, 2003)
アイルランド語詩の韻律の体系をまとめた唯一の書
アイルランド語詩の韻律について、体系的にその分類法 (taxonomy) を記した本。現在の言語学の水準をふまえた本としては世界でおそらく唯一の書。
かつて、通称 'Torna' で知られる同様の書があった。次の本である。
Tadhg Ó Donnchadha (Torna), 𝑃𝑟𝑜𝑠𝑜́𝑖𝑑 𝐺𝑎𝑒𝑑ℎ𝑖𝑙𝑔𝑒 (Cló Ollsgoile Chorcaighe, 1925)
この本は、それなりにおもしろく、およそ百年前の言語学的観点からアイルランド語詩の韻律はどう捉えられていたかを知るには興味深い。が、どう見ても、アイルランド語詩の韻律論の歴史に関心がある専門家向けだろう。
とは言え、今でも、現役のアイルランド語詩歌の歌い手たちは、この書のような認識をもって語るかもしれない。それだけ、最新の言語学は、一般の人には縁遠い存在だ。
だからといって、今からアイルランド語詩の韻律を学ぼうという人には 'Torna' はまったくお薦めしない。Blankenhorn の本でしっかり体系を頭に入れてからのほうがいい。'Torna' の本は107ページであるのに対し、Blankenhorn の書は519ページあり、体系的に知るにはどうしてもこれくらいの分量は要る。
アマゾンなどで買おうとすると、8万円くらいするが、版元では約300ドルの定価で販売している。次のところだ。
https://mellenpress.com/book/Irish-Song-craft-And-Metrical-Practice-Since-1600/5310/
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評者は著者の Blankenhorn 氏に会ったことがある。そのときに、読みましたよ、と声をかけると、驚いた顔で、この本を読んだという人に会ったのは初めてです、と言われた。その返答にも驚いた。
評者は、本書の前身である博士論文の段階ですでに読んでいた。次のものである。
V. S. Blankenhorn, 'Irish Versification' (Doctor of Philosophy, University of Edinburgh, 1986)
だから、本書が出たときに狂喜した。今でも、世の中にこんなにおもしろい本があるものかと思っている。だが、共感の声を聞くことはない。秋風が冬の寒さを帯びはじめている。
アイルランド語詩は強勢詩であって、基本的に行あたりの強勢の数によって分類する。本書は、2強勢詩行から8強勢詩行までを扱う。また、韻の種類についても1章をもうけて述べている。詩歌の実例は、しばしば楽譜つきで、豊富に挙げられている。
アイルランド語詩歌の韻律 (「歌の韻律」と呼ぶ) に関心のある人には必読の書だ。
目次を参考までに挙げておく。
Preface; Foreword
1. ‘Tórna’ and later Editors (Rosg, Laoidh Fiannuíochta, Caoineadh, Amhrán)
2. Metrical Models
3. The Rhythm of Irish Verse
4. Two- and Three-Stress Lines
5. The Phrasal Construction of Irish Verse
6. Four-Stress Line Types
7. Five-Stress Line Types
8. Six-Stress Line Types (Rócán, Crosántacht)
9. Seven-Stress Line Types (Ochtfhoclach)
10. Eight-Stress and Longer Lines
11. Stanzaic and Supra-Stanzaic Forms (Ceangal, Trí rann agus amhrán)
12. Ornamentation
13. The Musical Context of Verse (popular song, lament-music, prayers, 17th-century Munster verse; Ossianic lays)
Appendices; Bibliography; Indices