[書評] トート神、ヒエログリフ
アルケミー『黄金比は次元を超える 第3章 トート神と天空の鏡』(2022)
第1-2章で、黄金比とルネサンス芸術、黄金比と古代遺跡の関りを見てきて、ついに、本書(分冊版第3章)で、トート神に焦点を当てる。
トート神(ヘルメス)は、本書によれば、〈古代エジプトの学問と古代エジプトの文字『ヒエログリフ』の創始者〉である。
ヒエログリフ(聖刻文字)の起源は〈5100〜5300年[前]と古く,エジプトの文明が栄えはじめたころから文字の形体が整えられていく過程が見られず,創始されたころから文字としての体系が完成されていたと考えられています〉と、著者は述べる。
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ヒエログリフの記し方は、日本語と同じく、縦書き(上から下へ)または横書き(左右どちらの方向もある)で記す。
横書きでの文の始まりは生物の視線の向きで判別する。例えば、鳥のヒエログリフが左を向いていれば、左から右へ読む。
著者は、〈ヒエログリフは鏡面反転させて読ませることができる文字〉であると、デザインの専門家らしい指摘をする。
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黄金比について分析してきた著者ならではの指摘と思うのが、ヒエログリフでの分数の表し方だ。[以下の文章でヒエログリフを使う箇所がありますが、見えない場合は無視してください。あるいは Mac や Windows の場合は こちら をご参照ください]
唇の形の文字𓂋[左の文字が見えない場合は無視してください]は、表音文字としては「r」の音を表す文字として使われるが、分数を構成する文字のパーツとしても用いられる。例えば、唇を半分に割った形の文字は分数の「1/2」を表すという具合だ。また、唇の下に7本の線を書くと、分数の「1/7」になる。
このことについて、著者は,〈ヒエログリフの分数は黄金比と深い関係があると私は考えます〉と述べる。
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と、興味深い展開になりそうな記述があり、事実、そのあとの展開はスリリングなのだが。
巻末に至って、ショックなことに、「To be continued.」となっていて、〈続く〉ことが分った。つまり、本書ではまだ完結しないのだ。
ところが、奥付をみると、初版が2015年12月22日となっていて、7年以上経過しているが、いまだに続き(2巻)は出ていない。待ち遠しい。
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本書には驚くべき記述がたくさんあるが、一つだけ書いておこう。
それは〈ウジャト(の目)〉𓂀[左の文字が見えない場合は無視してください]のことだ。目を表すこの象徴は、分数を表すヒエログリフに分解することができると、本書は述べる(この説には異論もある)。
文字で説明するのはむずかしいので、本書の図解とは左右反転した図だが、参考までに掲げておこう。
著者は、これについて〈私はこの分数の分母の数を見たとき,2, 4, 8 の数字の並びがヴィーナスのハートと同じ展開になっていることに気づきました〉と述べる。〈ヴィーナスのハート〉は、分冊第1章に出てくる、ボッティチェッリのヴィーナスの心臓の上の正方形のことだ。
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1巻の全3章を読み終わって、評者の感想を述べておくと、本書には副題に〈21世紀エメラルドタブレット〉の言葉があるのが気になる。
本書に何度も引用される〈下にあるものは 上にあるものの如し〉の出典が『エメラルド・タブレット』で、その著者はトートだとされる。ただし、この引用句は一般には、オリジナルの『エメラルド・タブレット』のほうではなく、12世紀ヨーロッパに出現した、アラビア語からのラテン語訳の『エメラルド・タブレット』に出る言葉として知られる。
この後世の『エメラルド・タブレット』の基になった原『エメラルド・タブレット』について本書が視野に収める日はいつか訪れるだろうか。
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