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[書評]人間と「空間」をつなぐ透明ないのち
保江邦夫『人間と「空間」をつなぐ透明ないのち——人生を自在にあやつれる唯心論物理学入門』(明窓出版、2022)
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理論物理学者の保江邦夫氏のある意味で到達点を開示した書。唯心的に世界を捉えたら世界がどう見えるかを数式を使わずに示した書。
扱われる理論は三つ。
A 素領域理論(湯川秀樹、保江邦夫)
B ツイスター理論(ロジャー・ペンローズ)
C 量子モナド理論(中込照明)
AとBは空間の超微細構造を想定した統一理論(一般相対性理論と場の量子論を統一する)。どちらも空間の超微細構造の変化によりさまざまな場(物理量)が発生すると考える。
保江によればAを数学的に記述すればBになる。空間の最小単位を湯川秀樹は「泡」という素朴なイメジで捉え、数学者のペンローズはその泡を「ツイスター」というねじれた幾何学的構成要素として数学的に定義する。
AとBは基本的考え方は同じ。一方、一般相対性理論も素領域理論も、すべて包含した理論がC。保江によると〈人類が到達した最後の世界記述の基礎理論〉だという。
Cは現代物理学の根底に巣くっていた量子論と相対論の未解決の難問(人間の本質とは何か? 心とは何か?)を解決した理論であると保江は捉える。このCが本書の主題である唯心論物理学だ。
Cの論文(コペルニクス大学の物理学学術誌に掲載)を理解するのに5年かかったと保江は述べる。それがどれくらい高度な内容であるかは、保江著の『神の物理学』の巻末に収められた同論文の改訂版「モナド論的あるいは情報機械的世界モデルと量子力学(数理的考察)」を読んだことがある人は知っているだろう。
本書はこのCを数式を使わずに、手を変え品を変え何とかわかりやすく説明したものである。その結論部分は、本書の読者は、おおむね理解できるのではないだろうか。しかし、その数学的な意味が本書では省かれているので(含まれていれば本書は〈入門〉書にはなりえなかっただろう)、全部理解できるかというとそうは言えない。
ざっくり言えば本書は以上のような内容だが、これまで折にふれて述べられてきたAとCだけでなく、Bの説明が収められた点がありがたい。が、これもその本質的な部分は数学なので、その本質を省いた説明ではなかなか全部は理解できない。
なお、湯川秀樹博士(1949年)もロジャー・ペンローズ博士(2020年)もノーベル物理学賞を受賞している。
かれらの理論を超えるとも言える中込照明博士の論文('Quantum monadology: a world model to interpret quantum mechanics and relativity', Open Systems and Information Dynamics, vol. 1, 355-378, 1992)が理解されて正当に評価される日が来ることを祈念する。