[書評]『万能鑑定士の事件簿 IX』
「モナ・リザ」の鑑定をめぐるミステリ。
主人公の鑑定士、凜田莉子にルーヴル美術館から「モナ・リザ」の真贋を鑑定する学芸員の登用試験を受けるよう誘いがある。日本での「モナ・リザ」展において万全を期すためのスタッフだ。万が一、「モナ・リザ」がすり替えられた際に真贋を鑑定するためだ。コンピュータ上では見分けがつかない精巧な贋作と本物の違いを見分ける直感を備えた人が求められる。
これには前日譚がある。シリーズ第5作『万能鑑定士の事件簿 V』において、莉子はルーヴルで「モナ・リザ」を見ている。そのとき、「これって……本物かなぁ?」とつぶやいているのだ。
このエピソードが本作の下敷きになっている。
莉子は正式のスタッフとなるための集中講義を日本で受け、無事終了する。
ところが、日常業務に戻った莉子に異変が起きる。今までの鑑定眼がすっかり失われているのだ。これはどうしたことか。すっかり自信を失った莉子はルーヴルのスタッフを辞退し、鑑定業も廃業して、故郷の波照間島に帰る。
莉子に起きるこの謎の異変が、本作の「モナ・リザ」鑑定と深く関係する。莉子の様子が気になった記者の小笠原は波照間島に向かう。
シリーズ中でも屈指の面白さ。
松岡圭佑『万能鑑定士の事件簿 IX』(角川文庫、2011)