[書評]『万能鑑定士Qの事件簿 XI』
「万能鑑定士」シリーズの第11作。京都が舞台。
有名な神社仏閣が多い京都で単立の貧乏寺を再興する青年、水無施瞬は東京でイタリアン・レストランを成功させた経験があるが、僧侶としての経験は全くない。ところが、住職の父に寺を継ぐと申し出る。
いざ始めてみると、寺は大評判になり、マスコミの注目も集め、観光バスが連なるほどになる。
いったいこの青年はどうやって飲食店も寺も成功に導いたのか。
貧困という逆境を商売人の脳を活性化させる最良の刺激と捉える、瀬戸内店長の教えを忠実に活かす。脈のありそうな方策をひとつに絞る有機的自問自答。出た答えを別角度から検閲する無機的検証。この二段階の複眼的かつ論理的な分析が成功の秘密だった。
この論理的思考は主人公の凛田莉子と全く同じ。同じ瀬戸内店長から教えを受けた兄弟子が水無施だったのだ。
その水無施が仕掛けたトリックを見破ろうとする莉子にとっては、同じ思考法を使う相手だけに、強敵である。莉子はいかにしてその謎を解くのか。
物語にはいつものとおり役に立つ知識が満載だが、特にボロ・アパート再生のために駆使されるヤフオク関連の知識がおもしろい。鑑定家である莉子は出品の写真を見ただけで適否をすばやく判断する。
もうひとつ、物語の底流として、仏とはなにか、という問いも含まれており、寺の経営と仏教という根本を考えさせるきっかけにもなる。
松岡圭佑『万能鑑定士Qの事件簿 XI』(角川文庫、2011)